FIBER-REINFORCED RESIN MOLDING HAVING EMBOSSES AT LEAST ON PART OF SURFACE
本発明は、炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含み、表面の少なくとも一部にシボを有する外観に優れた繊維強化樹脂成形体に関するものである。
近年、機械分野において、複合材料として、マトリクスとしての樹脂(以下、マトリクス樹脂と称することがある)と、炭素繊維などの強化繊維を含む、いわゆる繊維強化樹脂材が注目されている。これら繊維強化樹脂材はマトリクス樹脂内で繊維が分散されているため、引張弾性率や引張強度、耐衝撃性などに優れており、自動車等の構造部材などに検討されている。中でも、マトリクス樹脂が熱可塑性樹脂である熱可塑性繊維強化樹脂材は、熱硬化性樹脂の繊維強化樹脂材と比較して、成形などの量産性に優れるため、数多くの分野で検討されている。また、熱可塑性繊維強化樹脂材は、射出成形、圧縮成形等の様々な成形方法により、目的とする形状に高い生産性で成形されるため、大型部品から小型部品まで幅広い用途に好適である。
本発明者らは、従来技術により熱可塑性繊維強化樹脂材を圧縮成形して得られる、成形体の外観を入念に観察したところ、ある領域と別の領域とで、強化繊維の配向状態などが異なる印象を与えることがあることを見出した。その原因について、本発明者らは、圧縮成形時に、加熱され可塑状態となった繊維強化樹脂材が流動する部分(流動部)と、流動しない部分(非流動部)とで金型からの表面状態の転写性が異なるためであると考えた。
本発明者は、強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む繊維強化樹脂成形体において、繊維強化樹脂成形体の非流動部と流動部の外観差を抑制し、繊維強化樹脂成形体の外観性を向上させるには、非流動部と流動部の強化繊維の配向差を抑制することが重要であると着想した。本発明者らはシボ形状を構成する凸部に存在する強化繊維の量と凹部あるいは平坦部に存在する強化繊維量に違いが生じることがあることに着目し、凸部の強化繊維量が凹部あるいは平坦部より多ければ強化繊維が凸部に引っ掛かりやすく非流動部と流動部の強化繊維の配向差を抑制できることを発見し、鋭意検討した結果、本発明範囲のシボであれば非流動部と流動部の外観差を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。さらに、本発明者らは、本発明のシボ付き成形体のシボの凸部の強化繊維量が多ければ、目につきやすい凸部の樹脂量、言い換えると、強化繊維と樹脂との合計量に対する樹脂量の割合、が少なくなり、耐候劣化による外観悪化が改善され、つまりより高い耐候性のシボ付き成形体が得られることを見出した。
本発明の、表面の少なくとも一部にシボを有する繊維強化樹脂成形体は、特定の寸法のシボを有することにより、極めて優れた外観性を有し、耐候劣化による外観の悪化を受けにくく耐候性に優れ、かつ寸法安定性に優れている。
図1は、実施例1のシボ付き成形体のシボ外観の写真図(測定倍率10倍)である。
以下に、本発明の実施の形態について、適宜図面も参照の上、順次説明する。それら図面は、必ずしも実寸どおりとは限らない。図面の写真図は、シボ外観を鮮明に表示するため、色相、輝度、彩度などが調整されたものである場合がある。
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。なお、本実施例における各値は、以下の方法に従って求めた。
本発明の少なくとも一部の表面にシボを有する繊維強化樹脂成形体は、自動車用途、航空機用途、OA用途など様々な用途に用いる事ができる。 A fiber-reinforced resin molding that comprises a reinforcing fiber having a weight-average fiber length of 100 mm or less and a thermoplastic resin, said fiber-reinforced resin molding being characterized by having embosses at least on a part of the surface thereof, the maximum height (Rz) of the embosses is 100-200 μm, and the average pitch (Rsm) between embosses adjacent to each other is 1100 μm or less.
重量平均繊維長が100mm以下である強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む繊維強化樹脂成形体であって、少なくとも一部の表面にシボを有し、シボの最大高さ(Rz)が100μm~200μmであり、隣接するシボ間の平均ピッチ(Rsm)が1100μm以下である事を特徴とする繊維強化樹脂成形体。
シボ投影面積%(Sg)が10%~99%のシボを有することを特徴とする請求項1に記載の繊維強化樹脂成形体。
シボの樹脂割合が内部の樹脂割合より1vol%~10vol%少ないことを特徴とする請求項1または2に記載の繊維強化樹脂成形体。
カーボンブラックを0.1重量%~10重量%含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂成形体。
強化繊維が単繊維数の異なる強化単繊維束の混合物である事を特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂成形体。
繊維強化樹脂成形体のシボの熱可塑性樹脂割合が内部の熱可塑性樹脂割合より2vol%~5vol%少ないことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂成形体。
強化繊維の重量平均繊維長が100mm以下であり、強化繊維全量のうち、下記式(1)で定義される臨界単繊維数以上の本数の単繊維の束である強化繊維(A)の量の割合が20vol%~99vol%であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂成形体。
シボの抜け勾配が0.1度~20度である請求項1~7のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂成形体。
隣接するシボ間の平均ピッチ(Rsm)が200μm~1100μmである請求項1~8のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂成形体。
シボ投影面積%(Sg)が20%~90%のシボを有する請求項1~9のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂成形体。
強化繊維の重量平均繊維長が1mm~100mmである請求項1~10のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂成形体。
シボの最大高さ(Rz)が100~200μmであり、隣接するシボ間の平均ピッチ(Rsm)が200μm~1100μmであり、シボ投影面積%(Sg)が20%~90%である請求項1~11のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂成形体。
強化繊維が、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、および玄武岩繊維からなる群より選ばれる1種以上のものである請求項1~12のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂成形体。
強化繊維100重量部に対して熱可塑性樹脂を3重量部~1000重量部含んでいる請求項1~13のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂成形体。
2次元ランダム配向している強化繊維を含む請求項1~14のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂成形体。
例えば、特許文献1には、表面にシボを有し高い表面意匠性を有し、かつ比較的長い繊維長の強化繊維を含むことにより優れた強度を有する繊維強化樹脂成形体、および、熱可塑性繊維強化樹脂材を圧縮成形することにより当該成形体を高い生産性にて生産する方法が開示されている。
