WAVELENGTH-DISPERSIVE X-RAY FLUORESCENCE ANALYSIS DEVICE AND X-RAY FLUORESCENCE ANALYSIS METHOD USING SAME

05-04-2018 дата публикации
Номер:
WO2018061608A1
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Номер заявки: JP14-03-201795
Дата заявки: 31-08-2017

波長分散型蛍光X線分析装置およびそれを用いる蛍光X線分析方法

関連出願

[1]

 本出願は、2016年9月30日出願の特願2016-194355の優先権を主張するものであり、それらの全体を参照により本願の一部をなすものとして引用する。

[2]

 本発明は、集中光学系を備えた波長分散型蛍光X線分析装置およびそれを用いる蛍光X線分析方法に関する。

[3]

 蛍光X線分析において、試料に含有される微量元素を精度よく測定するためには、1次X線が照射された試料から発生する蛍光X線のバックグラウンドについて正確に補正する必要がある。そのため、集中光学系を備えた波長分散型蛍光X線分析装置において、単一の分光素子で分光し、単一の検出器の前に隣接して設けた複数の開口を持つ受光スリットを設け、2次X線を通過させる開口を切り替えて、試料からの蛍光X線のバックグラウンドについて補正する装置がある(特許文献1)。この集中光学系は、固定光学系として用いるため、通常、単元素専用の蛍光X線分析装置か多元素同時型蛍光X線分析装置に用いられる。

[4]

 ほとんどの場合、蛍光X線スペクトルPSとバックグラウンドスペクトルBSとを模式的に示す図9のように、蛍光X線のスペクトルPSのあるピーク領域PAとピーク近接領域BAとにおいて、バックグラウンドスペクトルBSは近似的に直線的に変化する。一般に、走査型蛍光X線分析装置では、ピーク近接領域にゴニオメータを移動させてバックグラウンド強度を測定することで、ピーク領域とピーク近接領域とにおいて同程度の感度でバックグラウンド強度を測定できると見なし、ピーク測定強度からバックグラウンド測定強度を差し引いてネット強度を求めている。

[5]

 一方、特許文献1に記載の装置のように、分光素子および検出器が固定されている集中光学系の波長分散型蛍光X線分析装置においては、単一の検出器の前に隣接して設けた複数の開口をもつ受光スリットを設け、2次X線を通過させる開口をピーク近接領域に切り替えてバックグラウンド強度を測定するが、ピーク領域よりも感度が低いため、実際に発生しているバックグラウンド強度に比べて強度が低く測定される。そのため、ピーク測定強度からピーク近接領域のバックグラウンド測定強度を単に差し引くだけでは、正確なネット強度を求めることができない。

[6]

 そこで、集中光学系を備えた波長分散型蛍光X線分析装置において、複数の分光素子と、単一の検出器に入射する2次X線の光路を選択する手段とを設け、使用する分光素子を切り替えてピーク強度とバックグラウンド強度とを同程度と見なせる感度で測定し、試料からの蛍光X線のバックグラウンドについて補正する装置がある。さらに、この装置の光路選択手段に代えて、検出器を位置敏感型検出器とし、ピーク強度とバックグラウンド強度とを同時に短時間で測定する装置もある(特許文献2)。

[7]

特開平8-128975号公報特表2004-086018号公報

[8]

 しかし、特許文献2に記載の装置では、蛍光X線とそのバックグラウンドとを別々に測定するために複数の分光素子を備えるので、装置の構成が複雑であり、コストが高く、装置の組み立てや調整に要する時間が長くなるという問題があった。

[9]

 そこで、本発明は前記従来の問題に鑑みてなされたもので、簡単な構成で迅速に、試料の品種に応じたバックグラウンド領域の測定を行い、実際に発生しているバックグラウンド強度に比べて強度が低く測定されるバックグラウンドについて正しく補正することにより、正確なネット強度を求めて高精度の定量分析ができる波長分散型蛍光X線分析装置およびそれを用いる蛍光X線分析方法を提供することを目的とする。

[10]

