MULTILAYER SHEETLIKE MATERIAL AND MANUFACTURING METHOD THEREFOR
【発明の詳細な説明】 PROBLEM TO BE SOLVED: To provide a multilayer sheetlike material which is easy to extrude and which has an excellent surface appearance, face impact strength and weather resistance. SOLUTION: The multilayer sheetlike material is constituted by multilayer molding of a thermoplastic resin (D) which contains a graft copolymer (A) prepared by graft copolymerization of an acrylate rubber-like polymer (G) and a monomer comprising a vinyl monomer and contains a (co)polymer (B) having a (meta)acrylate monomer unit and of another thermoplastic resin (E). The melt viscosity ratio between the thermoplastic resin (D) and the thermoplastic resin (E) is within a specific range. COPYRIGHT: (C)2003,JPO 【特許請求の範囲】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、シート成形性に優れるとともに、厚み斑が少なくかつ耐候性、面衝撃強度に優れた多層シート状物およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】ABS樹脂、ハイインパクトポリスチレン、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂は、優れた成形加工性や機械的強度を併せ持つことから幅広い用途分野で利用されている。特にこれらのシート状物を成形した成型品は、車輌や建材、電気機器等の広い分野で利用されている。これら樹脂のうち、ABS樹脂は耐衝撃性に優れるという特性を有しているが、ジエン系単位をゴム成分にしている等の理由から耐候性が悪く、屋外で曝露される用途には外観や機械的強度特性が悪化するため、その利用が制限されることがあった。これら熱可塑性樹脂材料の欠点を補うために、アクリル樹脂等の耐候性に優れた材料に変える方法があるが、シート状成形品の衝撃強度が不足し、特に面衝撃強度が低かった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】そこで近年、上記熱可塑性樹脂材料と耐候性に優れた樹脂材料との複合化や多層シート押出成型方法が検討されているが、上記のごとく耐候性が優れ、耐衝撃性等の機械的強度が高く、そして厚み斑が無く表面外観に優れた多層シート状成型品を得ることは出来ていない。特に、上記熱可塑性樹脂材料とアクリル樹脂との多層シート状成型品では耐候性は改良できるものの耐衝撃性が低く、また場合によっては厚みムラが生じ美麗な外観を付与することができなかった。本発明は、前記課題を解決するためになされたもので、押出成形が容易で優れた表面外観、面衝撃強度および耐候性を有する多層シート状物を提供することを目的とするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】すなわち、本発明の要旨は、アクリル酸エステル系ゴム状重合体(G)にビニル系単量体を含有する単量体をグラフト重合したグラフト共重合体(A)と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を有する(共)重合体(B)とを含有する熱可塑性樹脂(D)と、他の熱可塑性樹脂(E)とを多層成形してなる多層シート状物であって、熱可塑性樹脂(D)と熱可塑性樹脂(E)の溶融粘度比が下記式(1)の範囲内にあることを特徴とする多層シート状物にある。
β/α < 3 ・・・(式1)
(250℃、せん断速度102 sec-1の条件下における熱可塑性樹脂(D)、(E)の溶融粘度のうち、溶融粘度が高い方の熱可塑性樹脂の溶融粘度をβ、溶融粘度が低い方の熱可塑性樹脂の溶融粘度をαとする。)
【0005】
【発明の実施の形態】本発明で用いるグラフト共重合体(A)は、アクリル酸エステル系ゴム状重合体(G)にビニル系単量体を含有する単量体がグラフト重合されてなるものである。用いるゴム状重合体(G)は、アクリル酸エステル系単量体単位を含有していれば良く、例えばアクリル酸エステル系ゴム、ジエン-アクリル酸エステル共重合ゴム、ジエン-アクリル酸エステル複合ゴム、ポリオルガノシロキサン-アクリル酸エステル系複合ゴムが例示され、これらは単独で、または二種以上を併用して用いることができる。前述した複合ゴムとは、二種以上のゴム状重合体がお互いにミクロレベルで絡み合った、もしくは互いに化学的に結合した状態にあるゴムをいう。
【0006】ゴム状重合体(G)に用いられるアクリル酸エステル系単量体は、炭素数が1~18、好ましくは1~12、より好ましくは4~8であるアクリル酸エステル単量体を主成分とするものであり、架橋剤、グラフト交叉剤を併用することもできる。アクリル酸エステル単量体の好ましい例としては、アクリル酸-n-ブチル、アクリル酸2-エチルへキシルが挙げられる。