本発明の目的は、外観性に優れ、少なくとも一部の表面にシボを有する繊維強化樹脂成形体(以下、シボ付き成形体と略称することがある)を提供することである。ここでいう外観性に優れるとは、成形体の外観に関し、所定の領域で強化繊維の状態が意図したとおりの均一などの状態となっていることを意味し、意図的に特定の領域毎に強化繊維の状態を変え、領域毎に目的どおりの外観を有することも含まれる。
すなわち本発明は、重量平均繊維長が100mm以下である強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む繊維強化樹脂成形体であって、該繊維強化樹脂成形体の少なくとも一部の表面にシボを有し、シボの最大高さ(Rz)が100μm~200μmであり、隣接するシボ間の平均ピッチ(Rsm)が1100μm以下である事を特徴とする繊維強化樹脂成形体に関する。
図2は、実施例2のシボ付き成形体のシボ外観の写真図(測定倍率10倍)である。
図3は、実施例3のシボ付き成形体のシボ外観の写真図(測定倍率10倍)である。
図4は、実施例4のシボ付き成形体のシボ外観の写真図(測定倍率10倍)である。
図5は、実施例5のシボ付き成形体のシボ外観の写真図(測定倍率10倍)である。
図6は、実施例6のシボ付き成形体のシボ外観の写真図(測定倍率10倍)である。
図7は、比較例1のシボ付き成形体のシボ外観の写真図(測定倍率10倍)である。
(シボ)
本発明におけるシボとは、繊維強化樹脂成形体の表面に設けられた模様のことを指す。模様として特に制限は無いが、規則的な凹凸または/及び皺でも良く、逆に不規則な凹凸または/及び皺であっても良く、規則的な形状としては格子状、不規則な形状としては皮革状などを挙げることができる。
本発明の繊維強化樹脂成形体は、重量平均繊維長が100mm以下である強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む繊維強化樹脂成形体であって、該繊維強化樹脂成形体の、少なくとも一部の表面にシボを有し、シボの最大高さ(Rz)が100μm~200μmであり、隣接するシボ間の平均ピッチ(Rsm)が1100μm以下である事を特徴とする繊維強化樹脂成形体である。本発明に関して、「シボ」を便宜上、「シボ部」と称しても良い。
本発明の繊維強化樹脂成形体の少なくとも一部の表面に上述のシボがあることにより、当該繊維強化樹脂成形体(シボ付き成形体)は外観性が優れたものとなる。
本発明のシボ付き成形体がシボを有する少なくとも一部の表面について、シボがある領域やシボ付き成形体の表面積全体に対するシボがある領域の面積の割合などに特に制限は無い。本発明のシボ付き成形体は、用途に応じて必要な表面領域に上記のシボを有する成形体であってよく、当然、全ての表面にシボを有する成形体であってもよい。本発明のシボ付き成形体は、所定の用途において使用される際に、外観部分となり、日光などの光、風雨、温度や湿度の変化に曝される箇所にシボを有するものであると特に好ましい。
本発明において、シボの最大高さ(Rz)は100μm~200μm、つまり100μm以上200μm以下であることが肝要である。シボの最大高さ(Rz)が200μmを上回る場合、金型へのシボ形状の賦与が困難となり、ひいては当該シボ形状を有するシボ付き成形体を得難くなり、工業的に好ましくない。シボの最大高さ(Rz)として好ましくは100μm~190μmであり、より好ましくは100μm~180μmであり、より一層好ましくは100μm~150μmである。シボの最大高さ(Rz)が100μm以上であると、強化繊維がシボの表面に浮き出にくく、流動部と非流動部の外観の違いがより無い成形体となり好ましい。本発明に関して、シボの最大高さ(Rz)は、JIS B0601(2001)に準じて算出された値であると好ましい。 本発明において、隣接するシボ間の、つまり、あるシボとそれと隣接するシボとの平均ピッチ(Rsm)が1100μmを上回る場合、シボ形状を構成する凹部あるいは平坦部に強化繊維が浮き出る様になり流動部と非流動部の外観の違いが出る様になる。隣接するシボ間の平均ピッチ(Rsm)として好ましくは200μm~1100μmであり、より好ましくは200μm~1000μmである。隣接するシボ間の平均ピッチ(Rsm)が200μm以上であるシボに関しては、金型へのシボ形状の賦与が容易であり工業的に好ましい。
本発明において、シボ付き成形体の所定の表面積あたり、例えば100mm×100mmあたりにおけるシボの投影面積の割合として定義されるシボ投影面積%(Sg)は10~99%であると好ましい。シボ投影面積%(Sg)が10%以上であると、シボの量が充分であり、特に耐候劣化による外観悪化の抑制効果が大きい。シボ投影面積%(Sg)が99%以下であると、シボの量が多過ぎることがなく、シボ形状の賦与が容易であり、工業的に好ましい。本発明のシボ付き成形体のシボ投影面積%(Sg)としてより好ましくは20%~90%であり、より一層好ましくは20%~80%である。
シボ付き成形体は、その表面全体について、シボ投影面積%(Sg)が上記範囲にある物であってよいが、シボ付き成形体表面の特定の面または特定の箇所が、シボ投影面積%(Sg)が上記範囲にあるものであってよい。シボ付き成形体表面の特定の面または特定の箇所としては、シボ付き成形体が所定の用途において使われる際に、外観部分となり、日光などの光、風雨、温度や湿度の変化に曝される面や箇所が例示される。
本発明のシボ付き成形体に関し、シボの抜け勾配は0.1度~20度が好ましく、更に好ましくは0.5~15度であり、1度~10度が特に好ましい。抜け勾配が0.1度以上であると成形時の離形が容易であり好ましい。抜け勾配が20度以下であると模様として認識されやすくなり、表面意匠性が高く好ましい。また、成形時の離型を容易cにする手法として、シボ形状のRを大きくすることもできる。なお、シボの形状が、長軸方向と短軸方向を有するなど、アスペクト比が大きい場合は、本発明における上記のシボの要素を短軸方向で満足しているのが好ましい。
本発明のシボ付き成形体は、そのシボの熱可塑性樹脂割合(以下、単に樹脂割合と示す場合がある)が、シボ付き成形体の内部、つまり、シボ付き成形体においてシボが設けられている表面より厚み方向に深い中心部の樹脂割合より少ないことが好ましい。シボの樹脂割合が少なければ、流動部と非流動部の強化繊維の配向が共に乱れるため外観差が小さくなり、耐候劣化する樹脂割合が減ることによる外観変化の抑制効果が現れるためである。シボの樹脂割合は内部の樹脂割合より1vol%以上少ない、つまり、内部の樹脂割合(vol%)−シボの樹脂割合(vol%)が1vol%以上であることが好ましく、2vol%以上少ないことが更に好ましく、4vol%以上少ないことが特に好ましい。逆にシボの樹脂割合が内部の樹脂割合より10vol%以下少ないとシボ成形体の外観が悪化しにくく好ましい。本発明のシボ付き成形体は、シボの樹脂割合が内部の樹脂割合より1vol%~10vol%少ないと好ましく、1vol%~5vol%少ないとより好ましく、2vol%~5vol%少ないと更に好ましい。言い換えると、本発明のシボ付き成形体は、シボの樹脂割合(vol%)−内部の樹脂割合(vol%)が−1vol%~−10vol%であると好ましく、−1vol%~−5vol%であると好ましく、−2vol%~−5vol%であると好ましい。
本発明に関して、シボの樹脂量をシボ部の樹脂量と称してもよい。
本発明のシボ付き成形体のマトリクスである熱可塑性樹脂が結晶性樹脂である場合、実施例で例示するように、シボ付き成形体のシボと内部のそれぞれから試料を採取し、それらの融解熱を示差走査熱量測定で求めることにより、シボの樹脂割合と内部の樹脂割合を得てもよい。
本発明のシボ付き成形体のマトリクスである熱可塑性樹脂が非晶性樹脂である場合、シボ付き成形体のシボと内部のそれぞれのシボ付き成形体のシボと内部のそれぞれから試料を採取し、熱重量測定を行い、強化繊維割合を求め、樹脂割合を算出してもよい。
本発明のシボ付き成形体は、その表面にシボの形状が異なる複数の領域を有するものであってもよく、隣接していない離れた複数の領域で同じ形状のシボを有していても良く、別々の形状のシボを有するものであっても良い。本発明のシボ付き成形体が、複数の領域にシボを持つものである場合、少なくとも一つの領域が前記の最大高さ(Rz)や平均ピッチ(Rsm)の要件を満たすものであれば、他の領域は当該要件を満たさない物であっても良いが、全ての領域のシボが当該要件を満たすものであると好ましい。