 前記目的を達成するために、本発明の波長分散型蛍光X線分析装置は、試料に1次X線を照射するX線源と、試料から発生した2次X線を通過させる発散スリットと、前記発散スリットを通過した2次X線を分光して集光する分光素子と、前記分光素子における分光角度方向に配列された複数の検出素子を有し、2次X線が前記分光素子で集光された集光2次X線について、集光2次X線を構成する相異なる分光角度の2次X線の各強度を対応する前記検出素子で検出する位置敏感型検出器とを備え、前記発散スリット、前記分光素子および前記位置敏感型検出器が固定されている集中光学系の波長分散型蛍光X線分析装置であって、前記検出素子の配列方向における位置と前記検出素子の検出強度との関係を測定スペクトルとして表示器に表示する測定スペクトル表示手段を備える。

[11]

 さらに、本発明の波長分散型蛍光X線分析装置は、前記検出素子の配列方向において、測定対象の蛍光X線に対応する前記検出素子の領域であるピーク領域と、測定対象の蛍光X線のバックグラウンドに対応する前記検出素子の領域であるバックグラウンド領域とが操作者により設定される検出領域設定手段と、前記ピーク領域にある前記検出素子の検出強度を積算したピーク強度と、前記バックグラウンド領域にある前記検出素子の検出強度を積算したバックグラウンド強度と、あらかじめ算出されたバックグラウンド補正係数とに基づいて、ネット強度として測定対象の蛍光X線の強度を算出して定量分析を行う定量手段とを備える。

[12]

 本発明の波長分散型蛍光X線分析装置によれば、上述の、位置敏感型検出器と、測定スペクトル表示手段と、検出領域設定手段と、定量手段とを備えるので、簡単な構成で迅速に、実際に発生しているバックグラウンド強度に比べて強度が低く測定されるバックグラウンドについて正しく補正することにより、正確なネット強度を求めて高精度の定量分析ができる。

[13]

 本発明の波長分散型蛍光X線分析装置を用いて定量分析を行う、本発明の第1の蛍光X線分析方法では、前記測定スペクトル表示手段により表示される測定スペクトルにおける測定対象の蛍光X線のバックグラウンドのプロファイルが相似である分析対象品種の試料について、所定の検出領域設定用試料における測定スペクトルに基づいて、前記検出領域設定手段により前記ピーク領域および前記バックグラウンド領域を設定し、所定の係数算出用試料におけるバックグラウンド強度に基づいて、単一のバックグラウンド補正係数を算出する。

[14]

 本発明の第1の蛍光X線分析方法によれば、測定対象の蛍光X線のバックグラウンドのプロファイルが相似である分析対象品種の試料について、所定の検出領域設定用試料における測定スペクトルに基づいて、前記ピーク領域および前記バックグラウンド領域を設定し、所定の係数算出用試料におけるバックグラウンド強度に基づいて、単一のバックグラウンド補正係数を算出して定量分析を行うので、バックグラウンドのプロファイルが相似である分析対象品種の試料について、簡単な構成で迅速に、実際に発生しているバックグラウンド強度に比べて強度が低く測定されるバックグラウンドについて正しく補正することにより、正確なネット強度を求めて高精度の定量分析ができる。

[15]

 本発明の波長分散型蛍光X線分析装置を用いて定量分析を行う、本発明の第2の蛍光X線分析方法では、前記測定スペクトル表示手段により表示される測定スペクトルにおける測定対象の蛍光X線のバックグラウンドのプロファイルが相異なる分析対象品種の試料について、所定の検出領域設定用試料における測定スペクトルに基づいて、前記検出領域設定手段により前記ピーク領域およびその両側に1つずつの前記バックグラウンド領域を、前記検出素子の配列方向において前記ピーク領域の中心から各バックグラウンド領域の中心までの距離が等しくなるように設定し、所定の係数算出用試料におけるバックグラウンド強度に基づいて、2つのバックグラウンド補正係数を算出する。

[16]

 本発明の第2の蛍光X線分析方法によれば、測定対象の蛍光X線のバックグラウンドのプロファイルが相異なる分析対象品種の試料について、所定の検出領域設定用試料における測定スペクトルに基づいて、前記検出領域設定手段により前記ピーク領域およびその両側に1つずつの前記バックグラウンド領域を、前記検出素子の配列方向において前記ピーク領域の中心から各バックグラウンド領域の中心までの距離が等しくなるように設定し、所定の係数算出用試料におけるバックグラウンド強度に基づいて、2つのバックグラウンド補正係数を算出して定量分析を行うので、バックグラウンドのプロファイルが相異なる分析対象品種の試料について、簡単な構成で迅速に、実際に発生しているバックグラウンド強度に比べて強度が低く測定されるバックグラウンドについて正しく補正することにより、正確なネット強度を求めて高精度の定量分析ができる。