【0007】前述したゴム状重合体のうち、ジエン-アクリル酸エステル複合ゴムは、重量平均粒子径が300nm以上のジエン系ゴム1~30重量%の存在下で、グラフト交叉剤と架橋剤とを含む(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体成分99~70重量%を乳化重合して得ることができる。ジエン系ゴムの量が1重量%未満の場合は、最終的に得られる熱可塑性樹脂組成物の低温衝撃特性が低下し、一方、30重量%を超えた場合は耐候性が低下する傾向にある。前述した重量平均粒子径を有するジエン系ゴムは、例えば、酸基含有共重合体ラテックスからなる肥大化剤で重量平均粒子径が150nm未満のジエン系ゴム状重合体粒子を肥大化することにより得ることができる。
【0008】ゴム状重合体(G)に用いることができるポリオルガノシロキサン-アクリル酸エステル系複合ゴムは、ポリオルガノシロキサン1~90重量%の存在下で、アクリル酸エステル含有単量体99~10%をラジカル重合して得られる。複合ゴム状重合体中のポリオルガノシロキサンの量が1重量%未満では、ポリオルガノシロキサン量が少ないため耐衝撃性が低くなり、90重量%を超えると最終的に得られる熱可塑性樹脂組成物の顔料着色性が低下する傾向にある。複合ゴム状重合体中のポリオルガノシロキサンは、好ましくは3~60重量%、さらに好ましくは5~40重量%である。
【0009】グラフト共重合体(A)の製造において、アクリル酸エステル系ゴム状重合体にグラフト重合する単量体は、ビニル系単量体を含有する。含有されるビニル系単量体としては特に制限されるものではないが、シート状物の加工性や面衝撃強度、そして耐候性に優れることから、その構成単位として、好ましくは芳香族アルケニル化合物、(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよびシアン化ビニル化合物から選ばれる少なくとも一種の単量体成分が用いられる。単量体成分のうち芳香族アルケニル化合物としては、例えばスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等であり、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル等であり、シアン化ビニル化合物としては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル等である。これらのうち、スチレンとアクリロニトリルとの混合物を使用すると、得られる多層シート状物の面衝撃強度が優れるため好ましい。また、単量体には、前述したビニル系単量体に加えて、N-置換マレイミド化合物、無水マレイン酸等の不飽和酸無水物、塩化ビニル等のハロゲン化ビニル化合物、エチレン、プロピレン等の不飽和炭化水素およびアクリル酸、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸等が含有されていてもよい。
【0010】グラフト共重合体(A)は、上記ゴム状重合体(G)10~80質量部に対して、単量体が90~20質量部(合わせて100質量部)を乳化グラフト重合させたものであることが好ましい。このような質量割合で乳化グラフト重合すると、最終的に得られるシート状物の加工性と表面膜厚斑、面衝撃強度が優れる。さらに好ましくは、ゴム状重合体(G)が30~70質量部に、単量体70~30質量部をグラフト重合したものがよく、最終的に得られる多層シート状物の表面平滑性が更に向上する。
【0011】乳化グラフト重合を行う方法は特に制限は無く、ラテックス状のゴム状重合体(G)に対しグラフト重合に使用する単量体を一括で添加し重合させる方法、単量体を連続的もしくは断続的に供給して重合させる方法等が利用できる。グラフト重合を行う単量体中には、グラフト率やグラフト成分の分子量を制御するための各種連鎖移動剤を添加することができる。グラフト重合に用いるラジカル重合開始剤としては、過酸化物、アゾ系開始剤または酸化剤・還元剤を組み合わせたレドックス系開始剤が用いられる。この中でレドックス系開始剤が好ましく、特に硫酸第一鉄・ピロリン酸ナトリウム・ブドウ糖・ヒドロパーオキサイドや、硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩・ロンガリット・ヒドロパーオキサイドを組み合わせたレドックス系開始剤が好ましい。グラフト重合に用いる乳化剤としては特に制限はないが、乳化重合時のラテックスの安定性が優れ、重合率を高めることができるため、サルコシン酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、脂肪酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム、ロジン酸石鹸等の各種カルボン酸塩、アルキル硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウムなどの中から選ばれたアニオン系乳化剤が好ましく用いられる。これらは目的に応じて使い分けられ、もちろんゴム状重合体の調製に用いた乳化剤をそのまま利用し、乳化グラフト重合時に追添加しなくても良い。