本発明のシボ付き成形体は、シボの最大高さ(Rz)が100μm~200μmであり、隣接するシボ間の平均ピッチ(Rsm)が200μm~1100μmであり、シボ投影面積%(Sg)が20%~90%であると優れた外観性等の特徴がより顕著になり特に好ましい。
本発明のシボ付き成形体は、2次元ランダム配向している強化繊維を含み、シボの最大高さ(Rz)が100μm~200μmであり、隣接するシボ間の平均ピッチ(Rsm)が200μm~1100μmであり、シボ投影面積%(Sg)が20%~90%であると優れた外観性等の特徴がより一層顕著になり極めて好ましい。
本発明のシボ付き成形体は、上記の特定のシボを有することにより耐候性に優れ、自動車の外装材など屋外で使用される用途にも好適である。耐候性が優れているということは、耐UV光性が優れていることを意味する。
本発明のシボ付き成形体は、上記の特定のシボを有することにより寸法安定性に優れたものとすることができる。例えば、成形体の寸法安定性が優れているとは、目的形状に対する反りなどが小さいものであるということであり、当該成形体を用いて組み立てや加工をして最終製品にするにおいて極めて有利である。
(シボ付き成形体)
本発明のシボ付き成形体は、その少なくとも一部の表面に上記のシボを有し、重量平均繊維長100mm以下の強化繊維と熱可塑性樹脂とを含むものである。
本発明のシボ付き成形体に含まれる強化繊維や熱可塑性樹脂として好ましいものは、成形材料である繊維強化樹脂材に含まれるそれらの好ましいものと併せ後で述べる。本発明のシボ付き成形体における、強化繊維100重量部あたりの熱可塑性樹脂の重量部量の好ましい範囲は、繊維強化樹脂材について述べるものと同様である。
本発明のシボ付き成形体に含まれる強化繊維の体積割合に特に限定は無いが、強化繊維及びマトリックスである熱可塑性樹脂について、下記式(b)で定義される強化繊維体積割合(Vf)が5%~80%であることが好ましく、Vfが20%~60%であることがより好ましい。
Vf=100×強化繊維体積/(強化繊維体積+熱可塑性樹脂体積) 式(b)
シボ付き成形体のVfが5%より高いと、強化繊維による補強効果が十分に発現し好ましく、かつ、Vfが80%以下であると、得られるシボ付き成形体中にボイドが発生しにくくなって物性が低下するおそれが少なくなり好ましい。部位によってVfが異なるシボ付き成形体の場合、Vfの平均値が上記範囲に入っていると好ましく、Vfの最小値と最大値のいずれも上記範囲に入っているとより好ましい。
後述するように、繊維強化樹脂材を成形して本発明のシボ付き成形体を得る場合、成形において、当該繊維強化樹脂材のほかに、他の繊維強化樹脂材、強化繊維、または熱可塑性樹脂などを添加することがなければ、繊維強化樹脂材のVfをシボ付き成形体のVfとみなすことができる。
本発明のシボ付き成形体の形状は特に限定されず、平板状であっても3次元形状であってもよく、リブやボスなどのいわゆる立ち上げ部があってもよく、曲面状の部分、空孔部、厚みが異なっている部分、深絞り形状の部分があってもよい。
本発明のシボ付き成形体の厚みは特に限定されるものではないが、通常、0.01mm~100mmであると好ましく、0.01mm~50mmであるとより好ましく、0.01mm~10mmであると更に好ましく0.01mm~5mmであるとより一層好ましく、0.1mm~5mmであると更に好ましく1mm~3mmのであると特に好ましい。部位によって厚みが異なる成形体の場合は、平均の厚みが上記範囲に入っていると好ましく、最小値と最大値の双方が上記範囲に入っていると更に好ましい。なお、本発明の成形体の大きさについては特に限定されず、用途に応じて適宜設定される。
本発明のシボ付き成形体は、任意の方向、およびこれと直交する方向(以下、それぞれ0度方向と90度方向と称することがある)についての引張弾性率の、大きい方の値を小さい方の値で割った比(以下、Eδ値と略することがある)が2未満であると好ましく1.5以下であるとより好ましく、1.3以下であるとより一層好ましい。Eδは、材料の等方性の指標であり、Eδが2未満であると等方性とされ、Eδが1.5未満であると等方性が優れているとされ、1.3以下であると等方性が特に優れているとされる。定義から明らかなようにEδ値の最小値は1.0である。
本発明のシボ付き成形体は、更に所望の形状に付与されたものであってよく、表面性の向上のために、必要に応じ再度プレス成形されてもよい。例えば、シボ付き成形体を射出成形機の金型に配置して、樹脂系材料を注入して射出成形を行い、ある部分に特殊な形状を設ける、所謂インサート成形を行ってもよい。
(シボ付き成形体の製造方法)
本発明の繊維強化樹脂成形体(シボ付き成形体)を製造する方法としては、後に示されるような繊維強化樹脂材を成形することが挙げられる。
本発明に関して、繊維強化樹脂材を成形する具体的な方法としては特に限定はされないが、繊維強化樹脂材中の強化繊維の折損が起こりにくく、生産性、成形材料の等方性が維持されやすいプレス成形(圧縮成形)が好ましいものとして挙げられる。中でも、成形直前に加熱されて可塑状態にある繊維強化樹脂材を、当該繊維強化樹脂材の可塑化温度未満の温度に調節された金型に配置し型締めして成形体を得る、所謂コールドプレス成形が、生産性が高いので好ましい。繊維強化樹脂材を加熱する方法としては、熱風加熱機、赤外線加熱機などが用いられる。
コールドプレス成形について具体的に例示すると以下のとおりである:繊維強化樹脂材をそのマトリクスである熱可塑性樹脂の軟化温度+30℃以上分解温度以下の可塑化温度に加熱して可塑状態にした後、上型と下型とを対で構成され、前記熱可塑性樹脂の軟化温度以下の温度に調整された金型内に配置して型締めして加圧し、冷却され固化した成形体を型開きして取り出す。
上記のコールドプレス成形において、繊維強化樹脂材を加熱して可塑状態にする温度(加熱温度)としては、軟化温度+15℃以上かつ分解温度−30℃であると好ましい。加熱温度が当該範囲内であると、マトリクス樹脂が充分に溶融・可塑化されて成形しやすく、かつ、熱可塑性樹脂の分解があまり進まず好ましい。
上記のコールドプレス成形において、加圧条件としてはプレス圧が0.1MPa~20MPaであると好ましく、0.2MPa~15MPaであるとより好ましく、さらに0.5MPa~10MPaであるとより一層好ましい。プレス圧が0.1MPa以上であると、繊維強化樹脂材を十分に押し切れるので、スプリングバックなどが発生しにくく素材強度の低下が起き難い。また圧力が20MPa以下であると、例えば繊維強化樹脂材が大きい場合でも、きわめて大きい特殊なプレス機ではなくより一般的なプレス機でプレス成形が可能な場合が多く、経済的に好ましい。また、加圧中の金型内の温度としては、熱可塑性樹脂材の種類によるが、溶融した熱可塑性樹脂材が冷却されて固化し、繊維強化樹脂成形体が形作られるために、熱可塑性樹脂材のマトリクスである熱可塑性樹脂の軟化温度より20℃以下の温度であることが好ましい。本発明について樹脂の軟化温度とは、結晶性熱可塑性樹脂については結晶溶解温度、いわゆる融点であり、非晶性熱可塑性樹脂についてはガラス転移点である。
以上のとおり、コールドプレス成形の条件について詳細に示したが、本発明のシボ付き成形体はホットプレス成形によっても製造することができる。本発明のシボ付き成形体をホットプレス成形で製造する際の加熱、加圧条件は、上記のコールドプレス成形の際の条件に準じたものであると好ましい。
本発明の少なくとも表面の一部にシボを有する繊維強化樹脂成形体を製造する方法としては、上記のようなプレス成形において、シボ形状有する金型を用いて、金型表面のシボ形状が表面に転写された成形体を得る手法が好ましい。シボ形状を有する金型とは、当該金型のキャビティーにおいて、成形体のシボを設ける部分に相当するところに、対応するシボ形状が加工されたものである。なお、シボの外観は模様だけでなく光沢感も重要であり、シボ形状を有する金型のシボ表面の凸凹を磨いたり荒らしたりすることで光沢感を変化させても良い。そうして調製されたシボ形状を有する金型を長期保管する場合、錆びや汚れにより外観が悪化することがあるので、長期保管時には防錆剤を塗布したり水分を通さないプラスチック製フィルムで巻いたり固形状油脂でコーティングしたりするが、メンテナンス性向上のため、クロムメッキやシリコン系コーティング等であらかじめシボ形状を有する金型を保護しておいても良い。
一般的に、金型のシボパターンはメーカー指定のシボの型番にシボ深さとシボの抜け勾配を指定することで決定することができ、光沢感やメンテナンス性を考慮した仕様を指定することができる。