[17]

 本発明の波長分散型蛍光X線分析装置においては、前記測定スペクトル表示手段が、所定のブランク試料における測定スペクトルに基づいて、前記検出素子へ入射するバックグラウンドの強度が前記検出素子の配列方向において一定であると仮定することにより、各検出素子について検出強度に対する入射強度の比として感度係数を算出し、前記測定スペクトルに代えてまたは前記測定スペクトルとともに、前記検出素子の配列方向における位置と前記検出素子の検出強度に前記感度係数を乗じた補正検出強度との関係を補正スペクトルとして表示器に表示することが好ましい。

[18]

 この好ましい構成の波長分散型蛍光X線分析装置によれば、測定スペクトルに代えてまたは測定スペクトルとともに、上述の補正スペクトルが表示器に表示されるので、バックグラウンドについてより正しく補正することができ、より正確なネット強度を求めていっそう高精度の定量分析ができる。

[19]

 本発明の好ましい構成の波長分散型蛍光X線分析装置を用いて定量分析を行う、本発明の第3の蛍光X線分析方法では、前記測定スペクトル表示手段により表示される補正スペクトルにおける測定対象の蛍光X線のバックグラウンドのプロファイルが相似である分析対象品種の試料について、所定の検出領域設定用試料における補正スペクトルに基づいて、前記検出領域設定手段により前記ピーク領域および前記バックグラウンド領域を設定し、所定の係数算出用試料におけるバックグラウンド強度に基づいて、単一のバックグラウンド補正係数を算出する。

[20]

 本発明の第3の蛍光X線分析方法によれば、上述の好ましい構成の波長分散型蛍光X線分析装置を用いて定量分析を行うので、バックグラウンドのプロファイルが相似である分析対象品種の試料に対し、バックグラウンドについてより正しく補正することができ、より正確なネット強度を求めていっそう高精度の定量分析ができる。

[21]

 本発明の好ましい構成の波長分散型蛍光X線分析装置を用いて定量分析を行う、本発明の第4の蛍光X線分析方法では、前記測定スペクトル表示手段により表示される補正スペクトルにおける測定対象の蛍光X線のバックグラウンドのプロファイルが相異なる分析対象品種の試料について、所定の検出領域設定用試料における補正スペクトルに基づいて、前記検出領域設定手段により前記ピーク領域およびその両側に1つずつの前記バックグラウンド領域を、前記検出素子の配列方向において前記ピーク領域の中心から各バックグラウンド領域の中心までの距離が等しくなるように設定し、所定の係数算出用試料におけるバックグラウンド強度に基づいて、2つのバックグラウンド補正係数を算出する。

[22]

 本発明の第4の蛍光X線分析方法によれば、上述の好ましい構成の波長分散型蛍光X線分析装置を用いて定量分析を行うので、バックグラウンドのプロファイルが相異なる分析対象品種の試料に対し、バックグラウンドについてより正しく補正することができ、より正確なネット強度を求めていっそう高精度の定量分析ができる。

[23]

 本発明の波長分散型蛍光X線分析装置においては、前記位置敏感型検出器の受光面に、前記検出素子の配列方向に並ぶ複数の受光領域が設定され、前記位置敏感型検出器が前記検出素子の配列方向に移動されることにより、測定対象の分光角度範囲に対応して使用される受光領域が変更されることが好ましい。この場合には、特定の検出素子の性能劣化によって位置敏感型検出器全体が使用不能となることが回避されるので、高価な位置敏感型検出器の性能を維持しつつ長期間使用できる。

[24]

 請求の範囲および/または明細書および/または図面に開示された少なくとも2つの構成のどのような組合せも、本発明に含まれる。特に、請求の範囲の各請求項の2つ以上のどのような組合せも、本発明に含まれる。

[25]