【0012】乳化グラフト重合で得られたグラフト共重合体(A)を含有するラテックスは、例えば、凝固剤を溶解させた熱水中に投入することによってスラリー状態に凝析する湿式法によって回収する方法や、加熱雰囲気の中にグラフト共重合体(A)ラテックスを噴霧することにより、半直接的にグラフト共重合体(A)を回収するスプレードライ法などの方法によって、グラフト共重合体(A)を回収できる。上記湿式回収法に用いる凝固剤としては、硫酸、塩酸、リン酸、硝酸等の無機酸や、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の金属塩等を用いることができる。凝固剤の選定は重合で用いた乳化剤と対にして選定される。すなわち、脂肪酸石鹸やロジン酸石鹸等のカルボン酸石鹸のみが使用されていた場合にはどの様な凝固剤を用いても回収可能であるが、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムの様な酸性領域でも安定な乳化力を示す乳化剤が含まれている場合には上記無機酸では不十分であり、金属塩を用いる必要がある。上記湿式回収法により得られたスラリーから乾燥状態のグラフト共重合体(A)を回収するためには、まず残存する乳化剤残渣を水中に溶出させ、洗浄した後に、このスラリーを遠心もしくはプレス脱水機で脱水した後に気流乾燥機等で乾燥する方法や、圧搾脱水機や押出機等で脱水と乾燥を同時に行う方法により、粉体または粒子状のグラフト共重合体(A)を回収することができる。この際、圧搾脱水機や押出機から排出されたグラフト共重合体(A)を直接、熱可塑性樹脂組成物(D)を製造するための押出機や、多層シート状物を製造するための成形機に送ることも可能である。
【0013】本発明で用いる(共)重合体(B)は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含有する。耐候性に優れたシート状物を得る目的からは、(共)重合体(B)には(メタ)アクリル酸エステル単位を10質量%以上、更に好ましくは30質量%含有するものがよい。好ましい(共)重合体(B)の態様例としては、メタクリル酸メチル重合体(PMMA)、メタクリル酸メチル-スチレン共重合体(MS樹脂)、メタクリル酸メチル-アクリロニトリル-スチレン三元共重合体、アクリロニトリル-メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸メチル-αメチルスチレン共重合体、メタクリル酸メチル-N-シクロヘキシルマレイミド-スチレン共重合体、メタクリル酸メチル-N-シクロヘキシルマレイミド-αメチルスチレン三元共重合体等が挙げられ、この中でも加工性、表皮膜厚均一性、耐候性に優れることから、メタクリル酸メチル重合体(PMMA)、メタクリル酸メチル-アクリロニトリル-スチレン三元共重合体、アクリロニトリル-メタクリル酸メチル共重合体が好ましい。
【0014】(共)重合体(B)の分子量は特に限定されるものではないが、得られるシート状物の面衝撃性を向上させる観点から、ポリスチレン換算重量平均分子量が、30,000以上、好ましくは50,000以上のものを用いるのがよい。また、得られるシート状物の加工性を向上させるため、500,000以下、好ましくは300,000以下のものを用いるのがよい。本発明で用いる熱可塑性樹脂(D)においては、グラフト共重合体(A)と(共)重合体(B)とを含有する。熱可塑性樹脂(D)中のグラフト共重合体(A)の含有量は、得られるシート状物の面衝撃強度に優れることから、熱可塑性樹脂(D)中10質量%以上、更に好ましくは15質量%とするのがよい。また、シート状物の加工性に優れることから、熱可塑性樹脂(D)中90質量%以下、更に好ましくは85質量%以下とするのがよい。
【0015】熱可塑性樹脂(D)にはグラフト共重合体(A)および(共)重合体(B)以外にも必要に応じてこれら以外の他の重合体(C)を配合することができる。重合体(C)としては、特に制限はなく、例えば、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン-N-置換マレイミド三元共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸-N-置換マレイミド三元共重合体、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT樹脂)、ポリエチレンテレフタレート(PET樹脂)、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、スチレン-ブタジエン(SBR)、水素添加SBS、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)等のスチレン系エラストマー、各種オレフィン系エラストマー、各種ポリエステル系エラストマー、ポリスチレン、ポリアセタール樹脂、変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE樹脂)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、PPS樹脂、PES樹脂、PEEK樹脂、ポリアリレート、液晶ポリエステル樹脂およびポリアミド樹脂(ナイロン)等が挙げられ、好ましくは、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン-N-置換マレイミド三元共重合体、スチレン-無水マレイン酸-N-置換マレイミド三元共重合体、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT樹脂)、ポリエチレンテレフタレート(PET樹脂)、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE樹脂)、ポリアミド樹脂であり、これらを目的に応じて単独で、または、二種以上を併用して用いることができる。これらその他の重合体(C)の使用できる量の上限は、押出成形性と耐候性に優れることから、熱可塑性樹脂(D)100質量部中80質量部、好ましくは70質量部である。
