PRESS MOLDING PRODUCTION METHOD
本発明は、樹脂系材料の薄肉成形に好適であり、軽量且つ高強度で外観評価にも優れるコールドプレス成形品の製造方法に関する。
近年、機械分野において、マトリクス樹脂と、炭素繊維などの強化繊維を含む、いわゆる繊維強化樹脂材が注目されている。これら繊維強化樹脂材はマトリクス樹脂内で繊維が分散されているため、引張弾性率や引張強度、耐衝撃性などに優れている。その結果、自動車等の構造部材などへの使用が検討されている。中でも、マトリクス樹脂が熱可塑性樹脂である繊維強化樹脂材、つまり繊維強化熱可塑性樹脂材は、マトリクス樹脂が熱硬化性樹脂である繊維強化樹脂材と比較して、成形サイクルが短いなどの点で量産性に優れるため、数多くの分野で検討されている。
繊維強化樹脂材を、射出成形法、圧縮成形法等の様々な成形方法にて成形することにより、大小を問わず様々な構造部材を高い生産性で生産することができる。繊維強化樹脂材を成形する成形方法のうち、圧縮成形法は、繊維長が長めの強化繊維を含む繊維強化樹脂成形品を効率よく生産することに適している。特に、コールドプレス成形法は、際立って成形サイクルが短く、強化繊維とマトリクスとしての熱可塑性樹脂とを含み、意匠性に優れる複雑な3次元形状を有する成形品を効率的に生産するのに好適である。
例えば特許文献1には、繊維強化樹脂材における強化繊維が面内方向に2次元配向して等方性を有し、かつ強化繊維が特定範囲の強化繊維束を含んだものである繊維強化樹脂材を圧縮成形することにより、薄肉、軽量、高剛性で意匠性に優れ、複雑な3次元形状を有する成形品を高い生産性にて生産する方法が開示されている。一方、顧客の繊維強化樹脂材から得られる成形品に対する、より軽い、より薄い、より短い、より小さい成形品への要望は強く、さらなる成形品の薄肉化への対応が求められる。
繊維強化樹脂材を金型キャビティ内に配置して行うコールドプレス成形法において良好な外観を有する成形品を得る手段として、以下に示す提案が提示されている。具体的には特許文献2には、熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上に設定した金型を用い、コールドプレス成形工程中に金型温度をガラス転移温度付近まで下げる手段により、厚さ2.5mmのプリプレグからプレス成形品を製造する方法が提案されている。この手段を応用し、通常、良好な外観が得られる金型温度よりも高い金型温度に設定することで成形性が向上し、更なる薄肉化へも対応可能になると言える。しかし、具体的な成形パラメーターの開示が無いために金型温度を成形サイクルに合わせて上下させるために必要な金型冷却と金型加熱を迅速に行うための設備の温度仕様やプレス成形機の仕様が不明確である。かつコールドプレス成形工程での繊維強化樹脂材の具体的な冷却パラメーターの開示が無いために繊維強化樹脂材の仕様も不明確である。これらの事項が原因となって、設備面や材料面ともにトライ&エラーで設備に関する仕様および繊維強化樹脂材に関する仕様を出さざるを得なかった。従って、更なる薄肉化の実現見通しが不明瞭であるため、産業上の観点からはやや注目が集まっていなかった。
本発明は、熱可塑性樹脂と強化繊維からなる繊維強化樹脂材をコールドプレス成形し、繊維強化樹脂成形品を製造する方法において、薄肉化された成形品を得る成形性に優れ、曲げ強度を目付量で除した数値が大きく、外観にも優れた繊維強化樹脂成形品を製造する方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、繊維強化樹脂材の肉厚が薄くなるとコールドプレス成形法における成形性が低下する原因を入念に調査した。その結果、コールドプレス成形法を実施中に繊維強化樹脂材が成形可能である条件として、繊維強化樹脂材の温度が成形可能な温度であること、およびプレス圧力が成形可能な圧力であることが両立していなければならないことを見出した。更に、これら2つが両立する時間帯が成形可能時間であり、その成形可能時間を算出することができれば、更なる成形品の薄肉化の実現見通しが明確になると着想し、鋭意検討を進め、本発明に到達した。
本発明者らは、更なる成形品の薄肉化に対応する、薄肉成形に好適なコールドプレス成形品の製造方法を得るには、コールドプレス成形法における成形パラメーターと繊維強化樹脂材の冷却パラメーターによって算出できる成形可能時間が一定の範囲になるような繊維強化樹脂材や設備を用いてコールドプレス成形を行えばよいと着想し、鋭意検討した結果、本発明を完成させた。
[1] 強化繊維と熱可塑性樹脂を含む繊維強化樹脂材を、上型と下型を有する金型を用いてコールドプレス成形することによる繊維強化樹脂成形品の製造方法であって、下記のa)~f)を同時に満たすことを特徴とする繊維強化樹脂成形品の製造方法である。
[上記数式(1)において、tmは成形可能時間、Tは加熱温度、tcはチャージ時間、C1は空冷速度、tpは昇圧時間、Tfは流動停止温度、C2は金型の上型が繊維強化樹脂材に接触してから流動停止温度に達するまでの、繊維強化樹脂材の冷却速度(以下、C2またはプレス中冷却速度と称する。)をそれぞれ表す。]
本発明の製造方法によれば、繊維強化樹脂材をコールドプレス成形し、繊維強化樹脂成形品を製造する方法において、更に薄肉化された成形品を得ることができ、曲げ強度を目付量で除した数値が大きく、外観にも優れた繊維強化樹脂成形品を製造することができる。
以下に、本発明の実施の形態について順次説明する。本発明に関して、簡便の為、「繊維強化樹脂材」を「樹脂材」と、「繊維強化樹脂成形品」を「プレス成形品」または「成形品」と、「コールドプレス成形」を「プレス成形」と略称している場合がある。便宜上、質量を重量と表記している場合がある。図面における各箇所の寸法の数値は特に記載が無い限りmm単位の数値である。
(コールドプレス成形)
(成形可能時間:パート1)
[上記数式(1)において、tmは成形可能時間、Tは加熱温度、tcはチャージ時間、C1は空冷速度、tpは昇圧時間、Tfは流動停止温度、C2は金型の上型が繊維強化樹脂材に接触してから流動停止温度に達するまでの、繊維強化樹脂材の冷却速度(以下、C2またはプレス中冷却速度と称する。)をそれぞれ表す。]
(成形パラメーターと冷却パラメーター)
(加熱温度)
樹脂材に含まれる熱可塑性樹脂が結晶性樹脂の場合、加熱温度は結晶性樹脂の融点+50℃以上、結晶性樹脂の融点+100℃以下の温度範囲である。加熱温度が結晶性樹脂の融点+50℃未満の場合、流動開始点での樹脂材の温度が低くなるため樹脂材の溶融粘度が大きくなり、成形性、特に薄肉成形性に劣ることがある。加熱温度が結晶性樹脂の融点+100℃を超えると、流動開始点での樹脂材の温度が高くなりすぎるため樹脂材の溶融粘度が小さくなり、大きなバリが発生することがあり好ましくない。樹脂材に含まれる熱可塑性樹脂が非晶性樹脂の場合、加熱温度は非晶性樹脂のガラス転移温度+125℃以上、ガラス転移温度+175℃以下の温度範囲である。加熱温度がガラス転移温度+125℃未満の場合、流動開始点での樹脂材の温度が低くなるため樹脂材の溶融粘度が大きくなり、成形性、特に薄肉成形性に劣ることがある。加熱温度が非晶性樹脂のガラス転移温度+175℃を超えると、流動開始点での樹脂材の温度が高くなりすぎるため樹脂材の溶融粘度が小さくなり、大きなバリが発生することがあり好ましくない。加熱温度は好ましくは結晶性樹脂の融点+60℃以上、結晶性樹脂の融点+90℃以下、非晶性樹脂のガラス転移温度+130℃以上、非晶性樹脂のガラス転移温度+170℃以下であり、より好ましくは結晶性樹脂の融点+65℃以上、結晶性樹脂の融点+85℃以下、非晶性樹脂のガラス転移温度+140℃以上、非晶性樹脂のガラス転移温度+160℃以下である。
(チャージ時間)
チャージ時間は6.0~35.0秒の数値範囲である。チャージ時間が6.0秒未満になると、設備装置を用いて搬送する場合は樹脂材搬送機の仕様が超高速作動となり設備が高額となるため好ましくない場合がある。また、超高速作動に伴い繊維強化樹脂材に大きな加速度がかかり、加熱温度にまで熱せられた繊維強化樹脂材が変形することがあり、好ましくない場合がある。一方、人力で搬送する場合はチャージ時間が6.0秒未満では、時間が短すぎて実施が困難である。チャージ時間が35.0秒を超えると流動開始点での樹脂材の温度が低くなるため樹脂材の溶融粘度が大きくなり、成形性、特に薄肉成形性に劣る。チャージ時間は、好ましくは8.0~34.0秒であり、より好ましくは10.0~30.0秒であり、特により好ましくは11.0~26.0秒である。
(昇圧時間)
プレス成形機としては高速なサーボモーターを用いた電動プレス成形機や、油圧回路に吐出量の大きな油圧ポンプ、または増速装置を設置した油圧プレス成形機を用いると好ましい。特に増速装置としてアキュムレータータンクを設置した油圧直圧式プレス成形機を用いることが好適である。より具体的には、アキュムレータータンクは、アキュムレータータンク内に油圧を蓄圧し金型を型締めする際にアキュムレータータンク内の油圧を開放することで、一時的に金型内の昇圧速度を向上できる。その結果、昇圧時間を短くすることができる。また、油圧直圧式プレス成形機は、高圧力を長時間保持できる観点からも、好ましく用いることができる。
本発明での昇圧時間は、金型の上型が繊維強化樹脂材に接触した時点から、プレス成形機の圧力計が規定プレス圧の値となる時点までの時間である。この昇圧時間の前半の時間帯内での樹脂材の流動は不十分であり、成形品の内部に多数の空隙が残るため物性が低く好ましくない。従って、本発明では上述のように規定プレス圧の半分の値を超えた時点以降を、後述する成形可能時間と設定した。
昇圧時間は0.1~2.5秒の数値範囲である。昇圧時間が0.1秒未満になると、圧力応答の速いサーボモーターを搭載した電動プレス成形機にせざるを得ない。サーボモーターで駆動させる成形機は、油圧で駆動させる成形機に比べて大きな金型を扱えないことからプレス成形可能な成形品のサイズが小さくなる。小さいサイズの成形品を組合せて自動車等の構造部材を製造した場合、成形品同士の接合部分が多くなり、金属で構造部材を製造した場合と対比して軽量化の効果が低くなり、産業上好ましくない。昇圧時間が2.5秒を超えると、樹脂材と金型の上型との接触時間が長くなり、流動開始点での樹脂材の温度が低くなり、成形性に劣る。昇圧時間は、好ましくは0.2~2.0秒であり、より好ましくは0.3~1.0秒である。
(空冷速度)
空冷速度は1.0~6.5℃/秒の数値範囲である。空冷速度が1.0℃/秒未満になると、これは実質的に樹脂材の厚みが大きいことを意味し、顧客の薄肉要望に応えられない場合がある。また仮に、樹脂材の厚みが薄肉要望に応えられる程度であった場合は、成形品の生産性に劣る場合があり好ましくない。一方、空冷速度が6.5℃/秒を超えると、チャージまでの樹脂材の温度低下が大きいため流動開始時の樹脂材の温度が低くなり、成形性に劣る。空冷速度は、好ましくは1.2~6.0℃/秒であり、より好ましくは1.3~5.0℃/秒であり、更により好ましくは1.5~4.0℃/秒であり、特により好ましくは1.6~3.0℃/秒である。
(流動停止温度)
本発明での流動停止温度は、熱可塑性樹脂が結晶性樹脂の場合は結晶性樹脂の融点-25~融点+30℃の温度範囲であり、熱可塑性樹脂が非晶性樹脂の場合は非晶性樹脂のガラス転移温度+50~ガラス転移温度+105℃である。この温度範囲内であれば薄肉成形が可能な成形性を確保することができ、流動停止温度がこの温度範囲より低い場合は成形性に劣り、この温度範囲より高い場合は成形品に大きなバリが出て好ましくないことがある。流動停止温度は、好ましくは熱可塑性樹脂が結晶性樹脂の場合は結晶性樹脂の融点-15℃以上、融点+20℃以下であり、熱可塑性樹脂が非晶性樹脂の場合は非晶性樹脂のガラス転移温度+60℃以上、ガラス転移温度+100℃以下である。より好ましくは熱可塑性樹脂が結晶性樹脂の場合は結晶性樹脂の融点-10℃以上、融点+10℃以下であり、熱可塑性樹脂が非晶性樹脂の場合は非晶性樹脂のガラス転移温度+70℃以上、ガラス転移温度+90℃以下である。
(プレス中冷却速度)
プレス中冷却速度は1.5~100℃/秒が好ましい。プレス中冷却速度が1.5℃/秒未満になると樹脂材の厚みが大きくなり、顧客の薄肉要望に応えられない場合がある。また仮に、樹脂材の厚みが薄肉要望に応えられる程度であった場合は、成形品の生産性に劣る場合があり好ましくない。一方、プレス冷却速度が100℃/秒を超えると流動開始点での樹脂材の温度が低くなり成形性、特に薄肉成形性に劣る場合がある。プレス中冷却速度は、より好ましくは3.0~70.0℃/秒であり、更により好ましくは3.5~60.0℃/秒であり、特により好ましくは5.0~55.0℃/秒である。
(成形可能時間:パート2)
成形可能時間は0.01~18.0秒が好ましく、0.2~10.0秒がより好ましい。更により好ましくは0.3~8.0秒、特により好ましくは0.4~6.0秒である。成形可能時間が0.01秒未満であると、樹脂材が流動する時間が短くなり成形性に劣る場合があり、成形可能時間が18.0秒を超えると、大きなバリが発生し好ましくない場合がある。
(熱分解速度)
(プレス成形機)
(規定プレス圧)
(金型)
(金型の温調方法)
具体的には、図4に示すように金型上型33と金型下型32内に冷却媒体経路44と熱媒体経路43が配置された金型(41,42)からなる。冷却媒体としては水、油、エチレングリコール、エアー等の公知の液体または気体の媒体が用いられ、取り扱いの容易な点から、水とエアーの併用が好ましい。熱媒体としては水、油、スチーム、エチレングリコール、カートリッジヒーター、シーズヒーター、誘導コイル、通電金属帯等の公知のものが用いられる。金型の昇温前後の温度差、すなわち昇温範囲が30℃未満の場合は水、油、スチーム、エチレングリコールといった取り扱いが容易な熱媒体を用いることが好ましい。金型の昇温範囲が30~60℃の場合はカートリッジヒーターやシーズヒーターを用いることが、昇温速度が速い点で好ましい。金型の昇温範囲が60℃を超える場合は、昇温速度が極めて速い誘導コイルや通電金属帯を用いることが好ましい。熱媒体の選定は、前述の昇温範囲や金型の形状および昇温温度のレベルによって適宜行われる。なお、スチーム水や油といった冷却媒体および熱媒体の両方に使用可能な媒体を用いる場合、冷却媒体経路と熱媒体経路を1つに集約してもよく、例えば、一つの経路に水を流して冷却したのちスチームを流して昇温することができる。