前述したとおりのシボ付き成形体を得ることができれば、シボが無い繊維強化樹脂成形体をプレス成形で製造したのち、シボ形状を有する物体を高温にして当該成形体の所定の部分に押し当てるなどして、シボ付き成形体を得てもよい。
(繊維強化樹脂材)
本発明で使用する繊維強化樹脂材は、強化繊維とマトリクス樹脂である熱可塑性樹脂とを含む。
繊維強化樹脂材におけるマトリクス樹脂である熱可塑性樹脂の存在量は、熱可塑性樹脂の種類や強化繊維の種類等に応じて適宜決定することができるものであり、特に限定されるものでは無いが、通常、強化繊維100重量部に対して3重量部~1000重量部の範囲内が好ましい。繊維強化樹脂材における強化繊維100重量部あたりの熱可塑性樹脂の存在量としてより好ましくは30重量部~200重量部、更に好ましくは30重量部~150重量部である。マトリクス樹脂が強化繊維100重量部に対し3重量部以上であると含浸が十分に進みドライの強化繊維が少なくなる傾向にある。また1000重量部以下であると強化繊維の量が充分で構造材料として適切になることが多い。本発明のシボ付き成形体や繊維強化樹脂材において、強化繊維100重量部当たりの熱可塑性樹脂の存在量が異なる部位がある場合、シボ付き成形体など全体で上記の重量部範囲に該当するものであると好ましい。なお、本発明に関して重量との表記を便宜上用いている場合があるが、正確にいうと質量である。
繊維強化樹脂材における強化繊維の配向状態としては、例えば、強化繊維の長軸方向が一方向に配向した一方向配向や、上記長軸方向が繊維強化樹脂材の面内方向においてランダムに配向した2次元ランダム配向を挙げることができる。
本発明における強化繊維の配向状態は、上記の一方向配向又は2次元ランダム配向のいずれであってもよい。また、上記の一方向配向と2次元ランダム配向の中間の無規則配向(強化繊維の長軸方向が完全に一方向に配向しておらず、かつ完全にランダムでない配向状態)であってもよい。さらに、強化繊維の繊維長によっては、強化繊維の長軸方向が繊維強化樹脂材の面内方向に対して角度を有するように配向していてもよく、繊維が綿状に絡み合うように配向していてもよく、さらには繊維が平織や綾織などの二方向織物、多軸織物、不織布、マット、ニット、組紐、強化繊維を抄紙した紙等のように配向していてもよい。
繊維強化樹脂材やシボ付き成形体に含まれる強化繊維が2次元ランダム配向であることについて、特に数値的に定義したい場合は、日本国特開2012−246428号公報に示されているように、強化繊維に関して、面配向度σ=100×(1−(面配向角γが10°以上の強化繊維本数)/(全強化繊維本数))で定義される面配向度σが90%以上である状態を好ましい2次元ランダム配向としてもよい。
更に、成形体試料を厚み方向に切断した断面における任意の矩形領域について、成形体の厚み方向または成形体の厚み方向とは異なる方向をZ方向とし、上記公報に準じて強化繊維に関する観察、測定および面配向度σの算出を行っても良い。その場合、面配向角γの算出に必要な、強化繊維断面の長径と成形板表面が成す角については、成形板表面ではなく、観察対象の矩形領域の上辺または下辺と、強化繊維断面の長径とが成す角を用いても良い。
本発明における強化繊維マットとは、強化繊維が堆積し、または絡みあうなどしてマット状になったものをいう。強化繊維マットとしては、強化繊維の長軸方向が繊維強化樹脂成形体の面内方向においてランダムに配向した2次元ランダム強化繊維マットや、強化繊維が綿状に絡み合うなどして、強化繊維の長軸方向がXYZの各方向においてランダムに配向している3次元ランダム強化繊維マットが例示される。
本発明における等方性基材とは繊維強化樹脂材の態様の1つであり、強化繊維マットに、熱可塑性樹脂が含まれるものをいう。本発明における等方性基材において、強化繊維マットに熱可塑性樹脂が含まれる態様としては、例えば、強化繊維マット内に粉末状、繊維状、または塊状の熱可塑性樹脂が含まれる態様や強化繊維マットに熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂層が搭載または積層された態様を挙げることができる。
本発明に用いられる繊維強化樹脂材においては、1枚の繊維強化樹脂材中に、異なる配向状態の強化繊維が含まれていてもよい。
繊維強化樹脂材中に異なる配向状態の強化繊維が含まれる態様としては、例えば、(i)繊維強化樹脂材の面内方向に配向状態が異なる強化繊維が配置されている態様、(ii)繊維強化樹脂材の厚み方向に配向状態が異なる強化繊維が配置されている態様を挙げることができる。また、繊維強化樹脂材が複数の層からなる積層構造を有する場合には、(iii)各層に含まれる強化繊維の配向状態が異なる態様を挙げることができる。さらに、上記(i)~(iii)の各態様を複合した態様も挙げることができる。
なお、繊維強化樹脂材内における強化繊維の配向態様は、例えば、繊維強化樹脂材の任意の方向、及びこれと直行する方向を基準とする引張試験を行い、引張弾性率を測定した後、測定した引張弾性率の値のうち大きいものを小さいもので割った比(Eδ)を測定することで確認できる。弾性率の比が1に近いほど、強化繊維が等方的に配向していると評価できる。直交する2方向の弾性率の値のうち大きいものを小さいもので割った比が2を超えないときに等方性であるとされ、この比が1.5未満であると等方性が優れているとされ、この比が1.3を超えないときは特に等方性に優れていると評価される。
繊維強化樹脂材における強化繊維の目付量は、特に限定されるものではないが、通常、25g/m2以上10000g/m2以下であると好ましい。繊維強化樹脂材をプレス成形してシボ付き成形体を製造する際、特に強化繊維や成形材料の追加がされなければ、繊維強化樹脂材における強化繊維の目付量を、得られるシボ付き成形体における強化繊維の目付量とみなすことができる。
本発明に用いられる繊維強化樹脂材の厚みは特に限定されるものではないが、通常、0.01mm~100mmの範囲内が好ましく、0.01mm~5mmの範囲内が好ましく、1mm~5mmの範囲内がより好ましい。
なお、本発明に用いられる繊維強化樹脂材が複数の層が積層された構成を有する場合、上記厚みは各層の厚みを指すのではなく、各層の厚みを合計した繊維強化樹脂材全体の厚みを指すものとする。
本発明に用いられる繊維強化樹脂材は、単一の層からなる単層構造を有するものであってもよく、又は複数層が積層された積層構造を有するものであってもよい。
繊維強化樹脂材が上記積層構造を有する態様としては、同一の組成を有する複数の層が積層された態様であってもよく、又は互いに異なる組成を有する複数の層が積層された態様であってもよい。
また、繊維強化樹脂材が上記積層構造を有する態様としては、相互に強化繊維の配向状態が異なる層が積層された態様であってもよい。このような態様としては、例えば、強化繊維が一方向配向している層と、2次元ランダム配向している層を積層する態様を挙げることができる。
3層以上が積層される場合には、任意のコア層と、当該コア層の表裏面上に積層されたスキン層とからなるサンドイッチ構造としてもよい。
(強化繊維)
本発明のシボ付き成形体や繊維強化樹脂材に含まれる強化繊維として好ましいものは炭素繊維であるが、マトリクス樹脂の種類や繊維強化樹脂材の用途等に応じて、炭素繊維以外の無機繊維又は有機繊維のいずれも用いることができる。
上記炭素繊維以外の無機繊維としては、例えば、活性炭繊維、黒鉛繊維、ガラス繊維、タングステンカーバイド繊維、シリコンカーバイド繊維(炭化ケイ素繊維)、セラミックス繊維、アルミナ繊維、天然繊維、玄武岩などの鉱物繊維、ボロン繊維、窒化ホウ素繊維、炭化ホウ素繊維、及び金属繊維等を挙げることができる。
上記金属繊維としては、例えば、アルミニウム繊維、銅繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、スチール繊維を挙げることができる。
上記ガラス繊維としては、Eガラス、Cガラス、Sガラス、Dガラス、Tガラス、石英ガラス繊維、ホウケイ酸ガラス繊維等からなるものを挙げることができる。
上記有機繊維としては、例えば、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)、ポリフェニレンスルフィド、ポリエステル、アクリル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリアリレート等からなる繊維を挙げることができる。
