METHOD FOR FREEZING CELL STRUCTURE

05-05-2022 дата публикации
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WO2022091822A1
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細胞構造体の凍結方法
[1]

 本発明は、細胞構造体の凍結方法に関する。

[2]

 人工的に生体組織を模した構造体を作製する手法として、例えば、コラーゲンを含む被膜でコートされた細胞を三次元に配置して、三次元組織体を形成することを含む、三次元組織体を製造する方法(特許文献1)、細胞をカチオン性物質および細胞外マトリックス成分と混合して混合物を得て、得られた混合物から細胞を集めて、基材上に細胞集合体を形成することを含む、立体的細胞組織の製造方法(特許文献2)等が知られている。また、本発明者らは、細胞と断片化された外因性コラーゲンを接触させることで、比較的少ない細胞数で、厚さが1mm以上である、サイズが大きい三次元組織体を製造する方法(特許文献3)を提案している。これらのような三次元組織体は、実験動物の代替品、移植材料等としての利用が期待されている。

[3]

国際公開第2015/072164号国際公開第2017/146124号国際公開第2018/143286号

[4]

 上述の三次元組織体の製造方法によれば、細胞培養によって人工的に作られる細胞の集合体である細胞構造体を得ることができる。一方、細胞構造体を凍結して、細胞構造体が元々有していた機能及び/又は構造まで維持する方法については知られていない。

[5]

 本発明の目的は、解凍後においても機能及び/又は構造が十分に維持されている細胞構造体の凍結方法を提供することにある。

[6]

 本発明は、断片化細胞外マトリックス成分、細胞及びフィブリンを含み、三次元組織構造を有する細胞構造体を凍結させると、解凍後においても細胞構造体の構造及び/又は機能が維持されているという新たな知見に基づくものである。

[7]

 本発明は、断片化細胞外マトリックス成分、細胞及びフィブリンを含み、三次元組織構造を有する細胞構造体を凍結させることを含む、細胞構造体の凍結方法に関する。

[8]

 本発明の細胞構造体の凍結方法は、断片化細胞外マトリックス成分、細胞及びフィブリンを含み、三次元組織構造を有する細胞構造体を凍結させることを含むため、解凍後においても細胞構造体の機能及び/又は構造は十分に維持されている。

[9]

 細胞構造体が、細胞間に血管網を有していてよい。この場合、本発明による効果がより一層顕著に奏される。

[10]

 細胞は少なくとも脂肪細胞を含んでいてよい。

[11]

 本発明の細胞構造体の凍結方法は、細胞構造体を-160℃の条件下で保持することを更に含んでいてよい。本発明の細胞構造体の凍結方法は、凍結させた細胞構造体を7日間以上凍結状態で保持することを更に含んでいてよい。

[12]

 凍結させた細胞構造体は、解凍した後において、三次元組織構造及び/又は機能を維持しているものであってよい。また、凍結させる前の細胞構造体中の細胞生存数に対する、凍結させた細胞構造体の解凍後の細胞生存数の比は、80%以上であってよい。

[13]

 本発明によれば、解凍後においても機能及び/又は構造が十分に維持されている細胞構造体の凍結方法を提供することができる。

[14]

図1は凍結前(0日目)の細胞構造体をLive/Deadアッセイ結果を示す写真であり、図1(A)は細胞間に血管網が形成されていない細胞構造体の結果を示し、図1(B)は細胞間に血管網が形成された細胞構造体の結果を示す写真である。図2は、7日間又は30日間凍結保存した細胞構造体のLive/Deadアッセイ結果を示す写真である。図3は、7日間又は30日間凍結保存した細胞構造体のLive/Deadアッセイ結果を示す写真である。図4は、0日間、7日間又は30日間凍結保存した細胞構造体中の細胞生存数の評価結果を示すグラフであり、図4(A)は凍結保存液として、Labobankerを用いた場合の結果を示し、図4(B)は凍結保存液として、トレハロース混合物を用いた場合の結果を示す。図5は、血管網を有する細胞構造体の血管接続機能について評価した結果を示す写真である。図6は、脂肪細胞を含む細胞構造体の脂肪酸の取り込み能を評価した結果を示す写真である。図7は、脂肪細胞を含む細胞構造体(脂肪ボール)のDNA量の測定結果を示すグラフである。

[15]

 以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。

[16]

 本実施形態に係る細胞構造体の凍結方法は、断片化細胞外マトリックス成分、細胞及びフィブリンを含み、三次元組織構造を有する細胞構造体を凍結させること(凍結ステップ)を含む。

[17]

 本明細書において、「細胞構造体」とは、細胞培養によって人工的に作られる細胞の集合体(塊状の細胞集団)を意味する。本明細書において、「三次元組織構造」は、細胞外マトリックス成分を介して細胞が三次元的に配置されている構造である。三次元組織構造を有する細胞構造体の形状は、特に制限はなく、例えば、シート状、球体状、略球体状、楕円体状、略楕円体状、半球状、略半球状、半円状、略半円状、直方体状、略直方体状等が挙げられる。ここで、生体組織は、汗腺、リンパ管、脂腺等を含み、構成が細胞構造体より複雑である。そのため、細胞構造体と生体組織とは容易に区別可能である。

[18]

(細胞)
 本明細書において「細胞」は、特に限定されないが、例えば、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウシ、マウス、ラット等の哺乳類動物に由来する細胞であってよい。細胞の由来部位も特に限定されず、骨、筋肉、内臓、神経、脳、骨、皮膚、血液等に由来する体細胞であってもよく、生殖細胞であってもよい。さらに、細胞は、幹細胞であってもよく、また、初代培養細胞、継代培養細胞及び細胞株細胞等の培養細胞であってもよい。

[19]

 本明細書において「幹細胞」とは、自己複製能及び多分化能を有する細胞を意味する。幹細胞には、任意の細胞腫に分化する能力を持つ多能性幹細胞と、特定の細胞腫に分化する能力を持つ組織幹細胞(体性幹細胞とも呼ばれる)が含まれる。多能性幹細胞としては、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、体細胞由来ES細胞(ntES細胞)及び人工多能性幹細胞(iPS細胞)が挙げられる。組織幹細胞としては、例えば、間葉系幹細胞(例えば、脂肪幹細胞、骨髄由来幹細胞)、造血幹細胞及び神経幹細胞が挙げられる。脂肪幹細胞としては、例えば、ヒト脂肪幹細胞(ADSC)が挙げられる。

[20]

 細胞は、少なくとも脂肪細胞を含んでいてよい。本明細書において「脂肪細胞」とは、脂肪幹細胞を除くすべての脂肪細胞を意味する。脂肪細胞には、成熟脂肪細胞、及び脂肪幹細胞に含まれない脂肪細胞が含まれ、脂肪細胞は、成熟脂肪細胞を含むことが好ましく、脂肪細胞の全細胞数のうち90%以上が成熟脂肪細胞であることがより好ましく、全てが成熟脂肪細胞であることがさらに好ましい。脂肪細胞は、例えば、皮下脂肪組織及び心外膜由来脂肪組織等から採取した細胞を用いてもよく、採取した細胞(例えば、脂肪幹細胞)を分化誘導して用いてもよい。脂肪細胞は、特に限定されないが、脂肪細胞から構築した脂肪組織を、最終的に生体の特定箇所の組織に見立てて利用する場合には、当該箇所の組織に対応する組織由来のものを用いることが好ましい。

[21]