熱媒体経路は金型表面近くに設置されるのが昇温効率の観点で好ましく、具体的には金型表面と熱媒体経路の距離が2~50mmであることが更に好ましい。金型表面と熱媒体経路の距離が2mm未満である場合は金型強度が不足し、プレス成形法を実施中に金型が割れたり陥没したりする場合がある。金型表面と熱媒体経路の距離が50mmを越えると昇温効率が低下する場合がある。冷却媒体経路は金型表面から見て熱媒体経路の下に設置されるのが熱媒体経路の作成が容易になる点で好ましい。熱媒体経路や冷却媒体経路の設計は、狙いの昇温速度や冷却速度を達成するため、コンピューターによる熱解析により設計することがより好ましく、経路の間のピッチや経路の配置なども適宜設計される。
(加熱機)
(樹脂材搬送機)
(プレス成形品の製造方法)
(繊維強化樹脂材)
繊維強化樹脂材におけるマトリクス樹脂である熱可塑性樹脂の存在量は、熱可塑性樹脂の種類や強化繊維の種類等に応じて適宜決定することができるものである。通常、強化繊維100重量部に対して熱可塑性樹脂を3重量部~1000重量部の数値範囲内であることが好ましい。繊維強化樹脂材における強化繊維100重量部あたりの熱可塑性樹脂の存在量として、より好ましくは30重量部~200重量部であり、更に好ましくは50重量部~150重量部であり、特により好ましくは80重量部~145重量部である。マトリクス樹脂が強化繊維100重量部に対し3重量部以上であると熱可塑性樹脂の含浸が十分に進み、熱可塑性樹脂が非含浸の強化繊維が少なくなる傾向にある。またマトリクス樹脂が強化繊維100重量部に対し1000重量部以下であると強化繊維の量が充分で構造材料として適切になることが多い。また同時に、この繊維強化樹脂材における強化繊維100重量部あたりの熱可塑性樹脂の存在量が上記の数値範囲にある時、薄肉成形性に優れ且つ薄肉な成形品であっても目付量当たりの曲げ強度が高い等、十分な機械的強度を有することができる。その結果、得られる繊維強化樹脂成形品は本発明の効果を十分に発揮することができ、好ましい態様である。本発明の繊維強化樹脂材において、微視的に観察すると強化繊維100重量部当たりの熱可塑性樹脂の存在量が異なる部位がある場合であっても、樹脂材または成形品など全体で上記の重量部範囲に該当するものであると好ましい。なお、本発明に関して重量との表記を便宜上用いているが、正確にいうと質量である。またこれら繊維強化樹脂材中の強化繊維の重量(質量)を基準とする熱可塑性樹脂の重量(質量)は、そのまま繊維強化樹脂成形品の重量(質量)比率となる。更に、これら繊維強化樹脂材中の強化繊維と熱可塑性樹脂の重量(質量)比率は、それぞれの重量を、強化繊維と熱可塑性樹脂の比重(密度)で割れば、体積比率を算出することができる。
繊維強化樹脂材における強化繊維の配向状態としては、例えば、強化繊維の長軸方向が一方向に配向した一方向配向状態や、上記長軸方向が繊維強化樹脂材の面内方向においてランダムに配向した2次元ランダム配向状態を挙げることができる。
本発明における強化繊維マットとは、強化繊維が堆積し、または絡みあうなどしてマット状になったものをいう。強化繊維マットとしては、強化繊維の長軸方向が繊維強化樹脂成形品の面内方向においてランダムに配向した2次元ランダム強化繊維マットや、強化繊維が綿状に絡み合うなどして、強化繊維の長軸方向がXYZの各軸方向においてランダムに配向している3次元ランダム強化繊維マットが例示される。
本発明における等方性基材とは繊維強化樹脂材の態様の1つであり、強化繊維マットに、熱可塑性樹脂が含まれるものをいう。本発明における等方性基材において、強化繊維マットに熱可塑性樹脂が含まれる態様としては、例えば、強化繊維マット内に粉末状、繊維状、または塊状の熱可塑性樹脂が含まれる態様や強化繊維マットに熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂層が搭載または積層された態様を挙げることができる。
本発明に用いられる繊維強化樹脂材においては、1枚の繊維強化樹脂材中に、異なる配向状態の強化繊維が含まれていてもよい。
なお、繊維強化樹脂材内における強化繊維の配向態様は、以下の手法により確認することができる。例えば、繊維強化樹脂材の任意の方向、およびこれと直行する方向を基準とする引張試験を行い、引張弾性率を測定した後、測定した引張弾性率の値のうち大きいものを小さいもので割った比(Eδ)を測定する。この弾性率の比の数値の大小で確認できる。弾性率の比が1に近いほど、強化繊維が等方的に配向していると評価できる。直交する2方向の弾性率の値のうち大きいものを小さいもので割った弾性率の比が2を超えないときに等方性であるとされ、この比が1.5未満であると等方性が優れているとされ、この比が1.3を超えないときは特に等方性に優れていると評価される。
繊維強化樹脂材における強化繊維の目付量は、通常、25g/m2~10000g/m2の数値範囲が好ましい。より好ましくは200~2000g/m2の範囲であり、更により好ましくは400~1500g/m2である。強化繊維強化樹脂材における強化繊維の目付量が上記の数値範囲にある時、薄肉成形性に優れ且つ薄肉な成形品であっても目付量当たりの曲げ強度が高い等、十分な機械的強度を有することができる。その結果、得られる繊維強化樹脂成形品は、本発明の効果を十分に発揮することができ、好ましい態様である。繊維強化樹脂材をプレス成形して繊維強化樹脂成形品を製造する際、特に強化繊維や成形材料の追加がされなければ、繊維強化樹脂材における強化繊維の目付量を、得られる繊維強化樹脂成形品における強化繊維の目付量とみなすことができる。
本発明における繊維強化樹脂材の強化繊維体積割合(Vf)は、10~80%が好ましい。より好ましくは20~65%、更により好ましくは25~55%である。繊維強化樹脂材の強化繊維体積割合が、この数値範囲にある時、薄肉成形性に優れ且つ薄肉な成形品であっても目付量当たりの曲げ強度が高い等、十分な機械的強度を有することができ、本発明の効果を十分に発揮することができ、好ましい態様である。特に強化繊維や成形材料の追加がされなければ、繊維強化樹脂材における強化繊維体積割合(Vf)の数値を、得られる繊維強化樹脂成形品における強化繊維体積割合(Vf)の値とみなすことができる。
本発明に用いられる繊維強化樹脂材の厚みは特に限定されるものではないが、通常、0.01mm~100mmの数値範囲内が好ましく、0.05mm~5.0mmの数値範囲内がより好ましく、0.1mm~3.0mmの数値範囲内が更により好ましく、0.6~2.3mmの数値範囲が特により好ましい。繊維強化樹脂材の厚みが上記の数値範囲内にある場合には、成形性、軽量性、外観に優れかつ自動車、航空機、圧力容器等の分野に好適に用い得る繊維強化樹脂成形品を得ることができる。なお、本発明に用いられる繊維強化樹脂材が複数の層が積層された構成を有する場合、上記厚みは各層の厚みを指すのではなく、各層の厚みを合計した繊維強化樹脂材全体の厚みを指すものとする。
本発明に用いられる繊維強化樹脂材は、単一の層からなる単層構造を有するものであってもよく、または複数層が積層された積層構造を有するものであってもよい。繊維強化樹脂材が上記積層構造を有する態様としては、同一の組成を有する複数の層が積層された態様であってもよく、または互いに異なる組成を有する複数の層が積層された態様であってもよい。
また、繊維強化樹脂材が上記積層構造を有する態様としては、相互に強化繊維の配向状態が異なる層が積層された態様であってもよい。このような態様としては、例えば、強化繊維が一方向配向している層と、2次元ランダム配向している層を積層する態様を挙げることができる。また、3層以上が積層される場合には、任意のコア層と、当該コア層の表裏面上に積層されたスキン層とからなるサンドイッチ構造としてもよい。
(強化繊維)
本発明の繊維強化樹脂材に含まれる強化繊維としてより好ましい繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、および玄武岩繊維からなる群より選ばれる1つ以上の強化繊維であり、後記の重量平均繊維長の数値範囲にあるものであると更に好ましい。
複数種の無機繊維を併用する態様としては、例えば、炭素繊維と金属繊維とを併用する態様、炭素繊維とガラス繊維を併用する態様等を挙げることができる。一方、複数種の有機繊維を併用する態様としては、例えば、アラミド繊維と他の有機材料からなる繊維とを併用する態様等を挙げることができる。さらに、無機繊維と有機繊維を併用する態様としては、例えば、炭素繊維とアラミド繊維とを併用する態様を挙げることができる。
本発明においては、上記強化繊維として炭素繊維を用いることが好ましい。炭素繊維は、軽量でありながら強度に優れた繊維強化樹脂材を得ることができるからである。上記炭素繊維としては、一般的にポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、石油・石炭ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、リグニン系炭素繊維、フェノール系炭素繊維、気相成長系炭素繊維などが知られているが、本発明においてはこれらのいずれの炭素繊維であっても好適に用いることができる。
中でも、本発明においては引張強度に優れる点でポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維を用いることが好ましい。強化繊維としてPAN系炭素繊維を用いる場合、その引張弾性率は100GPa~600GPaの数値範囲内であることが好ましく、200GPa~500GPaの数値範囲内であることがより好ましく、230GPa~450GPaの数値範囲内であることがさらに好ましい。また、引張強度は2000MPa~10000MPaの数値範囲内であることが好ましく、3000MPa~8000MPaの数値範囲内であることがより好ましい。
本発明に用いられる強化繊維は、マトリクス樹脂との密着性を向上させるため、表面にサイジング剤が付着しているものであってもよい。サイジング剤が付着している強化繊維を用いる場合、当該サイジング剤の種類は、強化繊維およびマトリクス樹脂の種類に応じて適宜選択することができるものであり、特に限定されるものではない。
本発明は強化繊維の少なくとも一部が単繊維状の形態を成している時、薄肉成形性に優れていることから、その効果を顕著に見る事ができる。その一方、繊維強化樹脂材の流動性を確保するため、強化繊維の一部の形態が単繊維の束を成している事が好ましい。強化繊維の形態は単繊維状でも単繊維束状でも構わない。本発明の繊維強化樹脂材に含有する強化繊維がこの両者の形態を共存させている時、薄肉成形性に優れ且つ薄肉な成形品であっても目付量当たりの曲げ強度が高い等、十分な機械的強度を有することができる。その結果、得られる繊維強化樹脂成形品は、本発明の効果をより十分に発現することができる。なお、単繊維束とは、数本以上の強化単繊維が束状に存在している事を意味する。単繊維束を形成する強化単繊維の本数として、好ましくは280本以上であり、より好ましくは600本以上である。本発明においては、より好ましくは強化繊維が単繊維数の異なる単繊維束の混合物であることである。強化繊維が単繊維数の異なる単繊維束の混合物であることにより、より薄肉化された成形品を得ることおよび得られる成形品が十分な強度を有することができるので、好ましい態様である。
本発明の繊維強化樹脂材に含まれる強化繊維の重量平均繊維長は1~100mmが好ましく、以下重量平均繊維長が1~100mmの繊維不連続繊維と証することがある。受領平均繊維長がこの数値範囲内にある時、繊維強化樹脂成形品の寸法精度が良好となる。重量平均繊維長としてより好ましくは5mm~90mmであり、より一層好ましくは10mm~80mmである。
本発明においては繊維長が互いに異なる強化繊維を併用してもよい。換言すると、本発明に用いられる強化繊維は、その平均繊維長が単一のピークを有する強化繊維であってもよく、あるいは複数のピークを有する強化繊維であってもよい。
なお、強化繊維をロータリーカッターで切断した場合など、強化繊維の繊維長が一定長である場合は数平均繊維長を重量平均繊維長とみなすことができる。本発明において数平均繊維長、重量平均繊維長のいずれを採用しても構わないが、繊維強化樹脂材の物性をより正確に反映できるのは、重量平均繊維長である場合が多い。本発明に用いられる強化繊維の単繊維径は、強化繊維の種類に応じて適宜決定すればよく、特に限定されるものではない。強化繊維として炭素繊維を用いる場合、平均単繊維径は、通常、3μm~50μmの数値範囲内であることが好ましく、4μm~12μmの数値範囲内であることがより好ましく、5μm~8μmの数値範囲内であることがさらに好ましい。
一方、例えば強化繊維としてガラス繊維を用いる場合、平均単繊維径は、通常、3μm~30μmの数値範囲内であることが好ましい。また同時に、強化繊維の種類を問わず、強化繊維の平均単繊維径が上記の数値範囲にある時、薄肉成形性に優れ且つ薄肉な成形品であっても目付量当たりの曲げ強度が高い等、十分な機械的強度を有することができる。その結果、得られる繊維強化樹脂成形品は、本発明の効果を十分に発揮することができ、好ましい態様である。より好ましいのは強化繊維として炭素繊維を用いる場合の単繊維径を採用することである。
ここで、上記平均単繊維径は、その名のとおり強化繊維の単繊維の直径を指すものであるが、強化繊維が単繊維の束状物である場合は、平均単繊維径を平均繊維径と略称することもある。強化繊維の平均単繊維径は、例えば、日本工業規格:JIS R7607(2000)に記載された方法によって測定することができる。本発明に用いられる強化繊維は、その種類の関わらず単繊維状の形態であってもよく、複数の単繊維からなる束状の形態であってもよい。
本発明に用いられる強化繊維は、単繊維状の形態のみであってもよく、単繊維束状の形態のみであってもよく、両者の形態が混在していてもよい。好ましくは単繊維状物と単繊維束状物が混在している形態である。ここで示す単繊維束とは2本以上の単繊維が集束剤の効果や、静電気力、ファンデルワールス力等の効果により近接している状態を示す。単繊維束状の形態の強化繊維を用いる場合、各単繊維束を構成する単繊維の数は、各単繊維束においてほぼ均一であってもよく、あるいは異なっていてもよい。