【0016】これらグラフト共重合体(A)、(共)重合体(B)、必要に応じて他の重合体(C)の混合は、V型ブレンダーやヘンシェルミキサー等により混合分散させ、この混合物を押出機または、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、ロール等の混練機等を用いて溶融混練することにより行うことができる。得られた熱可塑性樹脂組成物はそのままで、または必要に応じて染料、顔料、安定剤、補強剤、充填材、難燃剤、発泡剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤等の添加剤を配合され、加熱溶融させて公知の押出成形されることで、多層シート状物における少なくとも一層を構成する。
【0017】多層シート状物における別層は、他の熱可塑性樹脂(E)から構成される。熱可塑性樹脂(E)としては、重合体(C)に記載されたものやABS樹脂、ハイインパクトポリスチレン、変性ポリフェニレンエーテル樹脂等の熱可塑性ゴム変性樹脂、塩化ビニル系樹脂、フェノール樹脂やメラミン樹脂等の熱硬化性樹脂等が広く利用でき、中でもABS樹脂、ハイインパクトポリスチレン、塩化ビニル系樹脂を用いることが好ましい。また、本発明の熱可塑性樹脂(D)は、金属部品を被覆することもできる。
【0018】本発明においては、熱可塑性樹脂(D)と他の熱可塑性樹脂(E)の溶融粘度比が下記式1を満足する必要がある。溶融粘度比をこの範囲内に制御することで、シート状物の成形性を向上させ、表皮膜厚斑を低減させることができる。
β/α < 3 ・・・(1)
(250℃、せん断速度102 sec-1の条件下における熱可塑性樹脂(D)、(E)の溶融粘度のうち、溶融粘度が高い方の熱可塑性樹脂の溶融粘度をβ、溶融粘度が低い方の熱可塑性樹脂の溶融粘度をαとする。)
溶融粘度比(β/α)が3を超えるとバンク安定性が低下し、シート状物の成形性や表皮膜厚斑が劣ってくる。更には、溶融粘度比が2.5以下である組み合わせで熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。前述した溶融粘度の測定は、加熱可能なシリンダーに、加えている力が測定できるピストンとオリフィスを備えた押出型の溶融粘度測定装置(キャピログラフ;東洋精機株式会社製)を用いて行うことができる。
【0019】本発明の多層シート状物は、その使用目的に何ら限定されるものではなく、工業的用途例としては、車両部品、特に無塗装で使用される各種外装やダッシュボード周辺の内装部品、壁材、窓枠、雨樋、各種ホースカバー等の建材部品、食器や玩具等の雑貨、掃除機ハウジング、テレビジョンハウジング、エアコンハウジング等の家電部品、OA機器ハウジング、インテリア部材、船舶部材および通信機器ハウジング等に好適に用いることができる。
【0020】
【実施例】以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の例に限定されるものではない。なお、以下の例中の%および部数は明記しない限りは質量基準とする。参考例、実施例および比較例中の各種評価は以下の測定方法で行った。
(i)ゴム状重合体ラテックスの重量平均粒子径と未肥大ゴム状重合体粒子の割合
MATEC APPLIED SCIENCES社製サブミクロン粒度分布測定器CHDF-2000を用いて測定した。
(ii)アセトン不溶分比率
冷却管および加熱器を備えたフラスコ中にグラフト共重合体約2.5g(秤量)およびアセトン80mlを入れ、加熱器により55℃で3時間加熱抽出処理を行い、冷却後次いで内液を日立工機(株)遠心分離器を用いて14,000回転/分の条件で60分処理することによって、アセトン不溶分を分離し、ついで上澄みを取り除いた後の沈殿物を乾燥後、その質量を測定し、以下の式で算出した。
アセトン不溶分(質量%)=分離処理後の沈殿物乾燥質量/アセトン抽出前のグラフト共重合体質量 ×100
【0021】(iii)グラフト共重合体(A)のアセトン可溶分、および(共)重合体(B)の還元粘度(ηsp/C)
上記グラフト共重合体のアセトン溶媒での抽出、次いで遠心分離処理によるアセトン不溶分の分離によって得た上澄み液中のアセトン溶媒を減圧蒸発させることによってアセトン可溶成分を析出回収し、次いでこのアセトン可溶成分0.2gを100ccのN,N-ジメチルホルムアミドに溶解させた溶液の溶液粘度を自動粘度計(サン電子工業(株)製)を用いて25℃で測定し、同条件で測定した溶媒粘度よりアセトン可溶分の還元粘度を求めた。
(iv)(共)重合体(B)のポリスチレン換算重量平均分子量
乾燥させた(共)重合体(B)試料を、DMF溶媒に40℃で2時間かけて溶解させた後、室温にて1晩静置し、GPC(島津製作所製「HLC-8020」型)にて測定した。
【0022】[製造例1]ジエン系ゴム(G-1)の調製
攪拌装置および温度制御ジャケット付き10リットルのステンレス製オートクレーブに、
イオン交換水 145部
不均化ロジン酸カリウム 1部
オレイン酸カリウム 1部
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.4部
無水硫酸ナトリウム 0.1部
ターシャリードデシルメルカプタン 0.3部
ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド 0.5部
1,3-ブタジエン 26.2部