 脂肪細胞の成熟度を示す指標として、脂肪滴の大きさを用いることができる。脂肪滴とは、トリグリセリド(中性脂肪)、コレストロール等の脂質を貯蔵する細胞内小器官であり、上記脂質類がリン脂質の1重膜で覆われることで液滴様の形状を有している。また上記リン脂質の表面には脂肪組織特有のタンパク質(ペリリピン等)の発現が見られる。成熟した脂肪細胞の脂肪滴の大きさにはばらつきがあるが、例えば、脂肪滴の大きさの平均値が20μm以上である場合には、脂肪細胞がある程度成熟している、すなわち、成熟脂肪細胞であるとすることができる。

[22]

 脂肪細胞の含有率は、細胞構造体における全細胞数に対して、例えば、5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、又は30%以上であってよく、95%以下、90%以下、80%以下又は75%以下であってよい。

[23]

 細胞は、血管内皮細胞を更に含んでもよい。本明細書において、本明細書において「血管内皮細胞」は、血管内腔の表面を構成する扁平状の細胞を意味する。血管内皮細胞としては、例えば、ヒト臍帯静脈由来血管内皮細胞(HUVEC)が挙げられる。

[24]

 血管内皮細胞の含有率は、細胞構造体における全細胞数に対して、例えば、5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上又は30%以上であってよく、95%以下、90%以下、80%以下、又は75%以下であってよい。

[25]

 細胞は、脂肪細胞及び血管内皮細胞を含んでいてよい。細胞は、脂肪細胞及び血管内皮細胞に加えて、脂肪細胞及び血管内皮細胞以外の細胞を更に含んでいてもよい。脂肪細胞及び血管内皮細胞以外の細胞としては、例えば、線維芽細胞、軟骨細胞、骨芽細胞等の間葉系細胞、大腸がん細胞(例えば、ヒト大腸がん細胞(HT29))、肝がん細胞等のがん細胞、心筋細胞、上皮細胞(例えば、ヒト歯肉上皮細胞)、リンパ管内皮細胞、神経細胞、樹状細胞、肝細胞、接着性細胞(例えば、免疫細胞)、平滑筋細胞(例えば、大動脈平滑筋細胞(Aorta-SMC))、膵島細胞、角化細胞(例えば、ヒト表皮角化細胞)等が挙げられる。

[26]

 細胞構造体における脂肪細胞と血管内皮細胞の細胞数の比(脂肪細胞/血管内皮細胞)は、特に制限されず、例えば、100/1~1/100であってよく、50/1~1/50であってよく、20/1~1/1であってよく、10/1~1/1であってよく、8/1~1/1であってよく、7/1~1.2/1であってよく、6/1~1.5/1であってよく、5/1~2/1であってよく、3/1~2/1であってもよい。

[27]

 細胞構造体は、細胞間に血管網を有するものであってよい。細胞間に血管網を有する場合、解凍後の細胞構造体中の細胞の生存率がより一層凍結前の生存率に近くなる傾向がある。更に、細胞間に血管網が形成されていると、細胞構造体を長期間維持できること、及び、細胞構造体を哺乳類等に移植した際に生着しやすくなることが期待される。

[28]

 「細胞間に血管網を有する」とは、生体組織と同様に、分岐した血管が細胞を取り囲むように細胞と細胞の間に延びた構造を有することを意味する。生体組織と同様の血管網が形成されているか否かについては、例えば、生体組織における血管の分岐数及び/又は血管の分岐間の長さ及び/又は血管の直径の多様性に基づき判断することができる。例えば、生体組織における血管の分岐数の平均値に対する、細胞構造体における血管の分岐数の平均値が、80%以上150%以下、85%以上130%以下、又は90%以上120%以下である場合に、生体組織における血管の分岐数と類似していると判断してもよい。また、例えば、細胞構造体における血管の分岐数の平均値が、2.5以上4.5以下、又は3.0以上4.2以下である場合に、生体組織における血管の分岐数と類似していると判断してもよい。例えば、生体組織における血管の分岐間の長さの平均値に対する、細胞構造体における血管の分岐間の長さの平均値が、80%以上150%以下、85%以上130%以下、及び90%以上120%以下である場合に、生体組織における血管の分岐間の長さと類似していると判断してもよい。生体組織においては、太い血管及び細い血管の両方が観察される。そこで、例えば、生体組織と同様に直径の太いもの(例えば、10μm以上25μm未満)と細いもの(例えば、0μm超10μm未満)の両方が観察された場合には、生体組織における血管の直径と同様の多様性を有すると判断してもよい。また、例えば、0μm超25μm未満に血管直径全体の60%以上、70%以上又は80%以上が分布している場合に、生体組織における血管の直径と同様の多様性を有すると判断してもよい。細胞が脂肪細胞を含む場合、細胞構造体は、脂肪細胞間に血管網を有することが好ましい。その場合、血管網を有するだけでなく、血管に取り囲まれる脂肪細胞も生体組織と近いことが好ましい。例えば、本実施形態に係る細胞構造体における脂肪細胞の脂肪滴の大きさの平均値が、20μm~180μm、又は100μm~180μmである場合に、細胞構造体が生体組織における脂肪細胞と同様の脂肪細胞を有すると判断してもよい。上記生体組織及び細胞構造体の比較に際しては、同じ条件(例えば、一定体積当たり、画像解析であれば一定面積当たり、一定サンプル当たり等)にて生体組織と細胞構造体を比較する。

[29]

(断片化細胞外マトリックス成分)
 断片化細胞外マトリックス成分は、細胞外マトリックス成分を断片化して得ることができる。本明細書において「細胞外マトリックス成分」とは、複数の細胞外マトリックス分子によって形成されている細胞外マトリックス分子の集合体である。細胞外マトリックスとは、生物において細胞の外に存在する物質を意味する。細胞外マトリックスとしては、細胞の生育及び細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、任意の物質を用いることができる。具体例としては、コラーゲン、エラスチン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、ヒアルロン酸、ラミニン、ビトロネクチン、テネイシン、エンタクチン及びフィブリリン等が挙げられるが、これらに限定されない。細胞外マトリックス成分は、これらの1種単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。細胞外マトリックス成分は、例えば、コラーゲン成分を含んでいてよく、コラーゲン成分であってもよい。本実施形態における細胞外マトリックス成分は、動物細胞の外に存在する物質、すなわち動物の細胞外マトリックス成分であることが好ましい。

[30]

 細胞外マトリックス分子は、細胞の生育及び細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、上述の細胞外マトリックス分子の改変体及びバリアントであってもよく、化学合成ペプチド等のポリペプチドであってもよい。細胞外マトリックス分子は、コラーゲンに特徴的なGly-X-Yで表される配列の繰り返しを有するものであってよい。ここで、Glyはグリシン残基を表し、X及びYはそれぞれ独立に任意のアミノ酸残基を表す。複数のGly-X-Yは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。Gly-X-Yで示される配列の繰り返しを有することによって、分子鎖の配置への束縛が少なくなるため、例えば、細胞培養の際の足場材料としての機能がより一層優れたものとなる。Gly-X-Yで示される配列の繰り返しを有する細胞外マトリックス分子において、Gly-X-Yで示される配列の割合は、全アミノ酸配列のうち、80%以上であってよく、好ましくは95%以上である。また、細胞外マトリックス分子は、RGD配列を有するポリペプチドであってもよい。RGD配列とは、Arg-Gly-Asp(アルギニン残基-グリシン残基-アスパラギン酸残基)で表される配列をいう。RGD配列を有することによって、細胞接着がより一層促進されるため、例えば、細胞培養の際の足場材料としてより一層好適なものとなる。Gly-X-Yで表される配列と、RGD配列とを含む細胞外マトリックス分子としては、コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、カドヘリン等が挙げられる。

[31]

 コラーゲンとしては、例えば、線維性コラーゲン及び非線維性コラーゲンが挙げられる。線維性コラーゲンとは、コラーゲン線維の主成分となるコラーゲンを意味し、具体的には、I型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン等が挙げられる。非線維性コラーゲンとしては、例えば、IV型コラーゲンが挙げられる。