本発明に用いられる強化繊維が単繊維束状の形態である場合、各単繊維束を構成する単繊維の数は特に限定されるものではないが、通常、数本~10万本の範囲内であることが好ましい。
単繊維束状の形態の強化繊維を拡幅したり、または開繊したりする場合、本発明における強化繊維は、下記式(2)
炭素繊維全量に対する強化繊維束(A)の量の割合が20Vol%以上であれば、本発明の繊維強化樹脂材を成形した際に、強化繊維体積含有率の高い繊維強化樹脂材を得ることができ好ましい。一方、強化繊維束(A)の量の割合の上限は99Vol%であることが好ましい。強化繊維全量に対する強化繊維束(A)の量の割合が99Vol%以下であれば、強化繊維間の目隙が大きくならず、機械強度に優れる繊維強化樹脂材を得ることができる。強化繊維全量に対する強化繊維束(A)の量の割合はより好ましくは50Vol%以上98Vol%以下であり、更により好ましくは60~95Vol%、特により好ましくは70~90Vol%である。また同時に、強化繊維の全量に対する強化繊維束(A)が上記の数値範囲にある時、薄肉成形性に優れ且つ薄肉な成形品であっても目付量当たりの曲げ強度が高い等、十分な機械的強度を有することができる。その結果、得られる繊維強化樹脂成形品は、本発明の効果を十分に発揮することができ、好ましい態様である。
(熱可塑性樹脂)
上記熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン樹脂、ポリスチレン樹脂以外のポリオレフィン樹脂、熱可塑性ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂(ポリオキシメチレン樹脂)、ポリカーボネート樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、フッ素系樹脂、および熱可塑性ポリベンゾイミダゾール樹脂等からなる群より選ばれる1種類以上の樹脂を挙げることができる。
上記ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、およびポリビニルアルコール樹脂等からなる群より選ばれる1種類以上の樹脂を挙げることができる。
上記熱可塑性ポリアミド樹脂としては、例えば、ポリアミド6樹脂(ナイロン6)、ポリアミド11樹脂(ナイロン11)、ポリアミド12樹脂(ナイロン12)、ポリアミド46樹脂(ナイロン46)、ポリアミド410樹脂(ナイロン410)、ポリアミド510樹脂(ナイロン510)、ポリアミド66樹脂(ナイロン66)、ポリアミド610樹脂(ナイロン610)、ポリアミド612樹脂(ナイロン612)、ポリアミド1010樹脂(ナイロン1010)、ポリアミド4T樹脂(ナイロン4T)、ポリアミド5T樹脂(ナイロン5T)、ポリアミド5I樹脂(ナイロン5I)、ポリアミド6T樹脂(ナイロン6T)、ポリアミド6I樹脂(ナイロン6I)、およびポリアミドMXD6樹脂(ナイロンMXD)等からなる群より選ばれる1種類以上の樹脂を挙げることができる。
上記(メタ)アクリル樹脂としては、例えば、ポリアクリル樹脂、ポリメタクリル樹脂、ポリメチルアクリレート樹脂、およびポリメチルメタクリレート樹脂等からなる群より選ばれる1種類以上の樹脂を挙げることができる。
上記熱可塑性ポリイミド樹脂としては、例えば、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、およびポリエステルイミド樹脂等からなる群より選ばれる1種類以上の樹脂を挙げることができる。
上記ポリエーテルケトン樹脂としては、例えば、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、およびポリエーテルケトンケトン樹脂等からなる群より選ばれる1種類以上の樹脂を挙げることができる。
本発明に用いられる熱可塑性樹脂は1種類のみであってもよく、2種類以上であってもよい。2種類以上の熱可塑性樹脂を併用する態様としては、例えば、相互に軟化温度が異なる熱可塑性樹脂を併用する態様や、相互に平均分子量が異なる熱可塑性樹脂を併用する態様等を挙げることができるが、この限りではない。また、2種類以上の熱可塑性樹脂を併用する場合の成形パラメーターと冷却パラメーターは主たる成分の熱可塑性樹脂の融点、結晶化温度およびガラス転移温度等の熱パラメーターを考慮して選択することができる。ここで主たる成分の熱可塑性樹脂とは、上記の2種類以上の熱可塑性樹脂の中で、最も配合重量の高い熱可塑性樹脂のことを表す。これらの成形パラメーターと冷却パラメーターは、前述のように装置・設備の仕様、装置・設備の使用方法、樹脂材を構成する熱可塑性樹脂、強化繊維の種類、配合および形態ならびに金型の温度、金型の熱容量および重量などから総合的に導き出されるものである。従って、1または2以上の上記条件等を変更すると値が変動するパラメーターであり、主たる成分の熱可塑性樹脂の熱パラメーターのみによって限定されるものではない。
更に、熱可塑性樹脂を2種類以上用いる場合には、複合材料の用途等に応じて適宜熱可塑性樹脂を組み合せて選択して用いることができる。上記熱可塑性樹脂の組合せとしては、ポリスチレン樹脂、ポリスチレン樹脂以外のポリオレフィン樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂(ポリオキシメチレン樹脂)、ポリカーボネート樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアリーレンエーテル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、フッ素系樹脂、および熱可塑性ポリベンゾイミダゾール樹脂等よりなる群から少なくとも2種類以上の熱可塑性樹脂を組み合せて用いることができる。
(繊維強化樹脂材の製造方法)
例えば、複数の強化繊維からなるストランドを、必要に応じ強化繊維の長さ方向に沿って連続的にスリットして幅0.05mm~5mmの複数の細幅ストランドにした後、平均繊維長3mm~100mmに連続的にカットする。次に、カットした強化繊維に気体を吹付けてより小さい単繊維数の強化繊維へと開繊させた状態で、通気性コンベヤーネット等の上に層状に堆積させることによりマットを得ることができる。この際、粒体状もしくは短繊維状の熱可塑性樹脂を強化繊維とともに通気性コンベヤーネット上に堆積させるか、またはマット状の強化繊維層に溶融した熱可塑性樹脂を膜状に供給し、強化繊維間に熱可塑性樹脂を浸透させることにより熱可塑性樹脂を包含する等方性基材を製造することもできる。
なお、強化繊維(A)中の単繊維数を制御するために、上述した好適な等方性基材の製造法において、カット工程に供する強化繊維の大きさ、例えば単繊維束としての強化繊維の幅や幅当りの単繊維数を調整することでコントロールすることができる。具体的には拡幅するなどして強化繊維の幅を広げてカット工程に供すること、カット工程の前にスリット工程を設ける方法が挙げられる。また強化繊維をカットと同時に、スリットしてもよい。
上述のような等方性基材を使用して得られた繊維強化樹脂材は、その面内において、強化繊維が特定の方向に配向しておらず、無作為な方向に分散して配置されている。すなわち、この様な繊維強化樹脂材は面内等方性の材料である。互いに直交する2方向の引張弾性率の比を求めることで、繊維強化樹脂材の等方性を定量的に評価することができる。また、本発明の繊維強化樹脂成形品や、繊維強化樹脂材中には、本発明の目的を損なわない範囲で、有機繊維または無機繊維の各種繊維状または非繊維状のフィラー、難燃剤、耐UV剤、安定剤、離型剤、カーボンブラック、顔料、染料、軟化剤、可塑剤、または界面活性剤等の添加剤を含んでいてもよい。
本発明においては、上記した加熱温度、チャージ時間、空冷速度、昇圧時間、流動停止温度、成形可能時間等の数値パラメーターの数値範囲をすべて満たすことが必要である。そこで、以上の各数値パラメーター、繊維強化樹脂材、および繊維強化樹脂材を構成している強化繊維と熱可塑性樹脂について説明した内容を踏まえて、図1~図3について図1を中心にしてより詳細に説明する。図1は温度の時間変化を示す上グラフ1と、プラテン位置と圧力値の時間変化を示す下グラフ2を表す。図2は繊維強化樹脂材が赤外線オーブンにより加熱され、金型に搬送される装置の概要31を表す。図3は繊維強化樹脂材を設置した金型上型と金型下型のシャーが合わさる瞬間の装置の概要40を表す。
図1において、上側に示したグラフは繊維強化樹脂材中の温度の時間変化と、金型の特定位置の温度の時間変化を表すグラフ(上グラフ)1であり、下側に示したグラフはプレス成形機のプラテン位置の時間変化と、プレス成形機のプレス圧力の時間変化を表すグラフ(下グラフ)2である。上グラフは縦軸が温度3を表し、横軸が時間4を表している。
上グラフ中の1つは繊維強化樹脂材中の温度(図2、図3中の熱電対36により測定)の時間変化を表すグラフ7である。繊維強化樹脂材(図2、図3中の35)は、赤外線オーブン(図2中の38)の中で加熱され、グラフ7が示す様に、まずは時間変化と共に温度が上昇する。繊維強化樹脂材の温度が最も上昇する時点の温度が加熱温度(T)8を表す。次に加熱温度に達した繊維強化樹脂材は、赤外線オーブン(図2中の38)から出され、金型下型(図2、図3中の32)に設置される動作(図2中の39)が開始される。この時点がチャージ時間(tc)の始点である。この時点から当然のことながら、繊維強化樹脂材中の温度は低下し始める。この時点以降の時間帯の冷却速度が空冷速度(C1)に該当する。更に、繊維強化樹脂材の金型下型への設置が終了した後、プレス成形機のプラテン位置の下降が開始する。そして、金型上型と樹脂材が接触した時点でチャージ時間が終了する。同時にこの時点から、より急激な速度で樹脂材中の温度が低下し始めるので、樹脂材中の温度の時間変化に温度変曲点18が表れる。この時点以降の時間帯の冷却速度がプレス中冷却速度(C2)に該当する。そして時間変化と共に樹脂材中の温度は更に低下し、流動停止温度(Tf)19に達し、さらに樹脂材中の温度が低下した時点でコールドプレス成形の工程は終了する。
上グラフ中の他のグラフは金型上型と金型下型のシャーが合わさる箇所の温度(図2、図3中の熱電対34により測定)を測定しており、この箇所の温度の時間変化を表すグラフ9である。加熱された樹脂材(図2、図3中の35)は金型下型に設置され、プレス成形機が作動し、金型上型と金型下型のシャーが合わさる時点までは、あらかじめ設定した一定の温度を表示する。すなわち、この時点まではこの箇所の温度の時間変化を表すグラフ9は水平となる。金型上型と金型下型のシャーが合わさる時点において、この箇所の温度を測定している熱電対(図2、図3中の34)に非常に大きな力がかかり温度異常を表す時点10が表示される。このグラフ9の役目は、後述のとおりこの温度異常を表す時点10を表示させることにある。これらの熱電対36と熱電対34で測定される温度の時間変化のデータは熱電対データロガーに蓄積される(図2、図3中の37)。
次に下グラフである。下グラフは縦軸がプラテン位置およびプレス成形機の圧力5を表し、横軸が時間6を表している。下グラフの1つはプレス成形機のプラテン位置の時間変化11を表している。樹脂材が金型下型に設置され、プラテンが降下を始める直前の時点までは、一定の位置で固定されている。すなわち、この時点まではプラテン位置の時間変化を表すグラフは水平となる。プレス成形機が作動を開始するとプラテン位置は下降を開始し、予め算出しておいた金型上型と金型下型のシャーが合わさる時点に対応するプラテン位置13を通過する。その後も、更にプラテン位置は下降を続ける。そして、そのプラテン位置が繊維強化樹脂材の流動停止時のプラテン位置16に達した時点でコールドプレス成形の工程は終了する。
下グラフの他のグラフはプレス成形機の圧力値の時間変化12を表している。金型上型と金型下型のシャーが合わさる箇所の温度の時間変化は図2、図3中の34により測定されており、この箇所の温度の時間変化を表すグラフがグラフ9である。プレス圧力は、プラテン位置が下降を始めても、金型上型と樹脂材が接触する時点までは一定の値を示す。すなわち、この時点まではプレス成形機の圧力値の時間変化を表すグラフは水平となる。そして金型上型と樹脂材が接触した時点から徐々に圧力値が上昇する。そして、プレス成形機の圧力値が、規定の圧力値(規定プレス圧)の半分の値15を超え、規定プレス圧の値に達した時点から、再びプレス成形機の圧力値の時間変化を表すグラフは水平となる。プレス成形機の圧力の値の時間変化を表すグラフが再び水平となり、一定の時間が経過する時点までにはコールドプレス成形の工程は終了している。上述のとおり、本発明においてはプレス成形機の圧力値が上昇に転じた時点から、規定プレス圧に達した時点までの時間を昇圧時間(tp)と定義している。
以上説明したように、金型上型と金型下型のシャーが合わさる箇所の温度のグラフ9における温度異常を表す時点10と、プラテン位置を表すグラフ11における金型上型と金型下型のシャーが合わさる時点に対応するプラテン位置13は、コールドプレス成形工程において全く同じ時点を表している。故にこの2点を基準点として、時間の横軸の目盛を合わせることによって、上グラフと下グラフの時間軸を合わせて観察、評価することができる。破線14は、この2点を同一の時点を表す基準として合わせることができる事を示している。
そして上述のように、本発明者らは、樹脂材の構成、成形条件、冷却条件を変更して繰り返して実験を行った結果、プレス成形機の圧力が規定の数値(規定プレス圧)の半分の値に達した時点で樹脂材が流動を開始したと考えられることを我々は確認している。流動停止温度19はプラテン位置の時間変化をグラフ11でモニターし、記録している。プラテン位置の時間変化が0.01mm/秒以下となった時点を16と定め、この時点での樹脂材中の温度を流動停止温度(Tf)19と定めた。そして、プレス成形機の圧力が規定の数値(規定プレス圧)の半分の値に達した時点を始点、流動停止温度に達した時点を終点とした時間帯を我々は成形可能時間と定めた。
そして本発明における製造方法においては、薄肉化された成形体を得る成形性に優れ、曲げ強度を目付量で除した数値(軽量化指数)が大きく、外観にも優れた成形品を得ることができると言う特性を有している。薄肉化された成形体を得る成形性については、以下の手順で評価を行った。切り出した繊維強化樹脂材を図5に示すように90×40mmの重ね合わせ部分ができるように2枚重ね合わせて、所定の成形条件にてコールドプレス成形を行った。成形前後の重ね合わせた部分の厚みを10点測定し薄肉成形性を評価した。その2枚重ね合わせた部分の10点の厚みの平均値がプレス成形前の基材の厚み以下であれば優れた薄肉成形性を有していると評価した。