 この発明は、添付の図面を参考にした以下の好適な実施形態の説明からより明瞭に理解されるであろう。しかしながら、実施形態および図面は単なる図示および説明のためのものであり、この発明の範囲を定めるために利用されるべきでない。この発明の範囲は添付の請求の範囲によって定まる。添付図面において、複数の図面における同一の部品番号は、同一部分を示す。
本発明の第1、第4実施形態の波長分散型蛍光X線分析装置の概略図である。検出領域設定手段によって設定された、ピーク領域とバックグラウンド領域とにある検出素子を示す図である。測定対象元素を多量に含む試料とブランク試料との測定スペクトルを重ね合わせたスペクトルについてピーク領域とバックグラウンド領域とを示す図である。1つの試料の測定スペクトルについてピーク測定領域とバックグラウンド測定領域とを示す図である。ブランク試料の測定スペクトルを示す図である。分析対象の岩石試料の測定スペクトルを示す図である。分析対象の岩石試料の補正スペクトルについてピーク領域とバックグラウンド領域とを示す図である。位置敏感型検出器の受光面を示す図である。蛍光X線スペクトルとバックグラウンドスペクトルとを模式的に示す図である。

[26]

 以下、本発明の第1実施形態である波長分散型蛍光X線分析装置について図面にしたがって説明する。図1に示すように、この装置は、試料Sに1次X線1を照射するX線源2と、試料Sから発生した2次X線4を通過させる発散スリット5と、発散スリット5を通過した2次X線4を分光して集光する分光素子6と、分光素子6における分光角度方向に配列された複数の検出素子7を有し、2次X線4が分光素子6で集光された集光2次X線42について、集光2次X線42を構成する相異なる分光角度の2次X線41の各強度を対応する検出素子7で検出する位置敏感型検出器10とを備え、発散スリット5、分光素子6および位置敏感型検出器10が固定されている集中光学系の波長分散型蛍光X線分析装置であって、検出素子7の配列方向における位置と検出素子7の検出強度との関係を測定スペクトルとして表示器15に表示する測定スペクトル表示手段14を備える。

[27]

 位置敏感型検出器10は、分光素子6における分光角度方向に直線状に配列された複数の検出素子7を有する一次元検出器でも、分光素子6における分光角度方向を含む平面内に配列された複数の検出素子7を有する二次元検出器でもよいが、第1実施形態の装置では、一次元検出器10を用いる。

[28]

 さらに、この装置は、検出素子7の配列方向において、測定対象の蛍光X線に対応する検出素子7の領域であるピーク領域と、測定対象の蛍光X線のバックグラウンドに対応する検出素子7の領域であるバックグラウンド領域とが操作者により設定される検出領域設定手段16と、ピーク領域にある検出素子7の検出強度を積算したピーク強度、バックグラウンド領域にある検出素子7の検出強度を積算したバックグラウンド強度、および、あらかじめ入力されたバックグラウンド補正係数とに基づいて、ネット強度として測定対象の蛍光X線の強度を算出して定量分析を行う定量手段17とを備える。測定スペクトル表示手段14、検出領域設定手段16および定量手段17は、この波長分散型蛍光X線分析装置を制御する、例えばコンピュータである制御手段18に含まれる。

[29]

 一次元検出器10の受光面は集光2次X線42の焦点に位置しており、図2に示すように、例えば、75μmの間隔で第1番の検出素子7から第256番の検出素子7までが分光角度の小さい位置(図2における左側、図1における斜め上側。なお、図2においては図1の紙面奥側から一次元検出器の受光面を見ている。)から順に直線状に配列されている。

[30]

 第1実施形態の装置は、測定スペクトル表示手段14を備え、操作者がピーク領域およびバックグラウンド領域を設定するにあたり、検出領域設定手段16とともに用いられる。例えば、測定スペクトル表示手段14により、図3に示す測定スペクトルが表示器15に表示される。

[31]

 図3では、測定対象元素を多量に含む試料Sおよびブランク試料Sの測定スペクトルPS,BSが重ね合わされて表示されている。重ね合わせたスペクトルが比較しやすいように測定対象元素を多量に含む試料Sの強度を小さくして表示している。この測定スペクトルにおいて、横軸は検出素子7の配列方向における位置であり、検出素子番号、分光素子6の分光角度、エネルギー値で表示してもよい(図4、5においても同様)。縦軸は検出素子7の検出強度である。測定対象元素を多量に含む試料Sで測定された蛍光X線のスペクトルPSが破線で、ブランク試料Sで測定されたバックグラウンドスペクトルBSが実線で示され、横軸方向において、ピーク領域PA、第1バックグラウンド領域BA、第2バックグラウンド領域BAが示されている。