[32]

 プロテオグリカンとして、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、ケラタン硫酸プロテオグリカン、デルマタン硫酸プロテオグリカンが挙げられるが、これらに限定されない。

[33]

 細胞外マトリックス成分は、本発明による効果がより顕著になることから、コラーゲン、ラミニン及びフィブロネクチンからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてよく、コラーゲンを含むことが好ましい。コラーゲンは好ましくは繊維性コラーゲンであり、より好ましくはI型コラーゲンである。線維性コラーゲンは、市販されているコラーゲンを用いてもよく、その具体例としては、日本ハム株式会社製のブタ皮膚由来I型コラーゲンが挙げられる。

[34]

 細胞外マトリックス成分は、動物由来の細胞外マトリックス成分であってよい。細胞外マトリックス成分の由来となる動物種として、例えば、ヒト、ブタ、ウシ等が挙げられるが、これらに限定されない。細胞外マトリックス成分は、一種類の動物に由来する成分を用いてもよいし、複数種の動物に由来する成分を併用して用いてもよい。

[35]

 「断片化」とは、細胞外マトリックス分子の集合体をより小さなサイズにすることを意味する。断片化は、細胞外マトリックス分子内の結合を切断する条件で行われてもよいし、細胞外マトリックス分子内の結合を切断しない条件で行われてもよい。断片化細胞外マトリックス成分は、上述の細胞外マトリックス成分を物理的な力の印加により解繊した成分である、解繊された細胞外マトリックス成分(解繊細胞外マトリックス成分)を含んでいてよい。解繊は、断片化の一態様であり、例えば、細胞外マトリックス分子内の結合を切断しない条件で行われるものである。

[36]

 細胞外マトリックス成分を断片化する方法としては、特に制限されない。細胞外マトリックス成分を解繊する方法としては、例えば、超音波式ホモジナイザー、撹拌式ホモジナイザー、及び高圧式ホモジナイザー等の物理的な力の印加によって細胞外マトリックス成分を解繊してもよい。撹拌式ホモジナイザーを用いる場合、細胞外マトリックス成分をそのままホモジナイズしてもよいし、生理食塩水等の水性媒体中でホモジナイズしてもよい。また、ホモジナイズする時間、回数等を調整することでミリメートルサイズ、ナノメートルサイズの解繊細胞外マトリックス成分を得ることも可能である。解繊細胞外マトリックス成分は、凍結融解を繰り返すことで解繊することにより得ることもできる。

[37]

 断片化細胞外マトリックス成分は、解繊された細胞外マトリックス成分を少なくとも一部に含んでいてよい。また、断片化細胞外マトリックス成分は、解繊された細胞外マトリックス成分のみからなっていてもよい。すなわち、断片化細胞外マトリックス成分は、解繊された細胞外マトリックス成分であってよい。解繊された細胞外マトリックス成分は、解繊されたコラーゲン成分(解繊コラーゲン成分)を含むことが好ましい。解繊コラーゲン成分は、コラーゲンに由来する三重らせん構造を維持していることが好ましい。解繊コラーゲン成分は、コラーゲンに由来する三重らせん構造を部分的に維持している成分であってよい。

[38]

 断片化細胞外マトリックス成分の形状としては、例えば、繊維状が挙げられる。繊維状とは、糸状のコラーゲン成分で構成される形状、又は糸状の細胞外マトリックス成分が分子間で架橋して構成される形状を意味する。断片化細胞外マトリックス成分の少なくとも一部は、繊維状であってよい。線維状の細胞外マトリックス成分には、複数の糸状細胞外マトリックス分子が集合して形成された細い糸状物(細線維)、細線維が更に集合して形成される糸状物、これらの糸状物を解繊したもの等が含まれる。線維状の細胞外マトリックス成分ではRGD配列が破壊されることなく保存されている。

[39]

 断片化細胞外マトリックス成分の平均長は、100nm以上400μm以下であってよく、100nm以上200μm以下であってよい。一実施形態において、断片化細胞外マトリックス成分の平均長は、5μm以上400μm以下であってよく、10μm以上400μm以下であってよく、22μm以上400μm以下であってよく、100μm以上400μm以下であってよい。他の実施形態において、断片化細胞外マトリックス成分の平均長は、再分散性がより一層優れたものとなる観点から、100μm以下であってよく、50μm以下であってよく、30μm以下であってよく、15μm以下であってよく、10μm以下であってよく、1μm以下であってよく、100nm以上であってよい。断片化細胞外マトリックス成分全体のうち、大部分の断片化細胞外マトリックス成分の平均長が上記数値範囲内であることが好ましい。具体的には、断片化細胞外マトリックス成分全体のうち95%の断片化細胞外マトリックス成分の平均長が上記数値範囲内であることが好ましい。断片化細胞外マトリックス成分は、平均長が上記範囲内である断片化コラーゲン成分であることが好ましく、平均長が上記範囲内である解繊コラーゲン成分であることがより好ましい。

[40]

 断片化細胞外マトリックス成分の平均径は、10nm以上30μm以下であってよく、30nm以上30μm以下であってよく、50nm以上30μm以下であってよく、100nm以上30μm以下であってよく、1μm以上30μm以下であってよく、2μm以上30μm以下であってよく、3μm以上30μm以下であってよく、4μm以上30μm以下であってよく、5μm以上30μm以下であってよい。断片化細胞外マトリックス成分は、平均径が上記範囲内である断片化コラーゲン成分であることが好ましく、平均径が上記範囲内である解繊コラーゲン成分であることがより好ましい。

[41]

 断片化細胞外マトリックス成分の平均長及び平均径は、光学顕微鏡によって個々の断片化細胞外マトリックス成分を測定し、画像解析することによって求めることが可能である。本明細書において、「平均長」は、測定した試料の長手方向の長さの平均値を意味し、「平均径」は、測定した試料の長手方向に直交する方向の長さの平均値を意味する。

[42]

 断片化細胞外マトリックス成分は、例えば、断片化コラーゲン成分を含んでいてよく、断片化コラーゲン成分からなっていてよい。「断片化コラーゲン成分」とは、線維性コラーゲン成分等のコラーゲン成分を断片化したものであって、三重らせん構造を維持しているものを意味する。断片化コラーゲン成分の平均長は、100nm~200μmであることが好ましく、22μm~200μmであることがより好ましく、100μm~200μmであることがさらにより好ましい。断片化コラーゲン成分の平均径は、50nm~30μmであることが好ましく、4μm~30μmであることがより好ましく、20μm~30μmであることがさらにより好ましい。

[43]

 断片化細胞外マトリックス成分の少なくとも一部は分子間又は分子内で架橋されていてよい。細胞外マトリックス成分は、細胞外マトリックス成分を構成する細胞外マトリックス分子の分子内又は分子間で架橋されていてよい。

[44]

 架橋する方法としては、例えば、熱、紫外線、放射線等の印加による物理架橋、架橋剤、酵素反応等による化学架橋等による方法が挙げられるが、その方法は特に限定されない。細胞の生育を妨げない観点からは、物理架橋が好ましい。架橋(物理架橋及び化学架橋)は、共有結合を介した架橋であってよい。

[45]

 細胞外マトリックス成分がコラーゲン成分を含む場合、架橋は、コラーゲン分子(三重らせん構造)の間で形成されていてもよく、コラーゲン分子によって形成されたコラーゲン細繊維の間で形成されていてもよい。架橋は、熱による架橋(熱架橋)であってよい。熱架橋は、例えば、真空ポンプを使って減圧下で、加熱処理を行うことにより実施することができる。コラーゲン成分の熱架橋を行う場合、細胞外マトリックス成分は、コラーゲン分子のアミノ基が、同一又は他のコラーゲン分子のカルボキシ基とペプチド結合(-NH-CO-)を形成することにより、架橋されていてよい。