本発明のシボ付き成形体や繊維強化樹脂材に含まれる強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、玄武岩繊維からなる群より選ばれる1つ以上の強化繊維であり、後記の重量平均繊維長範囲にあるものであると更に好ましい。
本発明においては、上記の各種繊維のうち1種類のみを用いると、成形材料や成形体の製造が簡便であり好ましいが、必要に応じて2種類以上の強化繊維を併用してもよい。この場合、複数種の無機繊維を併用してもよく、複数種の有機繊維を併用してもよく、無機繊維と有機繊維とを併用してもよい。
複数種の無機繊維を併用する態様としては、例えば、炭素繊維と金属繊維とを併用する態様、炭素繊維とガラス繊維を併用する態様等を挙げることができる。一方、複数種の有機繊維を併用する態様としては、例えば、アラミド繊維と他の有機材料からなる繊維とを併用する態様等を挙げることができる。さらに、無機繊維と有機繊維を併用する態様としては、例えば、炭素繊維とアラミド繊維とを併用する態様を挙げることができる。
本発明においては、上記強化繊維として炭素繊維を用いると好ましい。炭素繊維は、軽量でありながら強度に優れた繊維強化樹脂材を得ることができるからである。
上記炭素繊維としては、一般的にポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、石油・石炭ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、リグニン系炭素繊維、フェノール系炭素繊維、気相成長系炭素繊維などが知られているが、本発明においてはこれらのいずれの炭素繊維であっても好適に用いることができる。
中でも、本発明においては引張強度に優れる点でポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維を用いることが好ましい。強化繊維としてPAN系炭素繊維を用いる場合、その引張弾性率は100GPa~600GPaの範囲内であることが好ましく、200GPa~500GPaの範囲内であることがより好ましく、230GPa~450GPaの範囲内であることがさらに好ましい。また、引張強度は2000MPa~10000MPaの範囲内であることが好ましく、3000MPa~8000MPaの範囲内であることがより好ましい。
本発明に用いられる強化繊維は、マトリクス樹脂との密着性を向上させるため、表面にサイジング剤が付着しているものであってもよい。サイジング剤が付着している強化繊維を用いる場合、当該サイジング剤の種類は、強化繊維及びマトリクス樹脂の種類に応じて適宜選択することができるものであり、特に限定されるものではない。
強化繊維とマトリクス樹脂との密着強度は、ストランド引張せん断試験における強度が5MPa以上であることが望ましい。この強度は、マトリクス樹脂の選択に加え、例えば強化繊維が炭素繊維である場合、表面酸素濃度比(O/C)を変更する方法や、炭素繊維にサイジング剤を付与して、炭素繊維とマトリクス樹脂との密着強度を高める方法などで改善することができる。
本発明において、強化繊維の少なくとも一部が単繊維状である時、その効果が極めて顕著になる。その一方、成形時の繊維強化樹脂材の流動性を高いものにするためには、強化繊維の一部の形状が単繊維の束を成している事が好ましい。本発明で用いられる強化繊維は単繊維状のもののみでも、単繊維束状のもののみでも構わないが、この両者を有している時、本発明の効果をより得ることができる。なお、単繊維束とは、2本以上の強化単繊維が、集束剤や静電気力等により近接し束状に存在している事を意味する。単繊維束を形成する強化単繊維の本数として、好ましくは280本以上であり、より好ましくは600本以上である。
本発明において、単繊維束状の強化繊維を用いる場合、各単繊維束を構成する単繊維の数は、各単繊維束においてほぼ均一であってもよく、あるいは異なっていてもよい。
本発明のシボ付き成形体や繊維強化樹脂材に含まれる強化繊維の重量平均繊維長は100mm以下である。強化繊維の重量平均繊維長がこの範囲にある時、シボ付き成形体において、シボによる流動面と非流動面の差による外観向上効果が発現しやすい。重量平均繊維長として好ましくは1mm~100mmであり、より好ましくは5mm~100mmであり、より一層好ましくは10mm~100mmである。
本発明に用いられる強化繊維としては、上記のとおり強度や寸法の等方性に優れる重量平均繊維長100mm以下の不連続繊維だけでなく、目的に応じて連続繊維を用いてもよい。
本発明においては繊維長が互いに異なる強化繊維を併用してもよい。換言すると、本発明に用いられる強化繊維は、平均繊維長に単一のピークを有するものであってもよく、あるいは複数のピークを有するものであってもよい。
強化繊維の平均繊維長は、例えば、繊維強化樹脂材から無作為に抽出した100本の繊維の繊維長を、ノギス等を用いて1mm単位まで測定し、下記式(m)および式(f)に基づいて求めることができる。繊維強化樹脂材からの強化繊維の抽出法は、例えば、繊維強化樹脂材に500℃×1時間程度の加熱処理を施し、炉内にて樹脂を除去することによって行うことができる。
個数平均繊維長Ln=ΣLi/j (m)
(ここで、Liは強化繊維の繊維長、jは強化繊維の本数である。)
重量平均繊維長Lw=(ΣLi2)/(ΣLi) (f)
(ここで、Liは強化繊維の繊維長である。)
なお、ロータリーカッターで切断した場合など、繊維長が一定長の場合は数平均繊維長を重量平均繊維長とみなせる。
本発明において個数平均繊維長、重量平均繊維長のいずれを採用しても構わないが、繊維強化樹脂材の物性をより正確に反映できるのは、重量平均繊維長である事が多い。
本発明に用いられる強化繊維の単繊維径は、強化繊維の種類に応じて適宜決定すればよく、特に限定されるものではない。
強化繊維として炭素繊維が用いる場合、平均単繊維径は、通常、3μm~50μmの範囲内であることが好ましく、4μm~12μmの範囲内であることがより好ましく、5μm~8μmの範囲内であることがさらに好ましい。
一方、例えば強化繊維としてガラス繊維を用いる場合、平均単繊維径は、通常、3μm~30μmの範囲内であることが好ましい。
ここで、上記平均単繊維径は、その名のとおり強化繊維の単繊維の直径を指すものであるが、強化繊維が単繊維の束状物である場合は、平均単繊維径を平均繊維径と略称することもある。
強化繊維の平均単繊維径は、例えば、JIS R7607(2000)に記載された方法によって測定することができる。
前述のとおり、本発明に用いられる強化繊維は、単繊維束状、つまり2本以上の強化単繊維が、集束剤や静電気力等により近接し束状になったものを含んでいると好ましい。本発明に関し、単繊維束状の強化繊維を便宜上、強化繊維束と称することがある。1つの強化繊維束とは、繊維強化樹脂成形体やその成形材料において、1つの充填物として機能する。繊維強化樹脂成形体や成形材料からそのマトリクスである熱可塑性樹脂を除去したものである強化繊維試料から、不作為に個々の強化繊維をピンセットなどで採取したものが複数の単繊維の束状物であれば、これを強化繊維束と見なすことができる。
強化繊維束としては、複数の単繊維が凡そ同方向を向き、それらの長手側面同士が接して束状になっているものが代表的だが、この形態に限定されない。例えば、複数の単繊維が様々な方向を向いた束状であってもよく、複数の単繊維が長手側面の一部では近接しているが、それ以外の部分では単繊維の間が離れているような束状であってもよい。
本発明に用いられる強化繊維が単繊維束状である場合、各単繊維束を構成する単繊維の数は特に限定されるものではないが、通常、2本~10万本の範囲内とされる。
例えば、一般的に、炭素繊維は、数千本~数万本の単繊維が集合した単繊維束状となっている。
強化繊維として炭素繊維などを用いる場合に、単繊維束状のまま使用すると、単繊維束の交絡部が局部的に厚くなり薄肉の繊維強化樹脂材を得ることが困難になる場合がある。このため、単繊維束状の強化繊維を用いる場合は、単繊維束を拡幅したり、又は開繊したりして使用するのが通常である。
単繊維束状の強化繊維を拡幅したり、又は開繊したりする場合、本発明における強化繊維は、下記式(1)
臨界単繊維数=600/D (1)
(ここでDは強化単繊維の平均繊維径(μm)である)
で定義する臨界単繊維数以上の本数の単繊維で構成される強化繊維(A)について、強化繊維全量に対する割合が20vol%以上となる量であることが好ましく、30vol%以上となる量であることがより好ましく、更に好ましくは40vol%以上であり、特に好ましくは50vol%以上となる量である。強化繊維(A)以外の強化繊維として、単繊維の状態または臨界単繊維数未満の本数の単繊維で構成される単繊維束、以下、強化繊維(B)と称する場合がある、が存在してもよい。本発明の強化繊維は、特定の単糸数以上で構成される強化繊維(A)の厚みを低減させ、かつ強化繊維単位重量(g)当たりの強化繊維(A)の束数を特定の範囲とすることで繊維強化樹脂材の厚み斑を小さくできるため、成形することで薄肉でも機械物性に優れた繊維強化樹脂成形体を得ることが可能である。