また、曲げ強度を目付量で除した数値とは、曲げ強度をMPaを単位として表した数値を、樹脂材の目付量をg/mm2を単位として表した数値で除した値を用いて評価した。この数値を軽量化指数と呼称し、数値が大きいほど軽量で曲げ強度が強く、軽量且つ高強度の成形品であると評価することができる。この軽量化指数が0.15以上の成形品を本発明においては、軽量で曲げ強度が高い成形品であると評価した。成形品の外観評価は目視と触感により行った。
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。特に本発明の実施例、比較例においては、図4、図5および以下の評価操作に示すサイズの繊維強化樹脂成形品の製造に限定して実施しているが、本発明の内容がこれらのサイズの成形品の製造に限定されるものではない。なお、本実施例における各種の物性値は、以下の方法に従って求めた。各実施例および比較例の樹脂材の構成、成形条件、および成形品の物性の評価結果について表1~表6に示した。
1)繊維強化樹脂材中の強化繊維体積割合(Vf)
2)基材厚み
3)目付量
4)熱可塑性樹脂の融点、ガラス転移温度
5)加熱温度
6)熱分解速度
7)金型温度
8)規定プレス圧
9)チャージ時間、昇圧時間、空冷速度、プレス中冷却速度、流動停止温度
イ)時間軸合わせ用熱電対の設置
ウ)測定作業
これら2つの時間変化の時間軸は、金型上型と金型下型のシャーが合わさる瞬間に熱電対34から得られる温度測定値が異常値を示す時点10と、事前に確認しておいたシャーが合わさる位置を表しているプラテン位置を示す時点13で合わせた。この時点を基準にすることで、繊維強化樹脂材の温度変化のグラフ7および金型上型と金型下型のシャーが合わさる位置の温度変化のグラフ9と、プレス成形機のプラテン位置変化のグラフ11およびプレス圧力の変化のグラフ12を、同じ時間変化の時間軸に対するグラフとして得ることができた。
以上の測定の装置概要を図2および図3に、繊維強化樹脂材の温度および金型上型と金型下型のシャーが合わさる位置の温度の時間変化と、プレス成形機のプラテン位置およびプレス圧力の時間変化の時間軸を合わせるイメージ図を図1に示した。
エ)チャージ時間
オ)昇圧時間
カ)空冷速度
キ)プレス中冷却速度
ク)流動停止温度
10)算出した成形可能時間
11)成形性(薄肉成形性)
本発明においては、2枚重ね合せた部分の10点の厚みの平均値がプレス成形前の基材の厚み以下であれば合格(OK)と評価し、10点の厚みの平均値がプレス成形前の基材厚みを超えていれば不合格(NG)と評価した。換言すると、プレス成形前の基材の厚みの値をA、プレス成形後の基材の厚みの値をBとした場合に、数式B/A×100の値が100以下の場合を合格(OK)と評価し、100を超える場合を不合格(NG)と評価した。
12)物性(軽量化指数)
この軽量化指数の値は、各種の繊維強化樹脂成形品において、繊維強化樹脂材の目付量や厚みの大きさに影響されなくなります。成形する前の繊維強化樹脂材の目付量は厚みより比較的容易に測定することができ、設計時点で厚みに差があるような樹脂材同士の比較も容易にすることができます。その結果、軽量で曲げ強度の高い繊維強化樹脂成形品の評価が可能になります。本発明においては、軽量化指数が0.15以上の場合を合格(OK)と評価し、0.15未満の場合を不合格(NG)と評価した。
13)外観
14)繊維強化樹脂材中の炭素繊維束(A)の割合の算出
15)強化繊維の重量平均炭素繊維長
(繊維強化樹脂材の製造)
繊維強化樹脂材に含まれる強化繊維の重量平均繊維長は20mmであり、臨界単繊維数は86本であり、強化繊維全量のうち、臨界単繊維数以上の本数の炭素単繊維からなる強化繊維(A)の割合は85vol%であった。繊維強化樹脂材中の、強化繊維(A)以外の強化繊維として、臨界単繊維数未満の本数の炭素単繊維からなる束、および単繊維状の炭素繊維も存在することを確認した。強化繊維(A)、臨界単繊維数未満の本数の炭素単繊維からなる束のいずれも、単繊維数が異なる炭素繊維の混合物であった。
[製造例2]
[製造例3]
[製造例4]
[製造例5]
[製造例6]
[製造例7]
[製造例8]
[製造例9]
[製造例10]
[製造例11]
[製造例12]
[製造例13]
[製造例14]
[製造例15]
(繊維強化樹脂成形品の製造)
以上の成形条件で明細書記載の方法で成形性の評価を行った結果、2枚重ね合せた部分の厚みは1.2mmであった。すなわち、1枚の基材厚み1.3mmにくらべ92%の厚みであり、コールドプレス成形前の樹脂材の基材厚みより薄く、優れた成形性を示した。続いて90mm×97.5mmにカットした製造例1の樹脂材を用い、前述の成形条件で成形した成形品の曲げ強度を測定した。曲げ強度は440MPaであり、曲げ強度(MPa)の値を樹脂材の目付量(g/m2)の値で割った軽量化指数は0.25であり、軽量かつ高強度で優れた物性を示した。この成形品の目視外観は炭素繊維の浮きがなく均一で、かつ平滑であり、成形品表面を指での触感も滑らかで優れた外観を示した。以上の結果を表1に示した。
[実施例2~実施例17、比較例1~比較例15]
基材厚みが1.7mmである実施例2は、加熱温度および金型温度を実施例1より低く設定しても優れた成形性を示し、得られた成形品の軽量性や外観も実施例1で得られた成形品と比べて遜色ないレベルであった。加熱温度と金型温度が実施例1より低いがその分チャージ時間を短く設定されている実施例3は、算出した成形可能時間が実施例1と同等でありかつ成形性も実施例1と同等の優れたレベルを示し、得られた成形品は優れた軽量性や外観を有していた。昇圧時間が実施例1より短く設定されている実施例4は、成形可能時間の算出値が実施例1より大きく、実施例1より優れた成形性を示し、得られた成形品は優れた軽量性や外観を有していた。規定プレス圧が実施例1より低い実施例5は、2枚重ね合わせた部分の厚みが基材厚みまで潰れており、優れた成形性を示していると言え、得られた成形品は優れた軽量性や外観を有していた。基材厚みが2.0mmとやや基材厚みが厚い樹脂材を用いている実施例6は、加熱温度が実施例1より低く、且つ金型温度が実施例1と同等であっても、厚み、目付量の大きい樹脂材を用いているので、空冷速度、プレス中冷却速度を実施例1と対比して小さい値とすることができた。その結果として実施例1より十分長い成形可能時間を確保することができ、得られた成形品は優れた成形性、軽量性、外観を有していた。
実施例7は、実施例6よりも更に基材厚みと樹脂材の目付量を増やし、更に加熱温度を低めに設定することによって、空冷速度およびプレス中冷却速度を更に遅くさせ、成形可能時間を長くとることができた実施例である。実施例8は、実施例1と対比して加熱温度を高めに設定し金型温度を低く設定することでプレス中冷却速度が速くなるように設定した実施例である。実施例12は、実施例8と同様に加熱温度を高めに設定し、チャージ時間を実施例1と対比して長めに設定することで成形可能時間をかなり短くなるように設定した実施例である。実施例15は、実施例1と対比して基材厚みが薄く基材目付量も少ない樹脂材を用いて、加熱温度を高めに設定し、空冷速度、プレス中冷却速度が速くなるように設定した実施例である。実施例13は、実施例15ほど極端ではないものの、基材厚みが薄く基材目付量も少ない樹脂材を用いて、加熱温度を高めに設定し、空冷速度、プレス中冷却速度が速くなるように設定した実施例である。実施例14は、実施例1と対比してチャージ時間を若干短く設定し、流動停止温度を低下するように設定した結果、空冷速度、プレス中冷却速度は実施例1と同じであるが、成形可能時間が長くなるように設定した実施例である。これらのいずれの実施例においても、優れた成形性、軽量性、外観を有する成形品を得ることができた。
最後に、樹脂材を構成する熱可塑性樹脂としてPBT樹脂(ポリブチレンテレフタレート樹脂)に変更した実施例についても概説する。実施例10は、熱可塑性樹脂としてPBTを用いて、成形条件、冷却条件について実施例1と同じ条件を採用した実施例であり、成形性、軽量性、外観の評価結果が良好な成形品を得ることができた。この実施例10を基準として、加熱温度を低めに設定しチャージ時間を短めに設定した実施例9、加熱温度を高めに設定し金型温度を低めにすることによりプレス中冷却速度を速めた実施例11は共に、実施例10と同等に優れた成形性、軽量性、外観を有する成形品を得ることができた。実施例16は、樹脂材の構成条件、成形条件、冷却条件を調整することによって、熱可塑性樹脂としてPBTを用いた実施例の中では、流動停止温度を低く、成形可能時間を長く設定した実施例である。実施例17はこれらの条件を調整することによって、熱可塑性樹脂としてPBTを用いた実施例の中では、逆に流動停止温度を高く、成形可能時間を短く設定した実施例である。実施例16、実施例17のいずれの実験例でも優れた成形性、軽量性、外観を有する成形品を得ることができた。
次に比較例について説明する。加熱温度が本発明で規定する数値範囲より低い比較例1は成形性と外観に劣っていた、加熱温度が本発明で規定する数値範囲を超えた比較例2は、熱分解量が多いため成形品表面での炭素繊維の露出が多く、外観に劣っていた。チャージ時間が本発明で規定する数値範囲より小さい比較例3は、現実的かつ実用的に、このチャージ時間を維持し、工業的な規模で連続的にチャージを行うことが困難なため成形困難であった。チャージ時間が本発明で規定する数値範囲を超えた比較例4は成形可能時間がマイナスとなり成形性に劣っていた。昇圧時間が本発明で規定する数値範囲を超えた比較例5と、規定プレス圧を意識的に低めに設定した比較例6は成形可能時間がマイナスとなり成形性に劣っていた。
基材厚みが2.65mmである比較例7は、空冷速度が本発明で規定する数値範囲より遅く、軽量化指数が0.12と低く、軽量性に劣っていた。強化繊維体積割合(Vf)が15%である比較例8は流動停止温度が190℃と本発明で規定する数値範囲より低く、大きなバリが発生するため成形性に劣っていた。樹脂材の基材厚みが0.8mmである比較例9は空冷速度が本発明で規定する数値範囲を超えており、成形性に劣っていた。昇圧時間を本発明で規定する数値範囲より短く設定して実施した比較例12は、金型かじりが発生し、金型が破損したために連続成形が困難であった。樹脂材の基材厚みが0.5mmである比較例13は空冷速度が本発明で規定する数値範囲を超えており、成形性に劣っていた。
最後に、樹脂材を構成する熱可塑性樹脂としてPBT樹脂(ポリブチレンテレフタレート樹脂)に変更した比較例についても概説する。加熱温度を250℃が本発明で規定する数値範囲より低い比較例10は、熱可塑性樹脂がナイロン6の場合と同じく成形性と外観に劣る。加熱温度が本発明で規定する数値範囲を超えた比較例11は、軽量性に劣る。強化繊維体積割合(Vf)が15%である比較例14は流動停止温度が190℃と本発明で規定する数値範囲より低く、バリの発生が著しく、成形性や軽量性を評価するに値する成形品を得ることができなかった。樹脂材の基材厚みが0.5mmである比較例15は、熱可塑性樹脂がナイロン6の場合と同じく、空冷速度が本発明で規定する数値範囲を超えており、成形性に劣る。
本発明の製造方法によれば、繊維強化樹脂材をコールドプレス成形し、繊維強化樹脂成形品を製造する方法において、更に薄肉化された成形品を得ることができる。更に得られた成形品は、曲げ強度を目付量で除した数値が大きく、外観にも優れた繊維強化樹脂成形品である。その結果、自動車、航空機、圧力容器等といった、従来金属が用いられてきた薄肉成形・軽量性が求められる用途にも繊維強化樹脂材から得られる成形品を用いることができ、産業上の意義は極めて大きい。
1:繊維強化樹脂材中の温度と、金型の特定位置の温度の時間変化を表すグラフ(上グラフ) The present invention addresses the problem of providing a method for producing a fiber-reinforced resin molding by cold press-molding a fiber-reinforced resin material made of a thermoplastic resin and reinforcing fibers, wherein the fiber-reinforced resin molding has excellent moldability such that thin-walled moldings are obtained, the numerical value of bending strength divided by grammage (weight reduction index) is large, and external appearance is excellent. Said problem can be solved by a method for producing a fiber-reinforced resin molding by cold press-molding a fiber-reinforced resin material comprising reinforcing fibers and a thermoplastic resin using a mold with an upper mold and a lower mold. The fiber-reinforced resin molding production method is characterized in that the respective parameters for heating temperature, charge time, air-cooling rate, pressurization time, flow-stopping temperature, cooling rate during pressing, and time during which molding is possible simultaneously satisfy specified numerical ranges.