スチレン 1.4部
を窒素気流下で仕込み、攪拌しつつ内温を昇温し、内温が50℃になった時点でピロリン酸ナトリウム0.5部と硫酸第一鉄0.005部とイオン交換水5部からなる水溶液を添加して重合を開始した。重合開始から30分後、内温57℃一定とし、さらにこの時点から1,3-ブタジエン68.6部、スチレン3.6部からなる混合物を2時間かけて圧力ポンプにて反応器内に供給した。また、この際、重合転化率(全単量体に対する重合率)が40%に達した時点でノルマルドデシルメルカプタン0.3部添加し、さらに重合を継続した。8時間後、残存1,3-ブタジエン単量体を除去し、固形分が40.2質量%、重合転化率97%、重量平均粒子径70nmのジエン系ゴム(G-1)ラテックスを得た。
【0023】[製造例2]ジエン-アクリル酸エステル系共重合ゴム(G-2)の製造
攪拌装置および温度制御ジャケット付き10リットルのステンレス製オートクレーブに、
イオン交換水 195部
オレイン酸カリウム 1部
N-ラウロイルサルコシン酸ナトリウム 0.5部
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.1部
デキストローズ 0.2部
無水硫酸ナトリウム 0.2部
ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド 0.2部
1,3-ブタジエン 45部
アクリル酸-n-ブチル 55部
を窒素気流下で仕込み、攪拌しつつ内温を昇温し、内温が50℃になった時点で、硫酸第一鉄七水塩0.003部、無水ピロリン酸ナトリウム0.15部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.001部、イオン交換水5部からなる水溶液を添加し重合を開始した。内温を55℃で一定制御して開始から8時間後、固形分が32.3質量%、重合転化率96%、重量平均粒子径85nmのジエン-アクリル酸エステル系共重合ゴム(G-2)ラテックスを得た。
【0024】[製造例3]酸基含有共重合体ラテックス(K-1)の製造
冷却管、ジャケット加熱器および撹拌装置を備えた反応器内に、
オレイン酸カリウム 2.2部
ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム 2.5部
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.3部
硫酸第一鉄七水塩 0.003部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩 0.009部
イオン交換水 200部
窒素気流下で下記各成分を仕込み、攪拌を行いながら内温65℃に昇温した。これに、
アクリル酸-n-ブチル 81.5部
メタクリル酸 18.5部
クメンハイドロパーオキサイド 0.5部
からなる混合物を2時間かけて添加し重合せしめ、添加終了後も2時間そのままの温度で重合を継続した。重合転化率は98%であり平均粒子径150nmの酸基含有共重合体ラテックス(K-1)を得た。
【0025】[製造例4]グラフト共重合体(A-1)の製造
冷却管、ジャケット加熱器および攪拌装置を備えた反応器内に、製造例2で製造したジエン-アクリル酸エステル系共重合ゴムラテックス(G-2)70質量部(固形分)を仕込み、室温にて攪拌下、2%炭酸ナトリウム水溶液にてラテックスのpHを9.2に調整した。さらに、酸基含有共重合体ラテックス(K-1、固形分)1.2部を仕込み、30分間攪拌を継続し肥大化処理せしめ、重量平均粒子径190nmのゴム含有ラテックスが得られた。さらに、攪拌を継続したまま、
脱イオン水(ゴム状重合体ラテックス中の水も含む) 200部
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.14部
N-ラウロイルサルコシン酸ナトリウム 0.35部
を加え、内温を75℃まで昇温し、以下の混合物90分間にわたり連続的に添加し重合した。
メタクリル酸メチル 28.8部
アクリル酸エチル 1.2部
n-オクチルメルカプタン 0.05部
クメンハイドロパーオキサイド 0.12部
添加終了後、さらに60分間その温度で内温を保持し重合を完結した。得られたグラフト共重合体(A-1)ラテックスの2倍量となる50℃に昇温された0.25%希硫酸水溶液中に投入してグラフト共重合体を析出せしめ、さらに90℃で5分間熱処理した後に水洗、脱水を数度繰り返し、最終的に乾燥して白色粉末であるジエン-アクリル酸エステル系共重合ゴムグラフト共重合体(A-1)を得た。
【0026】[製造例5]グラフト共重合体(A-2)の製造
製造例1で調製したジエン系ゴム(a-1)ラテックス100部(固形分として)に、参考例3で調製した酸基含有共重合体ラテックス(K-1)ラテックス2.1部(固形分として)を攪拌しながら添加し、さらに30分攪拌を続け肥大化ジエン系ゴム状重合体ラテックスを得た。肥大化後の重合体の平均粒子径は380nmであった。次に試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱器および撹拌装置を備えた反応器に、下記各成分を添加した。
肥大化ジエン系ゴム状重合体ラテックス(固形分) 10部
イオン交換水(ゴム状重合体ラテックス中の水を含む) 200部
アルケニルコハク酸ジカリウム 0.3部
ブチルアクリレート 40部
アリルメタクリレート 0.16部
1,3-ブチレングリコールジメタクリレート 0.08部
ターシャリーブチルヒドロパーオキサイド 0.1部