[46]

 細胞外マトリックス成分は架橋剤を使用することによっても、架橋させることができる。架橋剤は、例えば、カルボキシル基とアミノ基を架橋可能なもの、又はアミノ基同士を架橋可能なものであってよい。架橋剤としては、例えば、アルデヒド系、カルボジイミド系、エポキシド系及びイミダゾール系架橋剤が経済性、安全性及び操作性の観点から好ましく、具体的には、グルタルアルデヒド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド・塩酸塩、1-シクロヘキシル-3-(2-モルホリニル-4-エチル)カルボジイミド・スルホン酸塩等の水溶性カルボジイミドを挙げることができる。

[47]

 架橋度の定量は、細胞外マトリックス成分の種類、架橋する手段等に応じて、適宜選択することができる。架橋度は、1%以上、2%以上、4%以上、8%以上、又は12%以上であってよく、30%以下、20%以下、又は15%以下であってもよい。架橋度が上記範囲にあることにより、細胞外マトリックス分子が適度に分散することができ、また、乾燥保存後の再分散性が良好である。

[48]

 細胞外マトリックス成分中のアミノ基が架橋に使用される場合、架橋度は、TNBS(トリニトロベンゼンスルホン酸)法に基づき定量することが可能である。TNBS法による架橋度が、上述の範囲内であってもよい。TNBS法による架橋度は、細胞外マトリックスが有するアミノ基のうち架橋に使われているアミノ基の割合である。細胞外マトリックス成分がコラーゲン成分を含む場合、TNBS法により測定される架橋度が上記範囲内であることが好ましい。

[49]

 架橋度は、カルボキシル基を定量することにより、算出してもよい。例えば、水に不溶性の細胞外マトリックス成分の場合、TBO(トルイジンブルーO)法により定量してもよい。TBO法による架橋度が、上述した範囲内であってもよい。

[50]

 細胞構造体における細胞外マトリックス成分含有率は、上記細胞構造体(乾燥重量)を基準として0.01~90質量%であってよく、10~90質量%であることが好ましく、10~80質量%であることが好ましく、10~70質量%であることが好ましく、10~60質量%であることが好ましく、1~50質量%であることが好ましく、10~50質量%であることが好ましく、10~30質量%であることがより好ましく、20~30質量%であることがより好ましい。

[51]

 ここで、「細胞構造体における細胞外マトリックス成分」とは、細胞構造体を構成する細胞外マトリックス成分を意味し、内因性細胞外マトリックス成分に由来していてもよく、外因性細胞外マトリックス成分に由来していてもよい。

[52]

 「内因性の細胞外マトリックス成分」とは、細胞外マトリックス産生細胞が産生する細胞外マトリックス成分を意味する。細胞外マトリックス産生細胞としては、例えば、上述した線維芽細胞、軟骨細胞、骨芽細胞等の間葉系細胞が挙げられる。内因性細胞外マトリックス成分は、線維性であってもよいし、非線維性であってもよい。

[53]

 「外因性の細胞外マトリックス成分」とは、外部から供給される細胞外マトリックス成分を意味する。本実施形態に係る細胞構造体は、外因性の細胞外マトリックス成分である断片化細胞外マトリックス成分を含む。外因性の細胞外マトリックス成分は、由来となる動物種が内因性の細胞外マトリックス成分と同じであっても異なっていてもよい。由来となる動物種としては、例えば、ヒト、ブタ、ウシ等が挙げられる。また、外因性の細胞外マトリックス成分は、人工の細胞外マトリックス成分であってもよい。

[54]

 細胞外マトリックス成分がコラーゲン成分である場合には、外因性の細胞外マトリックス成分は「外因性コラーゲン成分」とも称され、外部から供給されるコラーゲン成分を意味する「外因性コラーゲン成分」は、複数のコラーゲン分子によって形成されている、コラーゲン分子の集合体であり、具体的には、線維性コラーゲン、非線維性コラーゲン等が挙げられる。外因性コラーゲン成分は、線維性コラーゲンであることが好ましい。上記線維性コラーゲンは、コラーゲン線維の主成分となるコラーゲン成分を意味し、例えば、I型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲンが挙げられる。上記線維性コラーゲンは、市販されているコラーゲンを用いてもよく、その具体例としては、日本ハム株式会社製のブタ皮膚由来I型コラーゲンが挙げられる。外因性の非線維性コラーゲンとしては、例えば、IV型コラーゲンが挙げられる。

[55]

 外因性の細胞外マトリックス成分において、由来する動物種は、細胞とは異なっていてよい。また、細胞が、細胞外マトリックス産生細胞を含む場合、外因性の細胞外マトリックス成分において、由来する動物種は、細胞外マトリックス産生細胞とは異なっていてもよい。つまり、外因性の細胞外マトリックス成分は、異種細胞外マトリックス成分であってよい。

[56]

 すなわち、細胞構造体が内因性細胞外マトリックス成分及び断片化細胞外マトリックス成分を含む場合、上記細胞構造体を構成する細胞外マトリックス成分含有率は、内因性細胞外マトリックス成分及び断片化細胞外マトリックス成分の合計量を意味する。上記細胞外マトリックス含有率は、得られた細胞構造体の体積、及び脱細胞化した細胞構造体の質量から算出することが可能である。

[57]

 例えば、細胞構造体に含まれる細胞外マトリックス成分がコラーゲン成分である場合、細胞構造体におけるコラーゲン成分量を定量する方法としては、例えば、以下のようなヒドロキシプロリンを定量する方法が挙げられる。細胞構造体を溶解した溶解液に、塩酸(HCl)を混合し、高温で所定の時間インキュベートした後に室温に戻し、遠心分離した上澄みを所定の濃度に希釈することでサンプルを調製する。ヒドロキシプロリンスタンダード溶液をサンプルと同様に処理した後、段階的に希釈してスタンダードを調製する。サンプル及びスタンダードのそれぞれに対してヒドロキシプロリンアッセイバッファ及び検出試薬で所定の処理をし、570nmの吸光度を測定する。サンプルの吸光度をスタンダードと比較することでコラーゲン成分量を算出する。なお、細胞構造体を、高濃度の塩酸に直接懸濁して溶解した溶解液を遠心分離して上澄みを回収し、コラーゲン成分定量に用いてもよい。また、溶解させる細胞構造体は、培養液から回収したままの状態であってもよいし、回収後に乾燥処理を行い、液体成分を除去した状態で溶解させてもよい。但し、培養液から回収したままの状態の細胞構造体を溶解してコラーゲン成分定量を行う場合、細胞構造体が吸収している培地成分、及び実験手技の問題による培地の残りの影響で、細胞構造体重量の計測値がばらつくことが予想されるため、構造体の重量及び単位重量あたりに占めるコラーゲン成分量を安定して計測する観点からは、乾燥後の重量を基準とすることが好ましい。

[58]

 コラーゲン成分量を定量する方法として、より具体的には、例えば、以下のような方法が挙げられる。
(サンプルの調製)
 凍結乾燥処理を行った細胞構造体の全量を6mol/L HClと混合し、ヒートブロックで95℃、20時間以上インキュベートした後、室温に戻す。13000gで10分遠心分離した後、サンプル溶液の上澄みを回収する。後述する測定において結果が検量線の範囲内に収まるように6mol/L HClで適宜希釈した後、200μLを100μLの超純水で希釈することでサンプルを調製する。サンプルは35μL用いる。

[59]