強化繊維と熱可塑性樹脂を含む繊維強化樹脂材を、上型と下型を有する金型を用いてコールドプレス成形することによる繊維強化樹脂成形品の製造方法であって、下記のa)~f)を同時に満たすことを特徴とする繊維強化樹脂成形品の製造方法。
加熱時の繊維強化樹脂材を構成する熱可塑性樹脂の熱分解速度(以下、熱分解速度と称する。)が0.03~0.2重量%/秒である請求項1に記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
C2が1.5~100℃/秒である請求項1~2のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
成形可能時間が0.2~10.0秒である請求項1~3のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
プレス成形機の規定の圧力(以下、規定プレス圧と略する。)が10~50MPaである請求項1~4のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
強化繊維が単繊維数の異なる強化繊維単繊維束の混合物である請求項1~5のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
強化繊維が炭素繊維であって、該炭素繊維の重量平均繊維長が1~100mmであり、下記式(2)で定義される臨界単繊維数以上の本数の炭素単繊維で構成される炭素繊維(A)について、強化繊維全量に対する割合が20~99Vol%である請求項1~6のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
すなわち本発明は、以下の内容を要旨とする。
a)成形前加熱した直後の繊維強化樹脂材の内部温度(以下、Tまたは加熱温度と称する。)が、熱可塑性樹脂が結晶性樹脂の場合は融点+50℃~融点+100℃の範囲であり、熱可塑性樹脂が非晶性樹脂の場合はガラス転移温度+125℃~ガラス転移温度+175℃の範囲である。
b)繊維強化樹脂材に対する加熱終了後から加熱後の繊維強化樹脂材を金型の下型へ設置するまでの時間(以下、tcまたはチャージ時間と称する。)が6.0~35.0秒である。
c)繊維強化樹脂材を加熱後に、繊維強化樹脂材を金型の下型の上に設置し、金型の上型が繊維強化樹脂材に接触するまでの、繊維強化樹脂材の冷却速度(以下、C1または空冷速度と称する。)が1.0~6.5℃/秒である。
d)金型の上型が繊維強化樹脂材に接触してから、プレス成形機が規定の圧力に到達するまでの時間(tpまたは昇圧時間と称する。)が0.1~2.5秒である。
e)繊維強化樹脂材の流動が停止したときの温度(以下、Tfまたは流動停止温度と称する。)が、熱可塑性樹脂が結晶性樹脂の場合は結晶性樹脂の融点-25℃~融点+30℃の範囲であり、熱可塑性樹脂が非晶性樹脂の場合は非晶性樹脂のガラス転移温度+50℃~ガラス転移温度+105℃である。
f)a)~e)を用い下記式(1)に従い、金型の上型が繊維強化樹脂材に接触しプレス成形機の圧力が規定の圧力の半分の値に達した時点から、繊維強化樹脂材の温度が流動停止温度に達する時点までの時間(以下、tmまたは成形可能時間と称する。)が0.01~18秒である。
なお上記の発明の要旨中、a)~f)を同時に満たすとは、a)~f)をすべて満たすと言う意味を表している。
[2] 加熱時の繊維強化樹脂材を構成する熱可塑性樹脂の熱分解速度(以下、熱分解速度と称する。)が0.03~0.2重量%/秒である上記[1]に記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
[3] C2が1.5~100℃/秒である上記[1]~[2]のいずれかに記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
[4] 成形可能時間が0.2~10.0秒である上記[1]~[3]のいずれかに記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
[5] プレス成形機の規定の圧力(以下、規定プレス圧と略する。)が10~50MPaである上記[1]~[4]のいずれかに記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
[6] 強化繊維が単繊維数の異なる強化繊維単繊維束の混合物である上記[1]~[5]のいずれかに記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
[7] 強化繊維が炭素繊維であって、該炭素繊維の重量平均繊維長が1~100mmであり、下記式(2)で定義される臨界単繊維数以上の本数の炭素単繊維で構成される炭素繊維(A)について、強化繊維全量に対する割合が20~99Vol%である上記[1]~[6]のいずれかに記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法。
臨界単繊維数=600/D (2)
[ここでDは強化繊維の平均単繊維径(μm)である。]
本発明のコールドプレス成形法は、樹脂材中の強化繊維の折損が起こりにくく、生産性や樹脂材の等方性が維持されやすい点で成形品の好ましい製造方法である。具体的には、加熱機を用いて樹脂材を成形前加熱し、加熱後の樹脂材を上型と下型を有する金型の下型に設置し、プレス成形機によって金型の上型を下降させてもしくは金型の下型を上昇させて樹脂材へプレス圧を印加し、成形品を下型から取り出すまでの製造方法を指す。以下、特にプレス成形機によって金型の上型を下降させて成形する場合について主に説明するが、これは、金型の移動方向について本発明の範囲を限定していることを表すものではない。
本発明の成形可能時間(tm)は、金型の下型に設置された樹脂材が金型の上型に接触しプレス成形機の圧力が規定の圧力の半分の値に達した時点から、繊維強化樹脂材の温度が低下し流動停止温度に達する時点までの時間であり、後述する成形パラメーターと冷却パラメーターを用い、下記式(1)に従って算出される。
本発明の成形可能時間は、樹脂材を構成する熱可塑性樹脂の融点以上の温度にある樹脂材にプレス圧によって一定以上のせん断が加えられることで開始する流動開始点から、樹脂材の温度が流動停止温度を下回ることで終了する流動終了点までの時間を示す。そして、一般的には成形可能時間が長いほど成形性に優れるが、成形可能時間が長すぎると金型の上型と下型の隙間に樹脂材が流れ込む現象が発生する。その結果大きなバリが生じ、好ましくない。逆に成形可能時間が短いと、例えば立面がある複雑形状を成形するとき、立面に発生するシワが潰せないために得られる成形品が均一な肉厚にならず、成形性に劣るようになり好ましくない。すなわち、本発明における成形可能時間は0.01~18.0秒であり、好ましくは0.2~10.0秒であり、更に好ましくは0.3~8.0秒であり、特に好ましくは0.4~6.0秒である。成形可能時間が0.01秒を下回ると成形性に劣り、18.0秒を超えると成形品に大きなバリが生じやすくなる。なお、本発明における熱可塑性樹脂の流動とは、繊維強化樹脂材、繊維強化成形品の面内方向、すなわちプレス成形する際の金型の駆動方向に対して直角方向に限定されるものではなく、繊維強化樹脂材、繊維強化成形品の厚さ方向、すなわちプレス成形する際の金型の駆動方向への流動を含む。
成形可能時間は成形パラメーターと冷却パラメーターによって大きく変動する。本発明における成形パラメーターは、加熱温度(T)、チャージ時間(tc)および昇圧時間(tp)であり、冷却パラメーターは空冷速度(C1)、流動停止温度(Tf)およびプレス中冷却速度(C2)である。成形パラメーターは、加熱機、樹脂材搬送機およびプレス成形機の使用方法や仕様を示すパラメーターである。冷却パラメーターは樹脂材を構成する熱可塑性樹脂や強化繊維等の種類、配合および形態ならびに金型の温度、熱容量および重量を示すパラメーターである。実際には、これらのパラメーターは上述の装置・設備の仕様方法・仕様、樹脂材を構成する熱可塑性樹脂、強化繊維の種類、配合および形態ならびに金型の温度、熱容量および重量などから総合的に導き出され、1または2以上の上記条件等を変更すると値が変動するパラメーターである。
加熱温度(T)は、成形前加熱した直後の繊維強化樹脂材の内部温度であり、加熱機の使用方法や仕様を含むパラメーターである。樹脂材を加熱する加熱機としては熱風加熱機、赤外線加熱機などが用いられる。加熱温度は加熱機によって与えられる熱量の時間積算に樹脂材の熱伝導率と熱放射率の影響を加味した温度であり、狙いとする成形性が得られるように設定される。
チャージ時間(tc)は、繊維強化樹脂材に対する加熱終了後から加熱後の繊維強化樹脂材を金型の下型へ設置するまでの時間である。換言すると樹脂材に対する加熱温度までの加熱終了の時点から金型の上型が繊維強化樹脂材に接触した時点までの時間である。このチャージ時間は、樹脂材搬送機の使用方法や仕様を含むパラメーターである。樹脂材を搬送する搬送機としては特に限定はしないが、例えばロボット設備やベルトコンベアー設備などが挙げられ、加熱機からの樹脂材の取り出しと金型の下型への設置を人力で行ってもよく、また金型の下型への設置後に樹脂材の形を整える賦形を行っても良く、狙いとする成形性が得られるようこれらは設定される。
昇圧時間(tp)は、金型の上型が繊維強化樹脂材に接触してから、プレス成形機に設置された圧力計が示すプレス圧力が規定プレス圧の値に到達するまでの時間である。
増速装置としてアキュムレータータンクを用いる場合、アキュムレータータンクを開放するタイミングと、アキュムレータータンクの容量とが重要である。平面状の成形品を得る場合、金型の上型が繊維強化樹脂材に接触するタイミングで増速効果が発現されることが好ましい。油圧の圧力伝達時間遅れなどを考慮すると、樹脂材の厚みより0~5mmの上側位置に、金型の上型が到達した時点でアキュムレータータンクを開放すると、アキュムレータータンクの容量が小容量であっても十分な増速効果が得られるので好ましい。一方、凹凸を有する立体形状の成形品を得る場合、金型の型締めと共に成形品形状に沿って樹脂材が引込まれて折り曲げられる事に起因する皺が発生しやすい。特に、凹凸の立面がある成形品を得る場合には特に成形品に皺が発生しやすい。皺が少なく、表面が均一な成形品を得るためには、上述の樹脂材の引込まれや、折り曲げが始まる時点でアキュムレータータンクを開放し、金型の上型を増速し、昇圧時間を短くすることが好ましい。上記の樹脂材が引込まれて折り曲げられる事に起因する皺を、金型の型締めにて解消するには、例えば以下の手法が挙げられる。すなわち、低圧で高速作動することができる小径油圧シリンダーを用いて高速で金型の型締めを行い、発生した皺を潰しながらアキュムレータータンクを開放する方法であり、この方法を用いることが、過度な圧力を樹脂材にかける必要がなく、設備的にも好ましい。
アキュムレータータンクを制御する方法としては、例えば金型の上型のスライド位置による位置制御方法が好ましい。より簡易な方法としては、油圧の圧力の制御でも制御することができる。具体的には、上記の金型の型締めと共に成形品形状に沿って樹脂材が引込まれて折り曲げられる事に起因した皺を潰すには、上記の低圧で高速作動することができる小径油圧シリンダーの油圧が所定の圧力に達したタイミングでアキュムレータータンクを開放する方法である。この方法を用いれば製造設備にシリンダー径の大きな装置を用い、大きな圧力を動作させることは必要なくなり、昇圧時間は短くなる。この時、油圧伝達時間遅れを発生させないように、油圧伝達時間が短い小型の成形機を好適に用いることができる。が好適である。
空冷速度(C1)は、繊維強化樹脂材の加熱終了後の時点から、繊維強化樹脂材を金型の下型の上に設置し、金型の上型が繊維強化樹脂材に接触する時点までの、繊維強化樹脂材の冷却速度である。空冷速度は樹脂材の厚み、樹脂材に含まれる強化繊維の種類や量および分散状態、雰囲気温度や気流によって影響を受けるが、特に樹脂材の厚みによる影響が大きく、樹脂材の厚みが薄くなると空冷速度は大きくなり、厚みが増すと空冷速度は小さくなる傾向にある。
流動停止温度(Tf)は、繊維強化樹脂材の流動が停止したときの温度である。流動停止温度は繊維強化樹脂材に含まれる熱可塑性樹脂の溶融粘度や強化繊維の含有量、種類および形態の影響を受けるパラメーターである。樹脂材に含まれる熱可塑性樹脂が結晶性樹脂である場合、結晶性樹脂は降温結晶化温度近傍で結晶化による著しい溶融粘度上昇を起こすため、樹脂材の流動停止温度の下限値は結晶性樹脂の降温結晶化温度付近となる。強化繊維の含有量、種類および形態によっては強化繊維による流動抵抗により降温結晶化温度より高い温度で流動停止となる場合がある。樹脂材に含まれる熱可塑性樹脂が非晶性樹脂である場合、非晶性樹脂は温度低下とともに溶融粘度上昇を起こすが、非晶性樹脂は結晶性樹脂に比べ高分子鎖のモビリティが阻害されているため、高分子鎖のモビリティが失われるガラス転移温度より数十℃高い温度で流動停止に至る。また、強化繊維の含有量、種類および形態によっては強化繊維による流動抵抗により、更に高い温度で流動停止に至る場合がある。