この反応器に窒素気流を通じることによって、雰囲気の窒素置換を行い、ジャケット温度を60℃に昇温した。内温が50℃になった時点で、下記各成分からなる水溶液を添加し重合を開始せしめた。
硫酸第一鉄 0.00015部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩 0.00045部
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.24部
イオン交換水 5部
発熱が見られなくなった後内温を75℃として1時間この状態を維持し、アクリレート成分の重合を完結させ、重量平均粒子径は300nmであるジエン-アクリル酸エステル系複合ゴムのラテックスを得た。次に、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.15部、アルケニルコハク酸ジカリウム0.65部、イオン交換水10部からなる水溶液を添加し、続いて下記成分からなる混合液を1時間にわたって滴下供給し重合し、その間内温をほぼ80℃とした。
アクリロニトリル 6.3部
スチレン 18.7部
ターシャリーブチルヒドロパーオキサイド 0.19部
滴下終了後、温度80℃の状態を30分間保持した後、冷却し、内温60℃となった時点で、抗酸化剤(吉富製薬工業(株)製アンテージW-500)0.2部、アルケニルコハク酸ジカリウム0.2部、イオン交換水5部からなる混合物を添加した。次いで、上記グラフト共重合体(A-2)ラテックスを、その1.2倍量の45℃に加熱した硫酸0.6%水溶液中に攪拌しながら投入し重合体を凝集させた。次いで、液温を65℃に上昇させ5分間保持した後、液温を90℃まで上昇させた。次いで析出物を分離した後、水洗、脱水を数回繰り返し、最後にこの分散液を遠心脱水機にて脱水処理後、さらに80℃で16時間乾燥し、ジエン-アクリル酸エステル系複合ゴムグラフト共重合体(A-2)を得た。グラフト共重合体(A-2)中のアセトン不溶分量は82質量%、アセトン可溶成分の還元粘度は0.65dl/gであった。
【0027】[参考例6] グラフト共重合体(A―3)の製造
オクタメチルシクロテトラシロキサン98部と、γ-メタクリロキシプロピルジメトキシメチルシラン2部を混合してシロキサン系混合物100部を得た。これに、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.67部を溶解したイオン交換水300部を添加し、ホモミキサーにて10,000回転/分で2分間撹拌した後、ホモジナイザーで30MPaの圧力で1回通し、安定な予備混合オルガノシロキサンラテックスを得た。一方、試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および攪拌装置を備えた反応器内に、ドデシルベンゼンスルホン酸10部とイオン交換水90部とを注入し、10質量%のドデシルベンゼンスルホン酸水溶液を調製した。この水溶液を攪拌下にて85℃に加熱し、上記予備混合オルガノシロキサンラテックスを4時間かけて滴下し重合せしめ、滴下終了後1時間85℃を維持した後、冷却した。次いで、この反応物を水酸化ナトリウム水溶液で中和して、固形分17.7質量%、重量平均粒子径が60nmであるポリオルガノシロキサンラテックスを得た。次いで、試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および攪拌装置を備えた反応器内に、
上記ポリオルガノシロキサンラテックス(固形分) 8部
ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート
(「エマールNC-35」花王(株)製) 0.2部
イオン交換水(ポリオルガノシロキサン
ラテックス中の水を含む) 220部
アクリル酸-n-ブチル 42部
メタクリル酸アリル 0.3部
1,3-ブチレングリコールジメタクリレート 0.1部
t-ブチルハイドロパーオキサイド 0.11部
を窒素気流下で攪拌下で仕込み、60℃まで昇温した。その時点で、硫酸第一鉄0.000075部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.000225部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.2部を蒸留水5部に溶解させた水溶液を添加し、ラジカル重合を開始せしめた。このとき、アクリル酸-n-ブチルの重合により、液温は約80℃まで上昇した。1時間この温度を維持し、重量平均粒子径が110nmであるポリオルガノシロキサン-アクリル酸エステル系複合ゴムラテックスを得た。次に、反応器内部の液温を70℃とし、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.25部を蒸留水:10部に溶解した水溶液を添加し続いて、
アクリロニトリル 2.5部
スチレン 7.5部
t-ブチルハイドロパーオキサイド 0.05部
の混合液を30分かけて滴下供給し、滴下終了後、温度70℃の状態を1時間保持した。続いて、下記各成分からなる水溶液を添加し、
硫酸第一鉄 0.001部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩 0.003部
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.2部
エマールNC-35(花王(株)製) 0.2部
イオン交換水 5部
これに続いて、
アクリロニトリル 10部
スチレン 30部
t-ブチルハイドロパーオキサイド 0.2部