(スタンダードの調製)
 スクリューキャップチューブに125μLのスタンダード溶液(1200μg/mL in acetic acid)と、125μLの12mol/l HClを加え混合し、ヒートブロックで95℃、20時間インキュベートした後、室温に戻す。13000gで10分遠心分離した後、上澄みを超純水で希釈して300μg/mLのS1を作製し、S1を段階的に希釈してS2(200μg/mL)、S3(100μg/mL)、S4(50μg/mL)、S5(25μg/mL)、S6(12.5μg/mL)、S7(6.25μg/mL)を作製する。4mol/l HCl90μLのみのS8(0μg/mL)も準備する。

[60]

(アッセイ)
 35μLのスタンダード及びサンプルをそれぞれプレート(QuickZyme Total Collagen Assayキット付属、QuickZyme Biosciences社)に加える。75μLのアッセイバッファ(上記キット付属)をそれぞれのウェルに加える。シールでプレートを閉じ、20分シェイキングしながら室温でインキュベートする。シールをはがし、75μLのdetection reagent (reagent A:B=30μL:45μL、上記キット付属)をそれぞれのウェルに加える。シールでプレートを閉じ、シェイキングで溶液を混合し、60℃で60分インキュベートする。氷上で十分に冷まし、シールをはがして570nmの吸光度を測定する。サンプルの吸光度をスタンダードと比較することでコラーゲン成分量を算出する。

[61]

 細胞構造体中に占めるコラーゲン成分を、その面積比又は体積比によって規定してもよい。「面積比又は体積比によって規定する」とは、例えば細胞構造体中のコラーゲン成分を既知の染色手法(例えば、抗コラーゲン抗体を用いた免疫染色、又はマッソントリクローム染色)等で他の組織構成物と区別可能な状態にした上で、肉眼観察、各種顕微鏡及び画像解析ソフト等を用いて、細胞構造体全体に占めるコラーゲン成分の存在領域の比率を算出することを意味する。面積比で規定する場合、細胞構造体中の如何なる断面もしくは表面によって面積比を規定するかは限定されないが、例えば細胞構造体が球状体等である場合には、その略中心部を通る断面図によって規定してもよい。

[62]

 例えば、細胞構造体中のコラーゲン成分を面積比によって規定する場合、その面積の割合は、上記細胞構造体の全体の面積を基準として0.01~99%であり、1~99%であることが好ましく、5~90%であることが好ましく、7~90%であることが好ましく、20~90%であることが好ましく、50~90%であることがより好ましい。「細胞構造体におけるコラーゲン成分」については、上述したとおりである。細胞構造体を構成するコラーゲン成分の面積の割合は、内因性コラーゲン成分及び外因性コラーゲン成分を合わせた面積の割合を意味する。コラーゲン成分の面積の割合は、例えば、得られた細胞構造体をマッソントリクロームで染色し、細胞構造体の略中心部を通る断面の全体の面積に対する、青く染色したコラーゲン成分の面積の割合として算出することが可能である。

[63]

 細胞構造体は、トリプシンの濃度0.25%、温度37℃、pH7.4、反応時間15分でトリプシン処理を行った後の残存率が70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更により好ましい。このような細胞構造体は、培養中又は培養後において酵素による分解が起きにくく、安定である。上記残存率は、例えば、トリプシン処理の前後における細胞構造体の質量から算出できる。

[64]

 上記細胞構造体は、コラゲナーゼの濃度0.25%、温度37℃、pH7.4、反応時間15分でコラゲナーゼ処理を行った後の残存率が70%以上であってもよく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更により好ましい。このような細胞構造体は、培養中又は培養後における酵素による分解が起きにくく、安定である。

[65]

 本実施形態に係る細胞構造体は、例えば、フィブリン存在下で断片化細胞外マトリックス成分が接触した細胞を培養する培養工程を含む方法によって製造することができる。

[66]

 培養工程前に、断片化細胞外マトリックス成分と細胞とを接触させる接触工程を更に含んでいてもよい。

[67]

 接触工程では、水性媒体中において、細胞外マトリックス成分と細胞とを接触させてよい。断片化細胞外マトリックス成分は、水性媒体に分散させることにより、水性媒体中で細胞と接触しやすくなり、細胞構造体の形成を促進し得る。接触工程としては、断片化細胞外マトリックス成分を含有する水性媒体と細胞を含有する水性媒体とを混合する方法、断片化細胞外マトリックス成分を含有する水性媒体に細胞を添加する方法、細胞を含む培養液に細胞外マトリックス成分を含有する水性媒体を加える方法、細胞外マトリックス細胞外マトリックス成分を含有する水性媒体に細胞を加える方法、予め用意した水性媒体に、細胞外マトリックス成分及び細胞をそれぞれ加える方法等の方法が挙げられるが、これらに限られるものではない。

[68]

 接触工程における断片化細胞外マトリックス成分の濃度は、目的とする細胞構造体の形状、厚さ、培養器のサイズ等に応じて適宜決定できる。例えば、接触工程における水性媒体中の断片化細胞外マトリックス成分の濃度は、0.1~90質量%であってもよいし、1~30質量%であってもよい。

[69]

 接触工程における断片化細胞外マトリックス成分の量は、例えば、1.0×10cellsの細胞に対して、0.1~100mg、0.5~50mg、0.8~25mg、1.0~10mg、1.0~5.0mg、1.0~2.0mg、又は1.0~1.8mgであってよく、0.7mg以上、1.1mg以上、1.2mg以上、1.3mg以上又は1.4mg以上であってよく、7.0mg以下、3.0mg以下、2.3mg以下、1.8mg以下、1.7mg以下、1.6mg以下又は1.5mg以下であってもよい。

[70]

 接触工程において、断片化細胞外マトリックス成分と細胞との質量比(断片化細胞外マトリックス成分/細胞)は、1/1~1000/1であることが好ましく、9/1~900/1であることがより好ましく、10/1~500/1であることがさらに好ましい。

[71]

 細胞構造体の製造方法の一実施形態は、接触工程、又は接触工程後かつ培養工程前に、フィブリノゲン及びトロンビンを同時に又は別々に混合することを含んでいてよい。フィブリノゲン及びトロンビンを混合することによって、これらが反応してフィブリンが形成される。

[72]

 接触工程後かつ培養工程前に、水性媒体中における断片化細胞外マトリックス成分と細胞とを共に沈降させる工程を更に含んでもよい。このような工程を行うことで、細胞構造体における断片化細胞外マトリックス成分及び細胞の分布が、より均一になる。具体的な方法としては、特に制限はないが、例えば、断片化細胞外マトリックス成分と細胞とを含む培養液を遠心操作する方法が挙げられる。

[73]

 断片化細胞外マトリックスが接触した細胞を培養する方法は、特に制限はなく、培養する細胞の種類に応じて好適な培養方法で行うことができる。例えば、培養温度は20℃~40℃であってもよく、30℃~37℃であってもよい。培地のpHは、6~8であってもよく、7.2~7.4であってもよい。培養時間は、1日~2週間であってもよく、1週間~2週間であってもよい。

[74]

 断片化細胞外マトリックスが接触した細胞の培養に用いられる培養器(支持体)は、特に制限されず、例えば、ウェルインサート、低接着プレート、U字やV字等の底面形状を有するプレートであってよい。上記細胞を支持体と接着させたまま培養してもよく、上記細胞を支持体と接着させずに培養してもよく、培養の途中で支持体から引き離して培養してもよい。上記細胞を支持体と接着させずに培養する場合や、培養の途中で支持体から引き離して培養する場合には、細胞の支持体への接着を阻害するU字やV字等の底面形状を有するプレートや、低吸着プレートを用いることが好ましい。

[75]