本発明のプレス中冷却速度(C2)は、金型の上型が繊維強化樹脂材に接触した時点から流動停止温度に達する時点までの、繊維強化樹脂材の冷却速度である。プレス中冷却速度は樹脂材と金型が接触しつつ樹脂材から金型への熱伝導が生じ、前述の空冷速度よりも冷却速度が大きい。つまり、プレス中冷却速度(C2)は、空冷速度(C1)より大きい場合がある。したがって、プレス中冷却速度は、樹脂材の厚み、樹脂材に含まれる強化繊維の種類、含有量および分散状態や金型温度の影響を受けるが、金型温度の影響が特に強くなる。金型温度が低くなると樹脂材から金型への熱伝導が大きくなるためプレス中冷却速度は速くなり、金型温度が高くなると樹脂材から金型への熱伝導が小さくなるためプレス中冷却速度は遅くなる。プレス中冷却速度を遅くすると流動開始点での樹脂材の温度が高くなり、成形性が良好となるため、金型温度を高くすることは更なる薄肉化に対応するために重要となる。
成形可能時間(tm)は、金型の下型に設置された樹脂材が金型の上型が繊維強化樹脂材に接触しプレス成形機の圧力が規定の圧力の半分の値に達した時点から、繊維強化樹脂材の温度が低下し流動停止温度に達する時点までの時間である。図1に成形可能時間のイメージを示した。樹脂材の流動がプレス成形機の昇圧過程のどの時点で始まるかを見積もるのは、成形機側の昇圧を開始する時点や昇圧速度だけでなく金型の形状にも影響を受けるため、一概には困難であるが、本発明のように昇圧時間が短い場合において、プレス成形機の圧力が規定の半分の圧力に達した時点で樹脂材の流動が開始したとみて良いことを本発明者らは実験的に確かめている。
なお、成形可能時間は、上述のパラメーターを用いて以下に示される数式(1)により算出することができる。
本発明においては、加熱時の繊維強化樹脂材を構成する熱可塑性樹脂の熱分解速度(以下、熱分解速度と称する。)が0.03~0.2重量%/秒であることが好ましい。
熱分解速度が0.03重量%/秒未満であると、十分な加熱速度が与えられておらず十分な成形性を示す加熱温度に到達しないため好ましくない。一方、熱分解速度が0.2重量%/秒を超えると樹脂材を所定の加熱温度まで加熱した後、コールドプレス成形工程を終了するまでの間に樹脂材を構成する熱可塑性樹脂の熱分解が極度に進行し、十分な強度(例えば、曲げ強度、引張強度等)を有する成形品を製造することが困難になる場合がある。熱分解速度は、より好ましくは0.04~0.18重量%/秒、更により好ましくは0.05~0.15重量%/秒である。
プレス成形機は、上述のように、高速なサーボモーターを用いた電動プレス成形機、または油圧回路に吐出量の大きな油圧ポンプもしくは増速装置を設置した油圧プレス成形機を用いると好ましい。特に増速装置としてアキュムレータータンクを設置した油圧直圧式プレス成形機を用いることが好適である。しかしながら、本発明の効果を損なわない限りにおいてこれに限定するものではない。
本発明においては、コールドプレス成形法に用いるプレス成形機の規定の圧力(以下、規定プレス圧と称する。)が10~50MPaであることが好ましい。
規定プレス圧が10MPa未満であると、成形性が不十分となるため成形品内部にボイドが発生し成形品の物性が低下するため好ましくない場合がある。一方、規定プレス圧が50MPaを超えると金型の上型と下型が合わさるときに金型のかじりが発生するため金型の寿命を縮め、かつ大きなプレス圧を発生させる大きなプレス成形機が必要となり、産業上好ましくない場合がある。規定プレス圧は、より好ましくは13~30MPa、更により好ましくは15~25MPaである。以下を金型の上型を金型上型、金型の下型を金型下型と呼称することがある。
本発明において成形品の形状には特に限定は無く、金型の形状も特段の限定を必要とするものではないが、金型上型と金型下型を有する構成であることが必要である。本発明の製造方法を実施するのに好適な金型上型33と金型下型32の組図の例を41に、金型下型の上面図の例42を図4に示した。詳細には、シャーエッジ構造を有し(図4中の45、46)、金型を完全に閉じたときに、金型内部のキャビティ(図4中の48)が密閉空間となる構造を有することが好ましい。金型内部のキャビティが密閉された空間を形成することによって、プレス成形品の端部まで均一の外観を有する成形品を容易に得ることが可能になる。ただし、本発明の製造方法を用いれば、いわゆるオープンキャビティであっても比較的良好な外観を有する成形品を製造することができる。密閉空間となる構造とならない、いわゆるオープンキャビティを用いた場合、樹脂材が流動する先端は金型に接触することなく流動するので、従来は流動面と非流動面で同一の外観を有するのは難しかった。しかしながら、本発明の製造方法を用いることによって、オープンキャビティを用いた場合であって、流動面と非流動面が、ほぼ同時に加圧されるため、流動面と非流動面の外観に比較的差が無い成形品を製造できる。なお図4の金型下型の上面図の例42では、繊維強化材中の温度測定用の熱電対の通り道47を表している。これは後述のように、温度の時間変化のグラフと、プラテン位置等の時間変化のグラフを合わせる操作を行うために設けているものであり、工業的な連続生産の工程においてまで設けることを必要とするものではない。また図4においては、キャビティの面48のサイズを表示しているが、これは実施例・比較例に示した成形品を製造するにあたって使用したキャビティのサイズを示しているに過ぎず、このサイズが本発明の内容を限定するものではない。
金型の温調方法としては特に制限されるものではないが、射出成形技術におけるいわゆるヒートアンドクール成形技術を用いる方式が成形性に優れるため好ましい。ヒートアンドクール成形技術を用いる方式とは公知のものであるが、以下に示すような方式である。射出成形を行うに当たって、金型内に循環する熱媒体により成形前に設定した金型温度から更に金型温度を昇温し、樹脂材が流動するときの金型温度を成形性に有利なように高くしておいた状態で射出成形を行う。次いで、樹脂材が金型に注入され、成形された後、金型から離型するまでに冷却媒体で金型を冷却し、離型しやすいように金型温度を下げる。ヒートアンドクール成形技術を用いる方式とは、上記のような金型の温調方法を表す方式である。
加熱機に特に限定はなく、いかなる方法の利用も可能である。具体的には、熱風乾燥機による加熱方法、電気加熱型乾燥機を用いる加熱方法、飽和蒸気や過熱蒸気を用いる加熱方法、金型・ベルトコンベアー・熱ローラーなどにおいて熱板に挟む加熱方法、赤外線・遠赤外線・マイクロ波・高周波などによる誘電加熱を利用する加熱方法、誘導加熱(IH)が例示される。この中でも、赤外線による誘電加熱が、熱効率が高く熱分解速度が低いため、より好ましい。金型上型、金型下型はプレス成形工程が開始し、プレス成形機のプラテン位置が移動し始める時点までには、設定した所定の温度に保たれるように加熱されていることが好ましい。通常この温度を金型温度と呼ばれる。本発明における金型温度としては、用いられる熱可塑性樹脂の降温結晶化温度よりも低い温度に設定されることが好ましい。より好ましくは降温結晶化温度-50℃以上、降温結晶化温度-1℃以下の数値範囲であり、更により好ましくは降温結晶化温度-30℃以上、降温結晶化温度-3℃以下の数値範囲である。降温結晶化温度は、熱可塑性樹脂を融点以上の温度下に置き熱可塑性樹脂が溶融した後温度を定速で降下させた場合に、熱可塑性樹脂が結晶固化に伴い発熱現象を起こす温度で表される。通常は、示差走査熱分析装置(DSC)を用いて、温度を降下させた場合に表れるピークトップの温度を降温結晶化温度と表す。
樹脂材搬送機は、ベルトコンベアー設備、振動搬送装置、圧縮空気・ガス・蒸気等を用いた圧送装置、樹脂材を掴み上げるためのアームまたは樹脂材をすくい上げるためのヘラのような部位を有するロボット設備などが例示される。この中でも、ベルトコンベアー設備は連続生産設備として好適であり、加熱装置や保温装置などを併設しやすく好ましい。また、圧送装置は樹脂材を短時間で目的の場所に搬送することができ、このような搬送装置も好ましい。また、アームまたはヘラなどを有するロボット設備も短時間搬送が可能であり、更にコンパクト化しやすいこと、自動車分野や産業機械分野などで様々な機種が使用されていること、工夫や応用が施しやすいことからこのような搬送装置も好ましい。上記に例示した設備や装置は組み合わせて使用しても構わないし、これら一切を人力で行っても構わない。
本発明のプレス成形品を製造する方法は、後に示されるような繊維強化樹脂材をコールドプレス成形する製造方法である。具体的には、以下の操作方法を実施する。まず、樹脂材を加熱機で加熱温度まで加熱し、加熱した樹脂材を搬送機を用い金型の下型へ設置する。次に、プレス成形機を作動させ金型上型を樹脂材の表面に接触させた後、プレス成形機にかける圧力を規定プレス圧まで昇圧する。最後に、金型上型と金型下型を開いた後成形品を取り出してプレス成形品を得る。これらの設備仕様や条件は前述の通りである。このプレス成形の工程の間において、金型の下型に設置された樹脂材が金型の上型が繊維強化樹脂材に接触しプレス成形機の圧力が規定の圧力の半分の値に達した時点から、プレス成形機の圧力が規定の半分の圧力に達した時点までの時間帯に繊維強化樹脂材を構成している熱可塑性樹脂が流動すると、出願人は考える。
本発明で使用する繊維強化樹脂材は、強化繊維とマトリクス樹脂である熱可塑性樹脂とを含む。
繊維強化樹脂材における熱可塑性樹脂の目付量は、通常、200g/m2~5000g/m2の数値範囲が好ましい。より好ましくは300~2500g/m2の範囲であり、更により好ましくは500~1800g/m2である。この数値範囲の目付量の熱可塑性樹脂が存在すると、強化繊維を十分に含浸することができ、薄肉成形性に優れ、得られる繊維強化樹脂成形品が、軽量且つ十分な強度を有することができ、構造材としての用途に好適となりうる。上述の強化繊維の100重量部あたりの熱可塑性樹脂の重量部数は、強化繊維の目付量と熱可塑性樹脂の目付量の比率と対応させることができる。
本発明における強化繊維の配向状態は、上記一方向配向状態または2次元ランダム配向状態のいずれであってもよい。また、上記一方向配向状態と2次元ランダム配向状態の中間の無規則配向(強化繊維の長軸方向が完全に一方向に配向しておらず、かつ完全にランダムでない配向状態)であってもよい。さらに、強化繊維の繊維長によっては、強化繊維の長軸方向が繊維強化樹脂材の面内方向に対して一定の角度を有するように配向していてもよく、繊維が綿状に絡み合うように配向していてもよく、さらには繊維が平織や綾織などの二方向織物、多軸織物、不織布、マット、ニット、組紐、強化繊維を抄紙した紙等のように配向していてもよい。
繊維強化樹脂材中に異なる配向状態の強化繊維が含まれる態様としては、例えば、(i)繊維強化樹脂材の面内方向に配向状態が異なる強化繊維が配置されている態様、(ii)繊維強化樹脂材の厚み方向に配向状態が異なる強化繊維が配置されている態様を挙げることができる。また、繊維強化樹脂材が複数の層からなる積層構造を有する場合には、(iii)各層に含まれる強化繊維の配向状態が異なる態様を挙げることができる。さらに、上記(i)~(iii)の各態様を複合した態様も挙げることができる。
本発明の繊維強化樹脂材に含まれる強化繊維として好ましいものは炭素繊維であるが、マトリクス樹脂の種類や繊維強化樹脂材の用途等に応じて、炭素繊維以外の無機繊維または有機繊維のいずれも用いることができる。上記炭素繊維以外の無機繊維としては、例えば、活性炭繊維、黒鉛繊維、ガラス繊維、タングステンカーバイド繊維、シリコンカーバイド繊維(炭化ケイ素繊維)、セラミックス繊維、アルミナ繊維、天然繊維、玄武岩などの鉱物繊維、ボロン繊維、窒化ホウ素繊維、炭化ホウ素繊維、および金属繊維等からなる群より選ばれる1種類以上の無機繊維を挙げることができる。
上記金属繊維としては、例えば、アルミニウム繊維、銅繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、およびスチール繊維等からなる群より選ばれる1種類以上の金属繊維を挙げることができる。
上記ガラス繊維としては、Eガラス、Cガラス、Sガラス、Dガラス、Tガラス、石英ガラス繊維、およびホウケイ酸ガラス繊維等からなる群より選ばれる1種類以上のガラス繊維を挙げることができる。
上記有機繊維としては、例えば、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)、ポリフェニレンスルフィド、ポリエステル、アクリル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール、およびポリアリレート等の樹脂材料からなる群より選ばれる1種類以上の有機繊維を挙げることができる。
本発明においては、2種類以上の強化繊維を併用してもよい。この場合、複数種の無機繊維を併用してもよく、複数種の有機繊維を併用してもよく、1種または2種以上の無機繊維と1種または2種以上の有機繊維とを併用してもよい。
強化繊維とマトリクス樹脂との密着強度は、ストランド引張せん断試験における強度が5MPa以上であることが望ましい。この強度は、マトリクス樹脂の選択に加え、例えば強化繊維が炭素繊維である場合、表面酸素濃度比(O/C)を変更する方法や、炭素繊維にサイジング剤を付与して、炭素繊維とマトリクス樹脂との密着強度を高める方法などで改善することができる。