の混合液を内温75℃から2時間かけて滴下供給して重合せしめた。滴下終了後、温度75℃の状態を30分間保持した後冷却した。このラテックスにアルケニルコハク酸ジカリウム塩(「ラテムルASK」花王(株)製)を0.5部添加し、グラフト共重合体(A-3)の重合ラテックスを得た。次いで1%酢酸カルシウム水溶液150部を60℃に加熱し、この中へグラフト重合体(A-3)のラテックス100部を徐々に滴下し凝固した。次いで析出物を脱水、洗浄、乾燥し、ポリオルガノシロキサン-アクリル酸エステル系複合ゴムグラフト重合体(A-3)を得た。
【0028】[製造例7]グラフト共重合体(A-4)の製造
攪拌機付きの容器に、製造例1にて調製したジエン系ゴム(a-1)ラテックス100部(固形分)に、攪拌下および室温にて、製造例3にて調製した酸基含有共重合体ラテックス(K-1)1.2部(固形分)を添加し、30分間攪拌し肥大化せしめた。得られた肥大化ジエン系ゴム状重合体ラテックスの重量平均粒子径は290nmであった。続いて、温度計、温水ジャケット、滴下供給口、および攪拌機つき5Lガラス製容器に、下記各成分を仕込み、内温を60℃に昇温した。
肥大化ジエン系ゴム状重合体ラテックス(固形分) 50部
イオン交換水(肥大化ジエン系
ゴム状重合体ラテックス中の水を含む) 135部
不均化ロジン酸カリウム 0.3部
デキストローズ 0.3部
硫酸第一鉄(七水塩) 0.005部
無水ピロリン酸ナトリウム 0.1部
これに、
アクリロニトリル 15部
スチレン 35部
クメンハイドロパーオキサイド 0.15部
ターシャリードデシルメルカプタン 0.2部
からなる混合物を180分かけて滴下供給し、その間、内温を60℃から75℃に上昇させた。滴下終了後、クメンハイドロパーオキサイド0.1部を追添加し、その温度で60分間保持し重合を完了した。冷却後、抗酸化剤(吉富製薬工業(株)製アンテージW-400)0.3部を添加し、この得られたグラフト共重合体(A-4)ラテックスをその2倍量の75℃に調節した0.4%硫酸水溶液中に投入した後、スラリーのPHを5に調整し、温度を92℃に昇温、5時間保持した。脱水と洗浄を繰り返し最終的に乾燥させて乳白色粉末状の重合体を得た。
【0029】[製造例8](共)重合体(B-1)の製造
メタクリル酸メチル90部およびアクリル酸メチル10部からなり、 N,N-ジメチルホルムアミド溶液から25℃で測定した還元粘度が0.51dl/g、ポリスチレン換算重量平均分子量が70,000であるアクリル樹脂(B-1)を公知の懸濁重合により製造した。
[製造例9](共)重合体(B-2)の製造
アクリロニトリル8部、スチレン22部、メタクリル酸メチル70部よりなり、N,N-ジメチルホルムアミド溶液から25℃で測定した還元粘度が0.50dl/g、ポリスチレン換算分子量が150,000であるアクリロニトリル-スチレン-メタクリル酸メチル三元共重合体(B-2)を公知の懸濁重合により製造した。
【0030】[参考例10](共)重合体(B-3)の製造
アクリロニトリル25部、スチレン25部、メタクリル酸メチル50部よりなり、N,N-ジメチルホルムアミド溶液から25℃で測定した還元粘度が0.53dl/g、ポリスチレン換算分子量が160,000であるアクリロニトリル-スチレン-メタクリル酸メチル三元共重合体(B-3)を公知の懸濁重合により製造した。
[参考例11](共)重合体(B-4)の製造
アクリロニトリル20部、メタクリル酸メチル80部よりなり、N,N-ジメチルホルムアミド溶液から25℃で測定した還元粘度が0.51dl/g、ポリスチレン換算分子量が105,000であるアクリロニトリル-メタクリル酸メチル共重合体(B-4)を公知の懸濁重合により製造した。
【0031】[参考例12](共)重合体(B-5)の製造
アクリロニトリル30部、スチレン70部よりなり、N,N-ジメチルホルムアミド溶液から25℃で測定した還元粘度が0.61dl/g、ポリスチレン換算分子量が145,000であるアクリロニトリル-スチレン共重合体(B-5)を公知の懸濁重合により製造した。
[参考例13](共)重合体(B-6)
メタクリル酸メチル99部およびアクリル酸メチル1部からなり、 N,N-ジメチルホルムアミド溶液から25℃で測定した還元粘度が0.85dl/g、ポリスチレン換算分子量は105,000のアクリル樹脂(B-6)を公知の懸濁重合により製造した。
【0032】[実施例1~8、比較例1~5]前述した各グラフト共重合体(A)、(共)重合体(B)の合計100質量部に対し、さらにエチレンビスステアリルアミド0.4部、加工助剤として三菱レイヨン(株)社製メタブレンL-1000を1部、メタブレンP-531を1部、酸化チタン(石原産業(株)社製「CR-60-2」)を2部添加してヘンシェルミキサーで3分間混合した。これらの配合比を表1に示した。そして、バレル温度230℃に設定した2軸押出機(池貝鉄工(株)社製「PCM-30」)で賦型して樹脂ペレットを作製した。得られた樹脂ペレットを用い、幅400mm、厚み7mmの二層シート押出用Tダイを装着したスクリュー径45mmφ単軸主押出機、25mmφ単軸副押出機(いずれも東芝機械(株)社製)および転写ロール、巻取装置から構成される押出成形機を用いた。45mmφ主押出機(バレル温度230℃)からベース樹脂としてABS樹脂(三菱レイヨン(株)社製ダイヤペット 3001M)を吐出量20kg/hrで押し出し、25mmφ副押出機(バレル温度230℃)から表層樹脂として、上記調製した樹脂ペレットを吐出量2kg/hで押出して表皮材とし、Tダイ温度250℃、ロール温度100℃、主スクリュー回転数60回転/分の条件で、総厚みが2.0mm(ABS樹脂1.8mm、本発明に係る熱可塑性樹脂0.2mm)の二層シート状物を成形した。その際のバンク安定性と、得られた二層シート状物を用いて表皮膜厚ムラ、面衝撃強度および耐候性を以下に示す方法で評価した。