 培地は特に制限はなく、培養する細胞の種類に応じて好適な培地を選択できる。培地としては、例えば、Eagle’s MEM培地、DMEM、Modified Eagle培地(MEM)、Minimum Essential培地、RPMI、及びGlutaMax培地等が挙げられる。培地は、血清を添加した培地であってもよいし、無血清培地であってもよい。培地は、二種類の培地を混合した混合培地であってもよい。

[76]

 培養工程における培地中の細胞密度は、目的とする細胞構造体の形状、厚さ、培養器のサイズ等に応じて適宜決定できる。例えば、培養工程における培地中の細胞密度は、1~10cells/mLであってよく、10~10cells/mLであってよい。また、培養工程における培地中の細胞密度は、接触工程における水性媒体中の細胞密度と同じであってもよい。

[77]

(フィブリン)
 本実施形態に係る細胞構造体は、フィブリンを含む。フィブリンは、フィブリノゲンにトロンビンが作用してAα鎖、Bβ鎖のN末端からA鎖、B鎖を放出して生ずる成分である。フィブリンはポリマーであり、一般的に水に不溶である。フィブリンは、フィブリノゲンと、トロンビンとを接触させることにより形成される。

[78]

 フィブリンの含有量は、断片化細胞外マトリックス成分100質量部に対して、3質量部以上、又は10質量部以上であってよく、50質量部以下、又は30質量部以下であってよい。

[79]

 上記細胞構造体の厚さは10μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、1000μm以上であることが更により好ましい。このような細胞構造体は、生体組織により近い構造であり、実験動物の代替品、及び移植材料として好適なものとなる。細胞構造体の厚さの上限は、特に制限されないが、例えば、10mm以下であってもよいし、3mm以下であってもよいし、2mm以下であってもよいし、1.5mm以下であってもよいし、1mm以下であってもよい。

[80]

 ここで、「細胞構造体の厚さ」とは、細胞構造体がシート状、又は直方体状である場合、主面に垂直な方向における両端の距離を意味する。上記主面に凹凸がある場合、厚さは上記主面の最も薄い部分における距離を意味する。

[81]

 また、細胞構造体が球体状又は略球体状である場合、細胞構造体の厚さは、その直径を意味する。さらにまた、細胞構造体が楕円体状又は略楕円体状である場合、細胞構造体の厚さは、その短径を意味する。細胞構造体が略球体状又は略楕円体状であって表面に凹凸がある場合、細胞構造体の厚さは、細胞構造体の重心を通る直線と上記表面とが交差する2点間の距離であって最短の距離を意味する。

[82]

 凍結ステップでは、細胞構造体を凍結させる。細胞構造体は、例えば、保存容器に収容された状態で凍結されてよい。保存容器としては、市販されている各種の保存容器を使用してもよい。保存容器は、例えば、クライオチューブを用いることができる。

[83]

 細胞構造体は、凍結保護剤とともに凍結されてよい。凍結保護剤としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセロール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ポリビニルピロリドン、ソルビトール、デキストラン、トレハロース等が挙げられる。細胞構造体は、凍結保護剤を含む凍結保存液とともに凍結されてよい。凍結保存液は、例えば、市販されている凍結保護剤を使用してもよい。市販されている凍結保存液としては、例えば、ラボバンカー(商品名、トスク株式会社製)等が挙げられる。例えば、トレハロース、ジメチルスルホキシド及びウシ胎児血清(FBS)の混合物を凍結保存液をとして用いることもできる。

[84]

 細胞構造体を凍結させる方法は、特に制限されないが、例えば緩速凍結(slow freezing)によって実施されてもよい。細胞構造体は、冷凍機内に保管することによって凍結されてよい。

[85]

 本実施形態に係る細胞構造体の凍結方法は、細胞構造体を所定の凍結温度で保持することを含んでいてよい。凍結温度は、徐々に、又は段階的に低くしてもよい。凍結温度は、例えば、細胞を凍結可能な温度であり、-80℃以下、又は-160℃以下であってよく、-160℃であってよい。凍結温度の下限値は特に限定されないが、例えば、-210℃以上であってよい。本発明による効果がより顕著に奏される観点から、本実施形態に係る細胞構造体の凍結方法は、細胞構造体を-160℃の条件下で保持することを含んでいてよい。凍結温度は、例えば、冷凍機の設定温度である。

[86]

 凍結ステップでは、細胞構造体を第1の凍結温度で保持することと、細胞構造体を第1の凍結温度より低い温度である第2の凍結温度で保持することとをこの順に含んでいてもよい。第1の凍結温度は、例えば、-60~-100℃であってよく、-80℃であってよい。第2の凍結温度は、例えば-140℃~-180℃であってよく、-160℃であってよい。

[87]

 本実施形態に係る細胞構造体の凍結方法は、凍結させた細胞構造体を凍結状態で保持することを含んでいてよい。凍結させた細胞構造体を凍結状態で保持する期間(凍結期間)は、例えば、7日間以上、30日間以上、又は180日間以上であってよい。凍結期間の上限は、特に制限されないが、例えば、360日間以下であってよい。

[88]

 一実施形態に係る細胞構造体の凍結方法によって、凍結させた細胞構造体は、解凍した後において、三次元組織構造及び/又は機能を維持している。三次元組織構造とは、細胞構造体の形状、血管網であってよい。細胞構造体の機能とは、血管接続機能、脂肪細胞を含む細胞構造体である場合には脂肪酸の取り込み能、代謝機能、所定の生体因子の分泌機能等であってよい。例えば、解凍した後において、凍結前と同一又は略同一の形状を有している場合、三次元組織構造を維持していると判断される。

[89]

 凍結させた細胞構造体を解凍する方法は、例えば、加温した水性媒体(例えば、培地)に浸漬させる方法、保存容器の外側から加温する方法、又はこれらの組み合わせた方法が挙げられる。凍結させた細胞構造体を解凍する前に、必要により、解凍する細胞構造体を洗浄してもよい。洗浄は、例えば、生理緩衝液(例えば、PBS)等を用いて行ってよい。

[90]

 浸漬させる水性媒体の温度は、例えば、4℃~50℃、30℃~40℃、又は36℃~38℃であってよい。解凍時間は、例えば、3分以内、又は1分以内であってよい。

[91]

 本実施形態に係る細胞構造体の凍結方法において、凍結させる前の細胞構造体中の細胞生存数(X)に対する、凍結させた細胞構造体の解凍後の細胞生存数(X)の比(X/X)は、80%以上であってよい。X/Xは、実施例に記載の方法によって測定することができる。

[92]

 一実施形態において、上述した凍結ステップに加えて、凍結させた細胞構造体を凍結状態で保持することを更に含む方法は、細胞構造体の凍結保存方法ということもできる。

[93]

 以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。

[94]

 ブタ皮膚由来コラーゲンI型スポンジ断片(日本ハム株式会社製)100mgを200℃で24時間加熱を行うことにより、少なくとも一部が架橋されているコラーゲン成分(架橋コラーゲン成分)を得た。なお、200℃の加熱前後において、コラーゲンに外見上の大きな変化は確認されなかった。架橋コラーゲン成分50mgを15mLチューブに入れ、5mLの超純粋を加え、ホモジナイザー(アズワン社 VH-10)を用いて6分間ホモジナイズすることで架橋コラーゲン成分を解繊した。

[95]

 21℃の条件下、10000rpmで10分間遠心した。上清を吸引し、コラーゲンペレットを5mLの新しい超純水と混合し、コラーゲン溶液を作製した。コラーゲン溶液の入ったチューブを氷上に維持したまま、ソニケーター(Sonics and Materials社 VC50)を用いて100Vで20秒間超音波処理し、ソニケーターを取り出した後コラーゲン溶液の入ったチューブを氷上で10秒間冷却することを100回繰り返した。超音波処理を100回行った後、コラーゲン溶液を孔径40μmのフィルターでろ過し、解繊されたコラーゲン成分(CMF)を含む分散液を得た。分散液を常法によって凍結乾燥させることにより、乾燥体として、解繊コラーゲン成分(CMF)を得た。CMFの平均長(長さ)は、14.8±8.2μm(N=20)であった。