本発明に用いられる強化繊維としては、上記のとおり引張強度や、樹脂材における寸法の等方性の実現性に優れる重量平均繊維長1~100mm以下の不連続繊維だけでなく、目的に応じて連続繊維を用いてもよい。この強化繊維の重量平均繊維長が上記の数値範囲にある時、薄肉成形性に優れ且つ薄肉な成形品であっても目付量当たりの曲げ強度が高い等、十分な機械的強度を有することができる。その結果、得られる繊維強化樹脂成形品は本発明の効果を十分に発揮することができ、好ましい態様である。
強化繊維の平均繊維長は、例えば、繊維強化樹脂材から無作為に抽出した100本の繊維の繊維長を、ノギス等を用いて1mm単位まで測定し、下記式(3)および式(4)に基づいて求めることができる。繊維強化樹脂材から強化繊維を抽出する方法は、例えば、加熱炉内にて繊維強化樹脂材に500℃×1時間程度の加熱処理を施し、樹脂を除去することによって行うことができる。
数平均繊維長Ln=ΣLi/j (3)
[ここで、Liは強化繊維の繊維長、jは強化繊維の本数である。]
重量平均繊維長Lw=(ΣLi2)/(ΣLi) (4)
一般的に、炭素繊維は、数千本~数万本の単繊維が集合した単繊維束状の形態で製造される場合が多い。強化繊維として炭素繊維等を用いる場合に、単繊維束状の形態のまま使用すると、単繊維束の交絡部が局部的に厚くなり薄肉の繊維強化樹脂材を得ることが困難になる場合がある。このため、単繊維束状の強化繊維を用いる場合は、単繊維束を拡幅したり、または開繊したりして使用するのが通常である。
臨界単繊維数=600/D (2)
[ここでDは強化単繊維の平均繊維径(μm)である。]
で定義する臨界単繊維数以上の本数の単繊維で構成される強化繊維束(A)(特に好ましくは炭素繊維束(A)である。)について、強化繊維全量に対する割合が20~99Vol%となる量であることが好ましい。より好ましくは30~98Vol%以上となる量であり、更により好ましくは40~95Vol%以上となる量であり、特に好ましくは50~90Vol%以上となる量である。強化繊維束(A)以外の強化繊維として、単繊維の状態または臨界単繊維数未満の本数の単繊維で構成される単繊維束(以下、強化繊維(B)と称する場合がある。)の形態が存在してもよい。本発明の強化繊維は、特定の単繊維数以上で構成される強化繊維束(A)の厚みを低減させ、かつ強化繊維単位重量(g)当たりの強化繊維束(A)の束数を特定の範囲とすることで繊維強化樹脂材の厚み斑を小さくできるため、コールドプレス成形することで薄肉でも機械物性に優れた繊維強化樹脂成形品を得ることが可能である。
前記のとおり、強化繊維束(A)は強化単繊維の束状物であるので、以下便宜上、強化繊維(A)と称されることもある。同様に、強化繊維束(A)の平均単繊維数が平均繊維数と略称されることがある。
本発明の繊維強化樹脂成形品や繊維強化樹脂材においては、マトリクス樹脂として熱可塑性樹脂が含まれている。また、本発明においてはマトリクス樹脂として、熱可塑性樹脂を主成分とする範囲において、熱硬化性樹脂を併用してもよい。上記熱可塑性樹脂は特に限定されるものではなく、繊維強化樹脂成形品の用途等に応じて所望の軟化温度を有するものを適宜選択して用いることができる。上記熱可塑性樹脂としては、通常、軟化温度が50℃~350℃の範囲内の樹脂が用いられるが、これに限定されるものではない。本発明について熱可塑性樹脂の軟化温度とは、結晶性熱可塑性樹脂については結晶溶解温度、いわゆる融点であり、非晶性熱可塑性樹脂についてはガラス転移温度である。
上記ポリスチレン樹脂としては、例えば、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-スチレン樹脂(AS樹脂)、およびアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS樹脂)等からなる群より選ばれる1種類以上の樹脂を挙げることができる。
上記ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ボリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)、ポリブチレンナフタレート樹脂、ポリヘキサメチレンテレフタレート、および液晶ポリエステル等からなる群より選ばれる1種類以上の樹脂を挙げることができる。
上記変性ポリフェニレンエーテル樹脂としては、例えば、ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、および変性ポリフェニレンスルフィド樹脂等からなる群より選ばれる1種類以上の樹脂を挙げることができる。
上記ポリスルホン樹脂としては、例えば、ポリスルホン樹脂、変性ポリスルホン樹脂、およびポリエーテルスルホン樹脂等からなる群より選ばれる1種類以上の樹脂を挙げることができる。
上記フッ素系樹脂としては、例えば、ポリモノフルオロエチレン樹脂、ポリビスフルオロエチレン樹脂、ポリトリフルオロエチレン樹脂、およびポリテトラフルオロエチレン樹脂等からなる群より選ばれる1種類以上の樹脂を挙げることができる。
本発明に用いられる繊維強化樹脂材は、公知の方法を用いて製造することができる。
マトリクス樹脂として熱可塑性樹脂を用いる場合は、例えば、1.強化繊維をカットする工程、2.カットされた強化繊維を開繊させる工程、3.開繊させた強化繊維と繊維状または粒子状のマトリクス樹脂を混合し等方性基材とした後、これを加熱圧縮して熱可塑性樹脂の含浸をすすめ繊維強化樹脂材を得る工程により製造することができるが、この限りではない。
なお、等方性基材(2次元ランダム配向マットとも呼ばれる。)や繊維強化樹脂材およびそれらの製造法については、米国特許第8946342号明細書、米国特許出願公開第2015/0258762号明細書に詳しく記載されている。
このようにして得られる本発明の繊維樹脂強化成形品の強化繊維の目付、熱可塑性樹脂の目付としては、繊維強化樹脂材と同様の値であることが好ましい。更に繊維強化樹脂成形品の厚みとしては、0.2~2.5mmが好ましく、0.4~2.4mmがより好ましく、0.5~2.2mmが更により好ましく、0.6~2.0mmが特により好ましい。繊維強化樹脂成形品の厚みが上記の数値範囲内にある場合には、得られる成形品は成形性、軽量性、外観に優れ、かつ自動車、航空機、圧力容器等の分野に好適に用い得る。
秤量した繊維強化樹脂材を500℃×1時間、炉内にて加熱することにより、マトリクス樹脂を燃焼除去した。加熱処理前後の樹脂材試料の質量を秤量することによって強化繊維成分とマトリクス樹脂成分の質量を算出した。次に各成分の素材を特定した後、各成分の比重を用いて強化繊維とマトリクス樹脂の体積をそれぞれ算出し、下記式に従って繊維強化樹脂材の強化繊維体積割合(Vf)を百分率にて算出した。
Vf(%)=100×強化繊維の体積/(強化繊維の体積+熱可塑性樹脂の体積) (5)
繊維強化樹脂材の厚みを、マイクロメーターを用いて測定した。
繊維強化樹脂材を50mm×125mmのサイズに切り出し、縦横寸法と重量を測定し、下記式に従って繊維強化樹脂材の目付量を算出した。
目付量(g/m2)=切り出し品の重量/(切り出し品の縦寸法×切り出し品の横寸法) (6)
繊維強化樹脂材の融点を示差熱分析装置(DSC)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/minで測定した。定法に従い、熱可塑性樹脂の結晶成分の融解に伴うピークトップの温度を融点と定め、定法に従ってガラス転移温度を算出した。
コールドプレス成形前に加熱した直後の繊維強化樹脂材の中心温度を、熱電対を用いて測定した。
絶乾処理した繊維強化樹脂材を用い、空気雰囲気下、昇温速度5℃/minでTG-DTA測定を行い、各温度での熱分解速度を算出した。
成形に用いた金型の表面温度を接触式温度計で測定し、その測定値を記載した。
プレス成形機の既設のプレス圧力計の数値を記載した。
ア)熱電対を仕込んだ繊維強化樹脂材の準備
90mm×97.5mmのサイズに切り出した繊維強化樹脂材を加熱し、等しい厚みになるように厚さ方向に2つに裂いて、その裂いた面の内に熱電対を設置した。2つに裂いた面を再び合わせ、加熱温度まで加熱し、プレス圧3MPaで成形した。このとき、金型の下型にスペーサーを設置し、基材厚みになるようにした。設置した熱電対は繊維強化樹脂材中の温度測定用熱電対36となった。
金型上型と金型下型のシャーが合わさる箇所に熱電対34を設置し、熱電対をデータロガー(製品名)37に接続する。設置した熱電対は時間軸合せ用熱電対となった。
繊維強化樹脂材中の温度測定用熱電対36を、時間軸合わせ用熱電対34を接続したのと同じデータロガー37に接続した。2つの熱電対から温度の時間変化に関するデータを採取しながら熱電対仕込み繊維強化樹脂材35を加熱温度(T)まで加熱し、プレス成形機のプラテン位置とプレス圧力の時間変化をモニターしながら繊維強化樹脂材をプレス成形することで、繊維強化樹脂材の温度および金型上型33と金型下型32のシャーが合わさる位置の温度の時間変化と、プレス成形機のプラテン位置およびプレス圧力の時間変化と同時に計測した。
繊維強化樹脂材に対する加熱終了時点から加熱後の繊維強化樹脂材を金型下型へ設置され樹脂材に対するプレス成形が実質的に開始するまでの時間である。換言すると樹脂材に対する加熱温度までの加熱が終了した時点から、加熱後の樹脂材を金型下型の上に置き、更に金型上型が樹脂材に接触した時点までをチャージ時間とした。このチャージ時間の終了時点において、樹脂材が金型上型に接触するので、樹脂材の冷却速度が空冷速度からプレス中冷却速度に切り替わる時点でもある。繊維強化樹脂材中の温度測定用熱電対36による樹脂材の温度の時間変化のグラフに温度変曲点18が表れる時点でもある。
金型上型が繊維強化樹脂材に接触した時点をチャージ時間終了後とし、チャージ時間終了後からプレス圧力が規定プレス圧に到達する時点までの時間を昇圧時間として算出した。
加熱温度からチャージ時間終了後までの繊維強化樹脂材の温度の時間変化を平均化することで空冷速度を算出した。
金型上型が繊維強化樹脂材に接触した時点(換言するとチャージ時間終了後)から流動停止温度に達する時点までの繊維強化樹脂材の温度の時間変化を平均化することで、プレス中冷却速度を算出した。
プレス成形機のプラテン位置モニター値の変化が0.01mm/sec以下になった時点での繊維強化樹脂材の温度を流動停止温度とした。
上述の操作により得た数値を用いて、下記式(1)に従って、成形可能時間を算出した。
繊維強化樹脂材を90×97.5mmの大きさに2枚切り出し、加熱後、2枚の樹脂材の長辺部分を40mm重ね合わせ、重なり部分の大きさが90×40mmとなるようにした。次に重なり部分のある樹脂材を、金型の下型に設置し、チャージ時間25秒に設定するほかは、表1~表6に記載の通りの成形条件でプレス成形した。プレス成形前後の90×40mmの2枚重ね合せた部分の厚みを10点測定し、2枚重ね合せた部分の厚みの平均値を測定した。2枚重ね合わせした樹脂材を金型の下型へ設置した状況を図5に示した。
90×200mmに切り出した繊維強化樹脂材を表1~表6に記載の各条件でプレス成形し、得られた繊維強化樹脂材成形品について、日本工業規格:JIS K7074-1988、日本工業規格:JIS K7171-2008に準拠して曲げ強度を測定した。本発明においては、得られた曲げ強度(単位:MPa)の値を繊維強化樹脂材の目付量(単位:g/m2)の値で割った数値を軽量化指数と定め、この軽量化指数を算出した。なお、以下この軽量化指数の単位については便宜上省略する。
なお、金型温度が150℃を超えるものについては、表1~表6記載の条件で成形した後に金型を閉じたままヒーターの加熱源を切り、金型温度が150℃以下になるまで金型を冷却してから金型を開き、繊維強化樹脂材成形品を金型から取り出した。
12)で得られた繊維強化樹脂材成形品を、以下の基準に従って外観を評価した。
合格(OK);
・目視観察で炭素繊維の浮きが目立たず、成形品表面を指で触った触感が滑らかであった。
不合格(NG):
・目視観察で炭素繊維の浮きが目立ち、成形品表面を指で触った触感がザラザラであった。
繊維強化樹脂材中に含まれる炭素繊維束(A)の割合の求め方は、以下の通りに行った。
繊維強化樹脂材を50mm×50mmの大きさに切り出し、500℃の炉内で1時間程度加熱し、マトリクス樹脂を完全に除去した。その後、繊維束をピンセットで全て取り出し、繊維束の長さ(Li)と質量(Wi)、繊維束数(I)を測定した。ピンセットにて取り出すことができない程度に繊維束が小さいものについては、まとめて最後に質量を測定した(Wkと称する。)。質量の測定には、1/100mgまで測定可能な天秤を用いた。
測定後、以下の計算を行った。使用している炭素繊維の繊度(F)より、個々の繊維束の繊維本数(Ni)は、次式により求めた。
繊維本数(Ni)=Wi/(Li×F) (7)
炭素繊維束(A)中の平均繊維数(N)は、以下の式により求めた。
N=ΣNi/I (8)
また、炭素繊維束(A)の強化繊維全体に対する体積の割合(VR)は、炭素繊維の密度(ρ)を用いて次式により求めた。
VR=Σ(Wi/ρ)x100/((Wk+ΣWi)/ρ) (9)
強化繊維の平均繊維長は、繊維強化樹脂材から上記の加熱処理操作によりマトリクス樹脂を完全に除去した後、無作為に抽出した100本の強化繊維の繊維長をノギス等により1mm単位まで測定した。一般に、個々の炭素繊維の繊維長をLiとすると、繊維強化樹脂材中の数平均繊維長Lnと重量平均繊維長Lwは以下の数式(10)、(11)により求められる。なお、数平均繊維長Lnと重量平均繊維長Lwの単位は、mmである。