【0033】(1)溶融粘度(比)の測定
熱可塑性樹脂(D)、ダイヤペット3001Mについて、東洋精機(株)社製キャピログラフを使用して、バレル温度250℃、キャピラリー直径1mmφ、長さ10mm(L/D=10)を使用し、せん断速度が102sec-1での溶融粘度を測定した。ダイヤペット3001Mの溶融粘度は10,000であった。また、熱可塑性樹脂(D)の溶融粘度及びそれぞれの溶融粘度を基に求めた溶融粘度比を表1に示した。
(2)バンク安定性
上記押出成形条件にてロール上のシート引取側に発生する樹脂バンクの安定状態を観察した。評価は3段階で行った。○は長時間にわたり樹脂バンクが棒状で滑らかに回転し、バンク安定性が良好なことを示す。一方、×は樹脂バンクが波打ち、またはバンク切れし不安定な状態を示す。
○:バンク安定性良好
△:やや不良
×:不良
【0034】(3)面衝撃強度の測定
調製した多層シート状物から100mm×100mm板を切出し、ASTMD-3764に準拠し島津製作所(株)製「HTM-1」高速衝撃試験機を使用し、測定温度23℃の条件下でストライカ速度3.3m/秒、ストライカ径1/2インチφ、支持枠3インチφの条件下にて破壊エネルギ-(J)を測定した。
(4)耐候性
調製した多層シート状物をスガ試験機(株)社製のサンシャインスーパーロングライフウェザーメーターを使用し、63℃降雨有り条件下で1,000時間後の加速曝露を行った。なお、耐候性は表皮側面より行った。そして、村上色彩技術研究所(株)社製の高速分光光度計「CMS―1500」を使用し、曝露試験片と非曝露試験片との色差(ΔE)を測定した。
【0035】
【表1】
【0036】実施例および比較例より、次のことが明らかとなった。
1)実施例1~8で得られた多層シート状物は、シート状物の成形性が良好であり、表皮膜厚斑が小さく面衝撃強度、耐候性に優れる。特に共重合体(B)にメタクリル酸メチル-アクリロニトリル-スチレン三元共重合体、メタクリル酸メチル-アクリロニトリル共重合体を用いた場合は、その効果が最も優れ工業的価値が高い。
2)比較例1で得られた表皮にグラフト共重合体(A-1)単独を用いた多層シート状物は、ABS樹脂との溶融粘度比が3以上となるためバンク安定性、表皮膜厚斑に劣る。
3)比較例2で得られた表皮に共重合体(B-1)単独を用いた多層シート状物は面衝撃強度が劣り工業的価値が低い。
4)比較例3、4で得られた表皮にジエン系単独ゴムグラフト共重合体(A-4)を含む多層シート状物は耐候性が劣る。
5)比較例5で得られた、溶融粘度比が3を超える多層シート状物はバンク安定性が劣る。
【0037】
【発明の効果】本発明の多層シート状物は、アクリル酸エステル系ゴム状重合体(G)にビニル系単量体を含有する単量体をグラフト重合したグラフト共重合体(A)と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を有する(共)重合体(B)とを含有する熱可塑性樹脂(D)と、他の熱可塑性樹脂(E)とを多層成形してなる多層シート状物であって、熱可塑性樹脂(D)と熱可塑性樹脂(E)の溶融粘度比を特定範囲内とすることで、シート成形性に優れるとともに面衝撃強度、耐候性に優れた多層シート状物となり、幅広い用途で加工、使用することができる。
【請求項1】 アクリル酸エステル系ゴム状重合体(G)にビニル系単量体を含有する単量体をグラフト重合したグラフト共重合体(A)と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を有する(共)重合体(B)とを含有する熱可塑性樹脂(D)と、他の熱可塑性樹脂(E)とを多層成形してなる多層シート状物であって、熱可塑性樹脂(D)と熱可塑性樹脂(E)の溶融粘度比が下記式(1)の範囲内にあることを特徴とする多層シート状物。
β/α < 3 ・・・(式1)
(250℃、せん断速度102 sec-1の条件下における熱可塑性樹脂(D)、(E)の溶融粘度のうち、溶融粘度が高い方の熱可塑性樹脂の溶融粘度をβ、溶融粘度が低い方の熱可塑性樹脂の溶融粘度をαとする。)
【請求項2】 熱可塑性樹脂(D)の層が少なくとも表層に存在することを特徴とする請求項1記載の多層シート状物。
【請求項3】 アクリル酸エステル系ゴム状重合体(G)が、ジエン-アクリル酸エステル共重合ゴム、アクリル酸エステル系ゴム、ジエン-アクリル酸エステル系複合ゴム、ポリオルガノシロキサン-アクリル酸エステル系複合ゴムからなる群から選ばれたものであることを特徴とする請求項1又は2記載の多層シート状物。
【請求項4】 (共)重合体(B)中に、炭素数1~8のアルキル基を有するメタクリル酸エステル単位を10~100質量%含有することを特徴とする請求項1~3の何れか1項記載の多層シート状物。
【請求項5】 アクリル酸エステル系ゴム状重合体(G)にビニル系単量体を含有する単量体をグラフト重合したグラフト共重合体(A)と(メタ)アクリル酸エステル単位を有する(共)重合体(B)とを含有する熱可塑性樹脂(D)と、他の熱可塑性樹脂(E)とを多層成形する多層シート状物の製造方法であって、
熱可塑性樹脂(D)と熱可塑性樹脂(E)の溶融粘度比が下記式(1)の範囲内にあることを特徴とする多層シート状物の製造方法。
β/α < 3 ・・・(式1)
(250℃、せん断速度102 sec-1の条件下における熱可塑性樹脂(D)、(E)の溶融粘度のうち、溶融粘度が高い方の熱可塑性樹脂の溶融粘度をβ、溶融粘度が低い方の熱可塑性樹脂の溶融粘度をαとする。)