炭素繊維全量に対する強化繊維(A)の量の割合が20vol%以上であれば、本発明の繊維強化樹脂材を成形した際に、強化繊維体積含有率の高い繊維強化複合材料を得ることができ好ましい。一方、強化繊維(A)の量の割合の上限は99vol%であることが好ましい。繊維全量に対する強化繊維(A)の量の割合が99vol%以下であれば、繊維の目隙が大きくならず、機械強度に優れる複合材料を得ることができる。強化繊維全量に対する強化繊維(A)の量の割合はより好ましくは50vol%以上99vol%未満である。強化繊維全量に対する強化繊維(A)の量の割合の上限は、95vol%以下がより好ましく、90vol%以下が更に好ましい。
前記のとおり、強化繊維(A)は強化単繊維の束状物であるので、便宜上、強化繊維束(A)と称されることもある。同様に、強化繊維(A)の平均単繊維数が平均繊維数と略称されることがある。
(熱可塑性樹脂)
本発明のシボ付き成形体や繊維強化樹脂材においては、マトリクス樹脂として熱可塑性樹脂が含まれている。また、本発明においてはマトリクス樹脂として、熱可塑性樹脂を主成分とする範囲において、熱硬化性樹脂を併用してもよい。
上記熱可塑性樹脂は特に限定されるものではなく、シボ付き成形体の用途等に応じて所望の軟化温度を有するものを適宜選択して用いることができる。
上記熱可塑性樹脂としては、通常、軟化温度が180℃~350℃の範囲内のものが用いられるが、これに限定されるものではない。本発明について熱可塑性樹脂の軟化温度とは、結晶性熱可塑性樹脂については結晶溶解温度、いわゆる融点であり、非晶性熱可塑性樹脂についてはガラス転移点である。
上記熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、熱可塑性ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂(ポリオキシメチレン樹脂)、ポリカーボネート樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、フッ素系樹脂、熱可塑性ポリベンゾイミダゾール樹脂等からなる群より選ばれる1種類以上のものを挙げることができる。
上記ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等からなる群より選ばれる1種類以上のものを挙げることができる。
上記ポリスチレン樹脂としては、例えば、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)等からなる群より選ばれる1種類以上のものを挙げることができる。
上記ポリアミド樹脂としては、例えば、ポリアミド6樹脂(ナイロン6)、ポリアミド11樹脂(ナイロン11)、ポリアミド12樹脂(ナイロン12)、ポリアミド46樹脂(ナイロン46)、ポリアミド66樹脂(ナイロン66)、ポリアミド610樹脂(ナイロン610)等からなる群より選ばれる1種類以上のものを挙げることができる。
上記ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ボリブチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、液晶ポリエステル等を挙げることができる。
上記(メタ)アクリル樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレートを挙げることができる。
上記変性ポリフェニレンエーテル樹脂としては、例えば、変性ポリフェニレンエーテル等を挙げることができる。
上記熱可塑性ポリイミド樹脂としては、例えば、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂等を挙げることができる。
上記ポリスルホン樹脂としては、例えば、変性ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂等からなる群より選ばれる1種類以上のものを挙げることができる。
上記ポリエーテルケトン樹脂としては、例えば、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂からなる群より選ばれる1種類以上のものを挙げることができる。
上記フッ素系樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等を挙げることができる。
本発明に用いられる熱可塑性樹脂は1種類のみであってもよく、2種類以上であってもよい。2種類以上の熱可塑性樹脂を併用する態様としては、例えば、相互に軟化温度が異なる熱可塑性樹脂を併用する態様や、相互に平均分子量が異なる熱可塑性樹脂を併用する態様等を挙げることができるが、この限りではない。
(繊維強化樹脂材の製造方法)
本発明に用いられる繊維強化樹脂材は、公知の方法を用いて製造することができる。
マトリクス樹脂として熱可塑性樹脂を用いる場合は、例えば、1.強化繊維をカットする工程、2.カットされた強化繊維を開繊させる工程、3.開繊させた強化繊維と繊維状又は粒子状のマトリクス樹脂を混合し等方性基材とした後、これを加熱圧縮して熱可塑性樹脂の含浸をすすめ繊維強化樹脂材を得る工程により製造することができるが、この限りではない。
なお、等方性基材(2次元ランダム配向マットとも呼ばれる)およびその製造法については、WO2012/105080パンフレット、日本国特開2013−49298号公報の明細書に詳しく記載されている。
すなわち、複数の強化繊維からなるストランドを、必要に応じ強化繊維長方向に沿って連続的にスリットして幅0.05mm~5mmの複数の細幅ストランドにした後、平均繊維長3mm~100mmに連続的にカットし、カットした強化繊維に気体を吹付けてより小さい単繊維数の強化繊維へと開繊させた状態で、通気性コンベヤーネット等の上に層状に堆積させることによりマットを得ることができる。この際、粒体状もしくは短繊維状の熱可塑性樹脂を強化繊維とともに通気性コンベヤーネット上に堆積させるか、マット状の強化繊維層に溶融した熱可塑性樹脂を膜状に供給し浸透させることにより熱可塑性樹脂を包含する等方性基材を製造する方法により製造することもできる。
なお、強化繊維(A)中の単繊維数を制御するために、上述した好適な等方性基材の製造法において、カット工程に供する強化繊維の大きさ、例えば単繊維束としての強化繊維の幅や幅当りの単繊維数を調整することでコントロールすることができる。具体的には拡幅するなどして強化繊維の幅を広げてカット工程に供すること、カット工程の前にスリット工程を設ける方法が挙げられる。また強化繊維をカットと同時に、スリットしてもよい。
上述のような等方性基材を使用した繊維強化樹脂材は、その面内において、強化繊維が特定の方向に配向しておらず、無作為な方向に分散して配置されている。すなわち、この様な繊維強化樹脂材は面内等方性の材料である。互いに直交する2方向の引張弾性率の比を求めることで、繊維強化樹脂材の等方性を定量的に評価できる。
(カーボンブラック)
本発明のシボ付き成形体や、繊維強化樹脂材は、前記の強化繊維およびマトリクス樹脂としての熱可塑性樹脂のほかに、カーボンブラックを含んでいてもよい。本発明において、カーボンブラックとは、油や天然ガスなどの炭化水素を、熱分解や不完全燃焼することで得られるもので、後述のグラファイトが層をなし部分的に融合した一次粒子で構成されたアグリゲートからなるものである。アグリゲートはファンデルワールス力により凝集しアグロメートとなるため、分散しにくくなる。また、一般に平均一次粒子径が小さい程黒度が高く、着色力も高いが、比表面積が大きいためカーボンブラックと樹脂の界面が増大し、粘性も増大することとなる。本発明で使用するカーボンブラックとしては具体的には、ファーネス法で製造されるファーネスブラック、アセチレン法で製造されるアセチレンブラック、サーマル法で製造されるサーマルブラック、チャンネル法で製造されるチャンネルブラック、ケッチェンブラックなどからなる群より選ばれる1種類以上のものが挙げられる。