[96]

 細胞構造体の作製において用いた細胞、試薬及び作成方法等は以下のとおりである。
(細胞及びコラーゲン)
・初代ヒト成熟脂肪細胞及びヒト脂肪幹細胞(ADSC)を得るためのヒト脂肪組織(太もも由来)(京都府立医科大学附属病院から提供)
・ヒト臍帯静脈由来血管内皮細胞(HUVEC)(ロンザ社製 #C-2517A)

[97]

(試薬)
・ウシ膵臓由来インスリン(シグマ社 #I1882)
・ウシ血漿由来トロンビン凍結乾燥粉末(シグマ社 #T4648)
・クロストリジウム ヒストリチクム由来コラゲナーゼI型(シグマ社 #C0130)
・ウシ血漿由来フィブリノゲンI-S型(シグマ社 #F8630)
・DMEM(高グルコース、ナカライテスク社)
・EGM-2MV BulletKit with growth factors(ロンザ社製 #C-2517A)

[98]

(培地及び各種溶液)
・EGM-2培地:500mLのEBM-2にEGM-2 supplement growth factorsと混合し、4℃で保存したもの
・10mg/mL インスリンストック溶液:上記ウシ膵臓由来インスリン100mgを水で希釈した1%氷酢酸溶液(pH≦2)10mLに溶かし、エッペンドルフチューブに等量分注し-20℃で保存したもの
・2mg/mL コラゲナーゼ溶液:BSA 2.5gをDMEM(0%FBS、1%抗生物質)50mLと混合しておく。6ウェルプレートすべての脂肪組織を消化するために、コラゲナーゼI型26mgをDMEM(0%FBS、5%BSA、1%抗生物質)13mLに混合し、孔径0.2μmのフィルターでろ過したものを使用。
・50mg/mL フィブリノゲンストック溶液:フィブリノゲン 50mgをエッペンドルフチューブに秤とり、DMEM(0%FBS、1%抗生物質)1mLをすぐに加える。手動でチューブを振って混合した後、37℃のウォーターバスに3~5分間置き、孔径0.2μmのフィルターでろ過し、エッペンドルフチューブに等量分注したものを使用。
・202U/mL トロンビンストック溶液:トロンビン 202Uをエッペンドルフチューブに秤とり、DMEM(0%FBS、1%抗生物質)1mLをすぐに加え、37℃のウォーターバスに3~5分間置いて溶解させる。その後、孔径0.2μmのフィルターでろ過し、エッペンドルフチューブに等量分注したものを使用。

[99]

(作製方法)
 ヒト脂肪組織断片を5%の抗生物質を含むPBSで洗浄した。4~6gの組織を6ウェルプレートの6ウェル分に分けた。2mg/mL コラゲナーゼ溶液2mL中ではさみ及びピンセットを使用しておよそ1~3mmのサイズに細かく切り刻んだ。37℃及び230rpmで1時間インキュベートした後、10mLピペットで30分間混合した。溶解物を孔径500μmの鉄メッシュフィルターでろ過し、1ウェル当たり2mLのDMEMを添加して消化された細胞すべてを回収した後、室温(15~25℃)下にて200gで3分間遠心した。成熟脂肪細胞は上層の黄色の油性層に、脂肪幹細胞及び血球はペレットに含まれる。長い針及び10mLシリンジを用いて、上層と下層の間の媒体を吸引及び廃棄し、上層に含まれる成熟脂肪細胞並びに下層に含まれる脂肪幹細胞及び血球を25mLのPBS(5%BSA、1%抗生物質)で二回洗浄した。洗浄を行う際には、上述したのと同様に遠心することで、上層及び下層、並びに、上層と下層の間の媒体の3層に分離し、上層と下層の間の媒体を吸引及び廃棄した。二回の洗浄をした後、25mLのDMEMで洗浄した。

[100]

 成熟脂肪細胞を含む上層のみを採取し、エッペンドルフチューブに分注した。ヘキスト染色により核を染色し(1000倍希釈したヘキスト、15分間染色)、蛍光顕微鏡を用いて、Turker Burk血球計数器上で細胞数をカウントした。

[101]

 ADSCを含むペレットをDMEM 10mLに懸濁し、10cmディッシュ内に播種し、継代培養した。トリプシン/EDTAを使用してADSCをディッシュから分離し、DMEM 1mLに懸濁し、細胞数をカウントした。

[102]

 ロンザ社より購入したHUVECを、DMEM 10mLに懸濁し、10cmディッシュ内に播種し、継代培養した。トリプシン/EDTAを使用してHUVECをディッシュから分離し、DMEM 1mLに懸濁し、細胞数をカウントした。

[103]

<細胞構造体の製造>
製造例1
 1mgのCMFを秤取り、DMEM 100μLを添加し、CMFの小さな粒子のみが観察されるようになるまで穏やかに混合した。室温下にて10000rpmで1分間遠心し、上清を吸引し、CMFペレットを得た。250000cellsのADSC及び125000cellsのHUVEC(ADSC:HUVEC=2:1)をCMFペレット上に穏やかに添加し、混合せず室温下にて3500rpmで1分間遠心し、上清を吸引した。0.3mgのフィブリノゲン(50mg/mL フィブリノゲンストック溶液6μL)を添加し、細胞及びCMFと穏やかに混合した。さらに300000cellsの成熟脂肪細胞を添加して穏やかに混合した。必要に応じて少量のDMEMを添加し、総量を70μLに調整した。すぐに0.15Uのトロンビン(202U/mL トロンビンストック溶液0.71μL)を添加し、混合した後、6ウェルプレート上の6ウェルアダプタ上に置いたトランスウェルに混合物をゆっくり播種した。

[104]

 37℃のインキュベータ内で1時間インキュベートしてゲル化させ、最終濃度10μg/mLのインスリンを含むEGM-2培地12mLを添加した。12mLの培地を2~3日毎に培養7日目まで交換した。これにより、CMF、脂肪細胞、血管内皮細胞及びフィブリンを含む細胞構造体を得た。当該細胞構造体は、略球状であり、細胞間に血管網を有する。

[105]

製造例2
 合計細胞数はそのままとし、細胞をすべて成熟脂肪細胞とした混合物を用いたこと以外は製造例1と同様にして、CMF、脂肪細胞及びフィブリンを含む細胞構造体を得た。当該細胞構造体は、略球状である。

[106]

<評価方法>
 上述した方法によって製造した細胞構造体について、凍結前後の細胞構造体中の細胞生存率をLive/Dead(登録商標)生存率アッセイキット(Molecular Probes(登録商標)、サーモフィッシャー・サイエンティフィック、Whaltam、マサチューセッツ州、米国)を用いて定量した。細胞生存率を評価する対象となる細胞構造体を、PBSで1回洗浄した後、暗所にて、37℃で、45分間カルセインおよびエチジウムホモダイマー-1で染色した。染色した細胞構造体を落射蛍光共焦点定量イメージサイトメーターCQ1を用いて画像化した。サンプル間で測定条件及び手順を揃えたうえで、最大値投影法(maximum intensity projection)を用いたZスタックを、各サンプルと時間に対して同じ露光時間と励起出力を維持しながら実行し、評価結果を得た。各染色のパーセンテージを計算して、ImageJソフトウェアを投影の分析に使用した。

[107]