Ln=ΣLi/I (10)
Lw=(ΣLi2)/(ΣLi) (11)
ここで「I」とは、繊維長を測定した炭素繊維の本数を表す。
[製造例1]
強化繊維として、東邦テナックス社製のPAN系炭素繊維“テナックス”(登録商標)STS40-24KS(平均単繊維径7μm、単繊維数24000本)をナイロン系サイジング剤処理したものを使用し、マトリクス樹脂として、ユニチカ社製のナイロン6樹脂、A1030(商品名)を用いた。米国特許出願公開公報第2015/0152231号明細書に記載された方法に準拠し、炭素繊維目付量814g/m2、ナイロン6樹脂目付量963g/m2である、面内等方的に重量平均繊維長が20mmの炭素繊維が2次元ランダム配向した等方性基材を作成した。
得られた等方性基材を、上部に凹部を有する金型を用いて290℃に加熱したプレス装置にて、圧力2.0MPaにて15分間加熱加圧し、強化繊維が2次元ランダム配向した基材厚み1.3mmの繊維強化樹脂材を得た。得られた樹脂材の強化繊維体積割合(Vf)=35%であり、DSCで測定した結果、得られた樹脂材を構成する熱可塑性樹脂の融点は220℃であった。
炭素繊維目付量1065g/m2、ナイロン6樹脂目付量1260g/m2、プレス装置の温度を280℃にした他は製造例1と同様に製造した。その結果、基材厚み1.7mm、強化繊維体積割合(Vf)=35%、強化繊維が2次元ランダム配向した繊維強化樹脂材を得た。繊維強化樹脂材に含まれる強化繊維の重量平均繊維長、臨界単繊維数、および強化繊維全量のうち、臨界単繊維数以上の本数の炭素単繊維からなる強化繊維(A)の割合の各物性は製造例1と同様であった。
炭素繊維目付量1253g/m2、ナイロン6樹脂目付量1482g/m2、プレス装置の温度を270℃にした他は製造例1と同様に製造した。その結果、基材厚み2.0mm、強化繊維体積割合(Vf)=35%、強化繊維が2次元ランダム配向した繊維強化樹脂材を得た。繊維強化樹脂材に含まれる強化繊維の重量平均繊維長、臨界単繊維数、および強化繊維全量のうち、臨界単繊維数以上の本数の炭素単繊維からなる強化繊維(A)の割合の各物性は製造例1と同様であった。
炭素繊維目付量1660g/m2、ナイロン6樹脂目付量1964g/m2、プレス装置の温度を260℃、加熱時間を5分にした他は製造例1と同様に製造した。その結果、基材厚み2.65mm、強化繊維体積割合(Vf)=35%、強化繊維が2次元ランダム配向した繊維強化樹脂材を得た。繊維強化樹脂材に含まれる強化繊維の重量平均繊維長、臨界単繊維数、および強化繊維全量のうち、臨界単繊維数以上の本数の炭素単繊維からなる強化繊維(A)の割合の各物性は製造例1と同様であった。
炭素繊維目付量349g/m2、ナイロン6樹脂目付量1260g/m2、プレス装置の加熱時間を5分にした他は製造例1と同様に製造した。その結果、基材厚み1.3mm、強化繊維体積割合(Vf)=15%、強化繊維が2次元ランダム配向した繊維強化樹脂材を得た。繊維強化樹脂材に含まれる強化繊維の重量平均繊維長、臨界単繊維数、および強化繊維全量のうち、臨界単繊維数以上の本数の炭素単繊維からなる強化繊維(A)の割合の各物性は製造例1と同様であった。
炭素繊維目付量501g/m2、ナイロン6樹脂目付量593g/m2、プレス装置の加熱温度を300℃にした他は製造例1と同様に製造した。その結果、基材厚み0.8mm、強化繊維体積割合(Vf)=35%、強化繊維が2次元ランダム配向した繊維強化樹脂材を得た。繊維強化樹脂材に含まれる強化繊維の重量平均繊維長、臨界単繊維数、および強化繊維全量のうち、臨界単繊維数以上の本数の炭素単繊維からなる強化繊維(A)の割合の各物性は製造例1と同様であった。
炭素繊維目付量1378g/m2、ナイロン6樹脂目付量1630g/m2、プレス装置の加熱温度を270℃にした他は製造例1と同様に製造した。その結果、基材厚み2.2mm、強化繊維割合(Vf)=35%、強化繊維が2次元ランダム配向した繊維強化樹脂材を得た。繊維強化樹脂材に含まれる強化繊維の重量平均繊維長、臨界単繊維数、および強化繊維全量のうち、臨界単繊維数以上の本数の炭素単繊維からなる強化繊維(A)の割合の各物性は製造例1と同様であった。
マトリクス樹脂として、ポリプラスチックス社製のPBT樹脂(ポリブチレンテレフタレート樹脂)、300FP(商品名)を用い、炭素繊維目付量814g/m2、PBT樹脂目付量1166g/m2に調整した他は製造例1と同様に製造した。その結果、基材厚み1.3mm、強化繊維割合(Vf)=35%、強化繊維が2次元ランダム配向した繊維強化樹脂材を得た。繊維強化樹脂材に含まれる強化繊維の重量平均繊維長、臨界単繊維数、および強化繊維全量のうち、臨界単繊維数以上の本数の炭素単繊維からなる強化繊維(A)の割合の各物性は製造例1と同様であった。DSCで測定した結果、得られた樹脂材を構成する熱可塑性樹脂の融点は224℃であった。
炭素繊維目付量533g/m2、ナイロン6樹脂目付量630g/m2、プレス装置の加熱温度を300℃にした他は製造例1と同様に製造した。その結果、基材厚み0.85mm、強化繊維割合(Vf)=35%、強化繊維が2次元ランダム配向した繊維強化樹脂材を得た。繊維強化樹脂材に含まれる強化繊維の重量平均繊維長、臨界単繊維数、および強化繊維全量のうち、臨界単繊維数以上の本数の炭素単繊維からなる強化繊維(A)の割合の各物性は製造例1と同様であった。
炭素繊維目付量439g/m2、ナイロン6樹脂目付量519g/m2、プレス装置の加熱温度を300℃にした他は製造例1と同様に製造した。その結果、基材厚み0.7mm、強化繊維割合(Vf)=35%、強化繊維が2次元ランダム配向した繊維強化樹脂材を得た。繊維強化樹脂材に含まれる強化繊維の重量平均繊維長、臨界単繊維数、および強化繊維全量のうち、臨界単繊維数以上の本数の炭素単繊維からなる強化繊維(A)の割合の各物性は製造例1と同様であった。
炭素繊維目付量313g/m2、ナイロン6樹脂目付量371g/m2、プレス装置の加熱温度を300℃にした他は製造例1と同様に製造した。その結果、基材厚み0.7mm、強化繊維割合(Vf)=35%、強化繊維が2次元ランダム配向した繊維強化樹脂材を得た。繊維強化樹脂材に含まれる強化繊維の重量平均繊維長、臨界単繊維数、および強化繊維全量のうち、臨界単繊維数以上の本数の炭素単繊維からなる強化繊維(A)の割合の各物性は製造例1と同様であった。
炭素繊維目付量349g/m2、PBT樹脂目付量1525g/m2、プレス装置の加熱時間を5分にした他は製造例1と同様に製造した。その結果、基材厚み1.3mm、強化繊維体積割合(Vf)=15%、強化繊維が2次元ランダム配向した繊維強化樹脂材を得た。繊維強化樹脂材に含まれる強化繊維の重量平均繊維長、臨界単繊維数、および強化繊維全量のうち、臨界単繊維数以上の本数の炭素単繊維からなる強化繊維(A)の割合の各物性は製造例1と同様であった。
炭素繊維目付量1065g/m2、PBT樹脂目付量1525g/m2、プレス装置の加熱温度を280℃にした他は製造例1と同様に製造した。その結果、基材厚み1.7mm、強化繊維割合(Vf)=35%、強化繊維が2次元ランダム配向した繊維強化樹脂材を得た。繊維強化樹脂材に含まれる強化繊維の重量平均繊維長、臨界単繊維数、および強化繊維全量のうち、臨界単繊維数以上の本数の炭素単繊維からなる強化繊維(A)の割合の各物性は製造例1と同様であった。
炭素繊維目付量439g/m2、PBT樹脂目付量628g/m2、プレス装置の加熱温度を300℃にした他は製造例1と同様に製造した。その結果、基材厚み0.7mm、強化繊維割合(Vf)=35%、強化繊維が2次元ランダム配向した繊維強化樹脂材を得た。繊維強化樹脂材に含まれる強化繊維の重量平均繊維長、臨界単繊維数、および強化繊維全量のうち、臨界単繊維数以上の本数の炭素単繊維からなる強化繊維(A)の割合の各物性は製造例1と同様であった。
炭素繊維目付量313g/m2、PBT樹脂目付量449g/m2、プレス装置の加熱温度を300℃にした他は製造例1と同様に製造した。その結果、基材厚み0.5mm、強化繊維割合(Vf)=35%、強化繊維が2次元ランダム配向した繊維強化樹脂材を得た。繊維強化樹脂材に含まれる強化繊維の重量平均繊維長、臨界単繊維数、および強化繊維全量のうち、臨界単繊維数以上の本数の炭素単繊維からなる強化繊維(A)の割合の各物性は製造例1と同様であった。
[実施例1]
繊維強化樹脂材は製造例1のものを90×97.5mmにカットして明細書の上記に記載の方法で熱電対を設置した。次に明細書の上記に記載の方法で時間軸合わせ用熱電対を設置した図4に示すキャビティが210×90mmの平板形状の金型上型と金型下型を有する金型を準備した。表1に示すように、樹脂材を加熱温度310℃、金型温度200℃、チャージ時間25秒、昇圧時間1秒および規定プレス圧20MPaでコールドプレス成形し、樹脂材の空冷速度、プレス中冷却速度および成形可能時間を測定し、コールドプレス成形終了後60秒経過後に金型温度を150℃にして金型から成形品を取り出した。樹脂材の空冷速度は2.7℃/秒、プレス中冷却速度は10.0℃/秒であり流動停止温度は235℃であり、算出した成形可能時間は0.25秒であった。なお、310℃での樹脂材の熱分解速度は0.15重量%/秒であった。
表1~表6に示した様に、熱可塑性樹脂の種類、強化繊維体積割合(Vf)、および基材厚みを変更した各種の繊維強化樹脂材(製造例の種別)、加熱温度等の各種成形条件、冷却速度、ならびに流動停止温度を採用した。更にそれらの数値から算出される成形可能時間が表1~表6に記載された値となるように繊維強化樹脂材をコールドプレス成形して繊維強化樹脂成形品を得る以外は実施例1と同様の操作を行った。各実施例・比較例における成形性、軽量性、外観の評価結果を表1~表6に示した。
2:プラテン位置、プレス圧力の時間変化を表すグラフ(下グラフ)
3:温度
4:時間
5:プラテン位置、プレス圧力
6:時間
7:繊維強化樹脂材中の温度を表すグラフ
8:加熱温度(T)(繊維強化樹脂材の温度が最も高温になった時点)
9:金型上型と金型下型のシャーが合わさる箇所の温度のグラフ
10:温度異常から測定される金型上型と金型下型のシャーが合わさる時点
11:プラテン位置を表すグラフ
12:プレス圧力の変化を示すグラフ
13:プラテン位置から算出した金型上型と金型下型のシャーが合わさる時点
14:上グラフと下グラフの時間軸を合わせるライン(上記の符号10と13で表される金型上型と金型下型のシャーが合わさる時点が基準点となり、合わせることができることを表している。)
15:規定プレス圧の半分の値に達した時点
16:繊維強化樹脂材の流動停止時のプラテン位置
17:成形可能時間(tm)
18:温度変曲点
19:流動停止温度(Tf)
31:繊維強化樹脂材を赤外線オーブンにより加熱し、金型へ搬送する装置概要の例
32:金型下型
33:金型上型
34:時間軸合わせ用熱電対
35:繊維強化樹脂材
36:繊維強化樹脂材中の温度測定用熱電対
37:熱電対データロガー
38:IR(赤外線)オーブン
39:加熱温度に到達した後の繊維強化樹脂材を金型下型へ移動させることを表す矢印
40:金型の下型のシャーと金型上型のシャーが合わさる瞬間の装置概要の例
41:繊維強化樹脂材をプレス成形する金型上型と金型下型の組図の例
42:金型下型の上面図の例
43:熱媒体経路(カートリッジヒーター)
44:冷却媒体経路(水温調配管)
45:シャー
46:10mmのキャビティ高さ
47:繊維強化樹脂材中の温度測定用熱電対の通り道
48:金型下型内のキャビティ面
51:成形性評価のときにおける樹脂材の金型下型キャビティへの設置状況
52:金型下型のキャビティ面(サイズ:210mm×100mm)
53:繊維強化樹脂材1
54:繊維強化樹脂材2
55:サイズが90×40mmである2枚の樹脂材の重ね合せ部分
a)成形前加熱した直後の繊維強化樹脂材の内部温度(以下、Tまたは加熱温度と称する。)が、熱可塑性樹脂が結晶性樹脂の場合は融点+50℃~融点+100℃の範囲であり、熱可塑性樹脂が非晶性樹脂の場合はガラス転移温度+125℃~ガラス転移温度+175℃の範囲である。
b)繊維強化樹脂材に対する加熱終了後から加熱後の繊維強化樹脂材を金型の下型へ設置するまでの時間(以下、tcまたはチャージ時間と称する。)が6.0~35.0秒である。
c)繊維強化樹脂材を加熱後に、繊維強化樹脂材を金型の下型の上に設置し、金型の上型が繊維強化樹脂材に接触するまでの、繊維強化樹脂材の冷却速度(以下、C1または空冷速度と称する。)が1.0~6.5℃/秒である。
d)金型の上型が繊維強化樹脂材に接触してから、プレス成形機が規定の圧力に到達するまでの時間(tpまたは昇圧時間と称する。)が0.1~2.5秒である。
e)繊維強化樹脂材の流動が停止したときの温度(以下、Tfまたは流動停止温度と称する。)が、熱可塑性樹脂が結晶性樹脂の場合は結晶性樹脂の融点-25℃~融点+30℃の範囲であり、熱可塑性樹脂が非晶性樹脂の場合は非晶性樹脂のガラス転移温度+50℃~ガラス転移温度+105℃である。
f)a)~e)を用い下記式(1)に従い、金型の上型が繊維強化樹脂材に接触しプレス成形機の圧力が規定の圧力の半分の値に達した時点から、繊維強化樹脂材の温度が流動停止温度に達する時点までの時間(以下、tmまたは成形可能時間と称する。)が0.01~18.0秒である。
臨界単繊維数=600/D (2)
[ここでDは強化繊維の平均単繊維径(μm)である。]