これらの中でも、高導電性を付与する場合は、結晶性が高いこと、もしくは高ストラクチャーであることより、アセチレンブラック、ケッチェンブラックを用いることが好ましい。又、高黒度、高着色力を付与する場合は特にファーネスブラックを用いることが好ましい。又、粒径、比表面積、pH、および吸油量は特に限定されず、平均粒子径は、好ましくは8nm~200nm、より好ましくは13nm~100nm、比表面積は、好ましくは10m2/g~700m2/g、より好ましくは20m2/g~240m2/g、pHは、好ましくは2~10.5、より好ましくは7~9.5、吸油量は、好ましくは50mL/100g~320mL/100g、より好ましくは70mL/100g~180mL/100gである。
また、カーボンブラックの表面は、本発明の組成物の特性を損なわない限りにおいて樹脂との親和性を増すために官能基で修飾して用いてもよく、例えば酸やアルカリによって水酸基、カルボキシル基、アミノ基で官能基化を施してもよい。更にカーボンブラックをカップリング剤で予備処理して使用してもよく、かかるカップリング剤としては、イソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、エポキシ化合物などが挙げられる。
前記カーボンブラックの含有量は、全組成物に対して、好ましくは0.1重量%~10重量%、より好ましくは0.2重量%~5重量%、特に好ましくは0.5重量%~3重量%である。カーボンブラックの含有量が0.1重量%以上であると成形体の耐候性向上の効果が充分に発揮され好ましく、カーボンブラック含有量が10重量%を以下であると成形体の強度低下が発生しにくくなり好ましい。
また、本発明のシボ付き成形体や、繊維強化樹脂材中には、本発明の目的を損なわない範囲で、有機繊維または無機繊維の各種繊維状または非繊維状のフィラー、難燃剤、耐UV剤、安定剤、離型剤、カーボンブラック以外の顔料、染料、軟化剤、可塑剤、界面活性剤等の添加剤を含んでいてもよい。
(1)繊維強化樹脂材の強化繊維体積割合(Vf)
繊維強化樹脂材を500℃×1時間、炉内にてマトリクス樹脂を燃焼除去し、処理前後の試料の質量を秤量することによって強化繊維分とマトリクス樹脂の質量を算出した。次に、各成分の比重を用いて強化繊維とマトリクス樹脂の体積を算出し、下記式(b)に従って繊維強化樹脂材の強化繊維体積割合(Vf)を算出した。
Vf=100×強化繊維体積/(強化繊維体積+熱可塑性樹脂体積)
(b)
(2)繊維強化樹脂材の臨界単糸数、強化繊維全量のうちの強化繊維(A)の量の割合、強化繊維長
WO2012/105080パンフレット、または米国特許公開第2014/0186584号公報に記載の方法に準じて実施した。
(3)シボの最大高さ(Rz)
シボ成形体の表面を、キーエンス製形状測定レーザーマイクロスコープ(VK−X100)を用いて測定倍率10倍にて9視野分測定し、JIS B0601(2001)に準じ、シボの最大高さ(Rz)を算出した。算出に当たってのカットオフ波長は0.25μmであった。
(4)隣接するシボとの平均ピッチ(Rsm)
シボ付き成形体の表面を、キーエンス製形状測定レーザーマイクロスコープ(VK−X100)を用いて測定倍率10倍にて9視野分測定し、JIS B0601(2001)に準じてシボの平均ピッチ(Rsm)を算出した。算出に当たってのカットオフ波長は0.25μmであった。
(5)シボ投影面積%(Sg)
シボ付き成形体の表面を、キーエンス製形状測定レーザーマイクロスコープ(VK−X100)を用いて測定倍率10倍にて9視野分測定し、シボの凹凸が無い平らな面を算出し、下記式(2)にしたがってシボ投影面積%(Sg)を算出した。
Sg=100×(全視野の面積−シボの凹凸が無い平らな面の面積)/全視野の面積 (2)
(6)成形体の外観性
成形体の外観性の良否を、成形体表面の流動部と非流動部の境目の見分けが付くか否かという観点から、以下基準に従い目視判定した。
・目視で見分けがつかない : Excellent(外観性が極めて良好)
・目視でほとんど見分けがつかない : Good(外観性が良好)
・よく見ると見分けがつく : Fair(外観性がやや良好)
・見分けがつく : Bad(外観性が不良)
(7)耐候性(耐候劣化試験後の外観性)
成形体を岩崎電気株式会社製アイスーパーUVテスター(SUV−W151)内に設置し、ブラックパネル温度70℃、試験湿度50%、UV照射強度900W/m2、降雨条件60分中30秒降雨、照射時間90時間の条件で、耐候性試験を実施した。外観の劣化の程度は、UV非照射サンプルとUV照射サンプルを比較し、目視およびキーエンス製形状測定レーザーマイクロスコープ(VK−X100)で、以下基準に従って耐候性を評価した。
・目視で見分けがつかない : Excellent(耐候性が極めて良好)
・目視でほとんど見分けがつかない : Good(耐候性が良好)
・よく見ると見分けがつく : Fair(耐候性がやや良好)
・見分けがつく : Bad(耐候性が不良)
(8)シボ付き成形体におけるシボと内部の樹脂割合
表1に示す本発明の実施例と比較例に用いた熱可塑性樹脂はナイロン6であり、結晶性樹脂であるため、示差走査熱量測定で融解熱を測定し、シボの樹脂割合と内部の樹脂割合をそれぞれ測定した。一方、非晶性樹脂では融解熱の測定が困難であるため、その場合は熱重量測定により強化繊維割合を測定し、樹脂割合を算出する。
(シボの融解熱)
シボ付き成形体の表面のシボの部分をカッターで約6mg削り取ったものを試料としてアルミ製サンプルパンに仕込んでエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製X−DSC7000のサンプルホルダーに設置し、窒素雰囲気下で40℃から毎分20℃の速度で280℃まで昇温し、3分保持した後40℃まで毎分20℃の速度で降温し、40℃に到達したら3分保持した後に毎分20℃の速度で280℃まで昇温するという条件で示差走査熱量測定を行い、2回目の昇温時の融解熱(シボの融解熱)を測定した。
(シボ付き成形体内部の融解熱)
光沢面となっているシボ付き成形体の裏面を金属製のやすりで約1mm削り落とし内部を露出させた後で、カッターにより約6mgに削り取ったものを試料としてアルミ製サンプルパンに仕込んだ他は、シボの融解熱と同じ方法で2回目の昇温時の融解熱をシボ付き成形体の内部の融解熱として測定した。
(シボの樹脂割合)
シボの樹脂割合は下記式に従って算出した。
シボの樹脂割合(%)=100×(100−Vf)×(シボの融解熱)/(シボ付き成形体の内部の融解熱) (3)
(内部の樹脂割合)
内部の樹脂割合は下記式に従って算出した。
内部の樹脂割合(%)=100−Vf (4)
(9)引張強度
成形体について、JIS K7164、ISO 527−1およびISO 527−2に準拠して引張強度を測定した。
(10)成形体の反り
繊維強化樹脂成形体の一辺を平板上に固定し、平板から最も離れている高さを、定規を用いて測定した。
(繊維強化樹脂材の製造)
[製造例1]
強化繊維として、東邦テナックス社製のPAN系炭素繊維“テナックス”(登録商標)STS40−24KS(平均単繊維径7μm、単繊維数24000本)をナイロン系サイジング剤処理したものを使用し、マトリクス樹脂として、ユニチカ社製のナイロン6樹脂A1030を用いて、WO2012/105080パンフレットに記載された方法に準拠し、炭素繊維目付1441g/m2、ナイロン6樹脂目付1704g/m2である、面内等方的に重量平均繊維長20mmの炭素繊維が2次元ランダム配向した等方性基材を作成した。
得られた等方性基材を、上部に凹部を有する金型を用いて260℃に加熱したプレス装置にて、2.0MPaにて5分間加熱及び加圧し、厚さ2.3mmの強化繊維体積割合(Vf)=35%の、強化繊維が2次元ランダム配向した繊維強化樹脂材を得た。
繊維強化樹脂材に含まれる強化繊維の重量平均繊維長は20mmであり、臨界単繊維数は86本であり、強化繊維全量のうち、臨界単繊維数以上の本数の炭素単繊維からなる強化繊維(A)の割合は85vol%であった。繊維強化樹脂材中の、強化繊維(A)以外の強化繊維として、臨界単繊維数未満の本数の炭素単繊維からなる束、および単繊維状の炭素繊維も存在した。
[製造例2]
ユニチカ社のナイロン6樹脂(A1030)100重量部に対し、CABOT社製の「BP800」(粒子径17nm、比表面積210m2/g、吸油量68mL/100g)を1.0重量部、三菱化学社製の「#850」(粒子径17nm、比表面積220m2/g、吸油量77mL/100g)1.5重量部を加え、東芝機械製30mmφ2軸押出機(TEM−26SS−10/1V)を用い、シリンダー温度260℃、スクリュウ回転数200rpm、吐出量20kg/hrで溶融混練したものをマトリクス樹脂に用いた他は、製造例1と同様に製造し、厚さ2.3mmの強化繊維体積割合(Vf)=35%の、強化繊維が2次元ランダム配向した繊維強化樹脂材を得た。