 細胞構造体を次に示す凍結保存液に加えた。
LaboBanker(トスク株式会社)
6%トレハロース、4%DMSO及び90%FBSの混合物(以下、「トレハロース混合物」ともいう。)
 細胞構造体及び凍結保存液を含むチューブを、制御された緩速凍結(1-2℃/分)が可能な凍結容器内に移し、-80℃で48時間置いた。その後、チューブをディープフリーザー(日本フリーザー、大阪、日本)に入れ、-160℃で保存した。保存から7日後および30日後、凍結させた細胞構造体は、温PBS中で洗浄した後、37℃のDMEM中添加して60分間保持することにより解凍した。次いで、Live/Deadアッセイ試薬を含む温PBS中で45分間インキュベートして、細胞生存率を評価した。

[108]

 落射蛍光共焦点定量イメージサイトメーターCQ1を用いて、Live/Dead画像を得た。サンプル間で測定条件及び手順を揃えたうえで、最大値投影法(maximum intensity projection)を用いたZスタックを、各サンプルと時間に対して同じ露光時間と励起出力を維持しながら実行し、評価結果を得た。ImageJソフトウェアを投影画像の分析に用い、各染色のパーセンテージを計算した。

[109]

 機能評価には、ディープフリーザー中での30日間の凍結保存後に解凍した細胞構造体を用いた。解凍した細胞構造体のうち、4つを、10μg/mLのインスリンを含むEGM-2培地とともに24ウェルプレート(EZ-BindShut(商標)II平底)中の同じウェルに入れ、2-3日毎に培地交換を行った。解凍した細胞構造体を7日間培養した後に細胞構造体が細胞構造体同士で融合しているかを確認した。血管系の結合は、NileRed脂質染色およびヘキストによる対比染色と、CD31免疫染色により評価した。

[110]

 脂肪細胞による脂肪酸取り込みのモニタリングのため、まず、略球状の細胞構造体を、BSAを1%のみを含有し、グルコースおよびFBSを含まないDMEM培地中で6時間培養して飢餓状態にした。

[111]

 次いで、4μMの蛍光標識脂肪酸アナログ、BODIPY(商標)500/510C1、C12を、10μg/mLのインスリンで60分間培地に添加して、脂肪酸の取り込みを誘導した。脂肪酸の取り込みは、ヘキストおよびヨウ化プロピジウム(PI)による対比染色によって評価した。

[112]

 37℃の条件下、共焦点定量的画像サイトメーターCQ1を用いて、生存している細胞を画像化した。サンプル間で測定条件及び手順を揃えたうえで、最大値投影法(maximum intensity projection)を用いたZスタックを、各サンプルと時間に対して同じ露光時間と励起出力を維持しながら実行し、評価結果を得た。

[113]

<評価結果>
 図1~3は、製造例1及び製造例2の細胞構造体を用いたLive/Deadアッセイの結果を示す図である。図1は、凍結前(0日目)の細胞構造体を用いた評価結果を示す顕微鏡写真である。図1(A)は、CMF、脂肪細胞及びフィブリンを含み、血管網を有しない細胞構造体(製造例2)の結果を示し、図1(B)はCMF、脂肪細胞、血管内皮細胞及びフィブリンを含み、血管網を有する細胞構造体(製造例1)の結果を示す。図2及び3は、凍結保存液としてLabobanker又はトレハロース混合物を用いて、7日間又は30日間凍結保存した細胞構造体の評価結果を示す顕微鏡写真であり、図2及び図3はそれぞれ製造例2及び製造例1の細胞構造体の結果を示す。

[114]

 図1~3に示すとおり、製造例1及び製造例2のいずれの細胞構造体でも、凍結保存してから解凍した後でも、三次元組織構造(略球体状の形状)が維持され、細胞構造体中の細胞が生存していることも確認された。

[115]

 図4(A)及び図4(B)は、0日、7日及び30日それぞれの凍結保存期間における、製造例1の細胞構造体中の細胞生存率の結果を示すグラフである。図4(A)は凍結保存液として、Labobankerを用いた場合の結果を示し、図4(B)は凍結保存液として、トレハロース混合物を用いた場合の結果を示す。図4(A)及び図4(B)中のグラフの結果は、平均値±標準偏差を示す。測定は、サンプルあたりn=4~6の画像について実施した。

[116]

 図4に示すとおり、7日間および30日間凍結保存した場合でも、製造例1の細胞構造体は高い細胞生存率を示した。細胞構造体中の細胞生存率に関して、凍結保存後と、凍結保存前(0日目)との間に有意差はなかった。

[117]

 細胞構造体中の細胞としてSDSCおよびHUVECを用いることによって、凍結保存後の組織の生存率の更なる改善効果が得られることが示された。

[118]

 図5及び図6は、凍結保存後の細胞構造体の機能性、特に凍結保存後の成熟脂肪細胞についての機能が維持されているかについて確認した結果を示す図である。

[119]

 図5は、30日間凍結保存し、その後解凍してから、複数の細胞構造体を同じウェルで7日間培養して得られた試料をNileRed及びCD31による免疫染色を行った結果を示す画像である。図5に示すとおり、細胞構造体の融合能力は、30日間の凍結保存後でも、1週間の間、複数の細胞構造体を同じウェル内で培養した場合に確認された。また、細胞構造体同士の血管系の結合も確認された。

[120]

 図6は、Hoechstおよびヨウ化プロピジウム(PI)によって対比染色された細胞構造体であり、インスリン導入後の成熟脂肪細胞における脂肪酸取り込みをBODIPY(商標)500/510C1,C12を用いて機能評価した結果を示す写真である。評価は、n=4個の細胞構造体/ウェルおよび条件あたり3個の試料を実施した。

[121]

 図6は、成熟脂肪細胞の機能の1つである脂肪酸の取り込みを、インスリン導入後、蛍光標識した脂肪酸ドデカン酸(C1224)類似体(BODIPYTM 500/510 C1,C12)を用いてモニターした結果であり、この非侵襲性アッセイでは、60分後の単房性細胞内脂質小胞における脂肪酸蓄積を評価した。

[122]

 上述した結果は、容量損失の結果に応じて、その後の注射によって注入された移植片容量を再調整するために使用することができるストックを提供するために、1回の脂肪吸引手術から構築された患者のための脂肪細胞組織構造体を保存できる可能性があることを示す。

[123]

 図7のとおり、凍結保存期間(0日間、7日間及び30日間)によって、DNA量が変化しないこと、つまり、品質が維持されていることが示唆された。DNA量が変化しないことに関して、凍結保存液による違いはなく、トレハロース混合物及びLabobanker液のどちらでも同様の結果を示した。



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The present invention relates to a method for freezing a cell structure, the method comprising freezing a cell structure that contains a fragmented extracellular matrix component, a cell, and fibrin, and that has a three-dimensional organizational structure.



 断片化細胞外マトリックス成分、細胞及びフィブリンを含み、三次元組織構造を有する細胞構造体を凍結させることを含む、細胞構造体の凍結方法。

 前記細胞構造体が、細胞間に血管網を有する、請求項1に記載の細胞構造体の凍結方法。

 前記細胞が少なくとも脂肪細胞を含む、請求項1又は2に記載の細胞構造体の凍結方法。

 前記細胞構造体を-160℃の条件下で保持することを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の細胞構造体の凍結方法。

 凍結させた前記細胞構造体を7日間以上凍結状態で保持することを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の細胞構造体の凍結方法。

 凍結させた前記細胞構造体が、解凍した後において、前記三次元組織構造及び/又は機能を維持している、請求項1~5のいずれか一項に記載の細胞構造体の凍結方法。

 凍結させる前の前記細胞構造体中の細胞生存数に対する、凍結させた前記細胞構造体の解凍後の細胞生存数の比が、80%以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載の細胞構造体の凍結方法。