繊維強化樹脂材に含まれる強化繊維(炭素繊維)の臨界単繊維数は86本であり、臨界単繊維数以上の炭素繊維(A)は85vol%、重量平均繊維長は20mmであった。繊維強化樹脂材中の、強化繊維(A)以外の強化繊維として、臨界単繊維数未満の本数の炭素単繊維からなる束、および単繊維状の炭素繊維も存在した。
[製造例3]
米国特許公開第2015/0191583号の記載に基づき、以下のとおり繊維強化樹脂材を得た。
含浸助剤として、p−ヒドロキシ安息香酸2−ヘキシルデシルエステル(花王株式会社製のエキセパールHD−PB)を用い、これを不揮発分12重量%にエマルジョン化した溶液内に、炭素繊維としてPAN系炭素繊維ストランド(東邦テナックス社製STS4024K相当、単繊維直径7.0μm、単繊維本数24000本、引張強度4000MPa)を通過させた後、炭素繊維に過剰に付着した溶液を、ニップロールにて取り除いた。更に、この含浸助剤が付着した炭素繊維を180℃に加熱された熱風乾燥炉内を2分間かけて通過させることにより乾燥させ、易含浸炭素繊維を得た。この易含浸炭素繊維を200℃に加熱した直径60mmの2本の金属製ロールに沿わせ、再度の加熱処理を行い、炭素繊維に、含浸助剤がより均一に付着した易含浸炭素繊維とした。この易含浸炭素繊維の含浸助剤に含有量は6重量%(炭素繊維100重量部あたり6.4重量部)であった。
次に、上記で得られた易含浸炭素繊維を、出口径3mmの電線被覆用クロスヘッドダイを用いて、ユニチカ社製のナイロン6樹脂A1030で被覆し、これを長さ6mmに切断し、炭素繊維含有率が30質量%(炭素繊維100質量部あたり、ナイロン6が221質量部)、直径3.2mm、長さ6mmの、射出成形に適した芯鞘型ペレットである成形用材料を得た。この成形用材料を、日本製鋼所製110ton電動射出成形機(J110AD)を用い、シリンダー温度C1/C2/C3/C4/N=280℃/290℃/290℃/290℃/280℃(C1~C4はキャビティ、Nはノズル)にて成形サイクル35秒で射出成形し、肉厚4mmの引張試験用ダンベルと、シボ成形体製造用の200×200mm×厚み2.3mmの繊維強化材樹脂材を得た。
(シボ成形体の製造方法)
特に記載が無い限り、実施例、比較例においては以下の成形体の製造方法を採用した:
シボ加工され特定のシボパターンを有する、製品面が210×100mmである平板金型を用意し、株式会社放電精密加工研究所製200トン(1960kN)サーボプレス機に取り付けた。
所定の繊維強化樹脂材を190×90mmに切り出し、赤外線加熱機で300℃に昇温した後、150℃に温調された平板金型に設置し、サーボプレス機のプレス圧力42トン(412kN)、型締め付け速度20mm/secの条件で圧縮成形を行い、成形体を得た。
[実施例1]
繊維強化樹脂材は製造例1のものを、平板金型はシボパターンが株式会社棚澤八光社のTH−1008、シボ深さ100μm、抜き勾配10°のものを用い、前記の製造方法の手順にてシボ付き成形体を製造した。繊維強化樹脂材における強化繊維の目付、重量平均繊維長、強化繊維(A)量の割合、2次元ランダム配向性などの強化繊維の状態は、シボ付き成形体においてもほぼ維持されていた。
キーエンス製形状測定レーザーマイクロスコープ(VK−X100)を用い、測定倍率10倍で観察したシボ付き成形体のシボ外観を図1に示す。得られた結果を表1に示すとおり、非流動部と流動部による外観の違いが殆ど見受らけれず、かつ、耐候劣化による外観悪化が抑制された、優れた強度と寸法のシボ付き成形体が得られている。
[実施例2]
平板金型として、シボパターンが株式会社棚澤八光社のTH−176B、シボ深さ100μm、抜き勾配10°のものを用いた以外は実施例1と同様に操作を行った。得られたシボ付き成形体のシボ外観(測定倍率10倍)を図2に示す。結果を表1に示すとおり、非流動部と流動部による外観の違いが殆ど見受けられず、かつ、耐候劣化による外観悪化が抑制された、優れた強度と寸法のシボ付き成形体が得られている。繊維強化樹脂材における強化繊維の目付、重量平均繊維長、強化繊維(A)量の割合、2次元ランダム配向性などの強化繊維の状態は、シボ付き成形体においてもほぼ維持されていた。
[実施例3]
平板金型として、シボパターンがテニバック社のT−1709、シボ深さ70μm、抜き勾配8°のものを用いた以外は実施例1と同様に操作を行った。得られたシボ付き成形体のシボ外観(測定倍率10倍)を図3に示す。結果を表1に示すとおり、非流動部と流動部による外観の違いが殆ど見受けられず、かつ、耐候劣化による外観悪化が抑制された、優れた強度と寸法安定性のシボ付き成形体が得られている。繊維強化樹脂材における強化繊維の目付、重量平均繊維長、強化繊維(A)量の割合、2次元ランダム配向性などの強化繊維の状態は、シボ付き成形体においてもほぼ維持されていた。
[実施例4]
繊維強化樹脂材は製造例2のものを用い、平板金型として、シボパターンが株式会社棚澤八光社のTH−1008、シボ深さ100μm、抜き勾配10°のものを用いた以外は実施例1と同様に操作を行った。得られたシボ付き成形体のシボ外観(測定倍率10倍)を図4に示す。結果を表1に示すとおり、実施例1に比べカーボンブラック量を増した分、非流動部と流動部による外観の違いがより見受けられず、かつ、耐候劣化による外観悪化がより抑制された、優れた強度と寸法のシボ付き成形体が得られている。繊維強化樹脂材における強化繊維の目付、重量平均繊維長、強化繊維(A)量の割合、2次元ランダム配向性などの強化繊維の状態は、シボ付き成形体においてもほぼ維持されていた。
[実施例5]
平板金型として、シボパターンが(株)棚澤八光社のTH−176B、シボ深さ40μm、抜き勾配4°のものを用いた以外は実施例1と同様に操作を行った。得られたシボ付き成形体のシボ外観(測定倍率10倍)を図5に示す。結果を表1に示すとおり、実施例1に比べシボ部と内部の樹脂量差が縮まっており、やや非流動部と流動部による外観が違う印象を与えるものであり、かつ、耐候劣化による外観悪化抑制効果がやや低いものの、優れた強度と寸法安定性のシボ付き成形体が得られている。繊維強化樹脂材における強化繊維の目付、重量平均繊維長、強化繊維(A)量の割合、2次元ランダム配向性などの強化繊維の状態は、シボ付き成形体においてもほぼ維持されていた。
[実施例6]
繊維強化樹脂材は製造例3のものを用い、平板金型として、シボパターンが株式会社棚澤八光社のTH−1008、シボ深さ100μm、抜き勾配10°を用いた以外は実施例1と同様に操作を行った。得られたシボ付き成形体のシボ外観(測定倍率10倍)を図6に示す。結果を表1に示すとおり、得られたシボ付き成形体は、外観や耐候劣化に関しては実施例1と同等に優れているものの、引張強度がやや劣り、平板状のシボ付き成形体を作ろうとしたにもかかわらず反りが大きいものとなった。これはシボ付き成形体が含有する強化繊維の重量平均繊維長が0.9mmと短めであることが原因と考えられる。
[比較例1]
平板金型として、シボパターンが株式会社棚澤八光社のTH−1008、シボ深さ40μm、抜き勾配4°を用いたた以外は実施例1と同様に操作を行った。得られたシボ付き成形体のシボ外観(測定倍率10倍)を図7に示す。結果は表1に示すとおり、得られたシボ付き成形体には、実施例1に比べると明らかに非流動部と流動部による外観の違いが見受けられ、耐候劣化による外観悪化を抑制する効果は確認されなかった。繊維強化樹脂材における強化繊維の目付、重量平均繊維長、強化繊維(A)量の割合、2次元ランダム配向性などの強化繊維の状態は、シボ付き成形体においてもほぼ維持されていた。
[比較例2]
平板金型として、シボパターンが無く#600磨きの、つまり鏡面仕上げの製品面のものを用いた。結果を表1に示すとおり、得られた成形体には、実施例1に比べ明らかに非流動部と流動部による外観の違いが見受けられ、耐候劣化による外観悪化を抑制する効果は確認されなかった。
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2015年12月28日出願の日本国特許出願(特願2015−256370号)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
臨界単繊維数=600/D (1)
(ここでDは強化繊維の平均単繊維径(μm)である)