[32]

 図3において、各領域BA,PA,BAにおける各スペクトルPS,BS以下の部分(各スペクトルPS,BSと横軸の間の部分で、スペクトルBSについては3本の黒い棒状の部分、スペクトルPSについては中央の黒い棒状の部分をさらに破線で延長した部分)の面積が、スペクトルPS,BSに対応する試料Sについて各領域BA,PA,BAにある検出素子7によって検出された検出強度に相当する。図3では、測定対象元素を多量に含む試料Sについては、ピーク領域PAにある検出素子7によって検出された検出強度I、ブランク試料Sについては、第1バックグラウンド領域BAにある検出素子7によって検出された検出強度IB1、ピーク領域PAにある検出素子7によって検出された検出強度I、第2バックグラウンド領域BAにある検出素子7によって検出された検出強度IB2が読み取れる。なお、測定スペクトル表示手段14により表示器15に表示されるのは、各スペクトルPS,BSと横軸方向における各領域BA,PA,BAであって、上述した各検出強度に相当する部分については、必ずしも表示されるわけではない。

[33]

 表示された測定スペクトルPS,BSに基づいて、操作者によって検出領域設定手段16から、例えば、第123番から第129番の検出素子7がピーク領域PAの蛍光X線強度測定用に、第106番から第112番の検出素子7が第1バックグラウンド領域BAのバックグラウンド測定用に、第140番から第146番の検出素子7が第2バックグラウンド領域BAのバックグラウンド測定用に、それぞれ設定される。これらの検出素子7の設定は、検出領域設定手段16に記憶される。このように、表示された測定スペクトルPS,BSに基づいて、最適なピーク領域PAおよび最適なバックグラウンド領域BA,BAを設定することができる。

[34]

 ピーク領域PA、第1バックグラウンド領域BAおよび第2バックグラウンド領域BAが検出領域設定手段16にそれぞれ設定されると、分光角度が測定対象の蛍光X線(分析線)の分光角度θである2次X線41(図2における中央)の強度がピーク領域PAにある検出素子7によって、分光角度がθよりも小さい2次X線41(図2における左側)の強度が第1バックグラウンド領域BAにある検出素子7によって、分光角度がθよりも大きい2次X線41(図2における右側)の強度が第2バックグラウンド領域BAにある検出素子7によって、それぞれ検出されることになる。なお、図1に示す集光2次X線42は、分光角度が上述のようにわずかずつ相異なる3つの集光2次X線42が重なったものであるが、図2においては、3つの集光2次X線42を、それぞれを構成する2次X線41のうち、それぞれの光軸上の2次X線41で代表させて示している。

[35]

 分析対象の試料Sが測定されると、定量手段17は、下記の式(1)および式(2)に基づいて、ピーク強度Iからピーク領域のバックグラウンド強度Iを適切に差し引き、測定対象の蛍光X線のネット強度Inetを算出して定量分析を行う。なお、式(2)において、各バックグラウンド領域の強度IB1,IB2を合計した強度とバックグラウンド補正係数kとの積をピーク領域のバックグラウンド強度Iとしている。

[36]

 Inet=I-I   …(1)
 I=k(IB1+IB2)   …(2)
 Inet:測定対象の蛍光X線の算出されたネット強度
 I:ピーク領域にある検出素子(第123番から第129番の検出素子)の検出強度を積算したピーク強度
 I:ピーク領域のバックグラウンド強度
 IB1:第1バックグラウンド領域にある検出素子(第106番から第112番の検出素子)の検出強度を積算したバックグラウンド強度
 IB2:第2バックグラウンド領域にある検出素子(第140番から第146番の検出素子)の検出強度を積算したバックグラウンド強度
 k:バックグラウンド補正係数

[37]

 バックグラウンド補正係数kは、係数算出用試料Sとして例えばブランク試料Sを測定することにより、下記の式(3)に基づいてあらかじめ算出され、定量手段17に入力されている。なお、定量手段17は、操作者によりピーク領域PAおよびバックグラウンド領域BA,BAが設定された後、分析対象の試料Sの定量分析前に、図3に示したブランク試料Sにおける測定スペクトルBSに基づいて、下記の式(3)により、バックグラウンド補正係数kを自動的に算出してもよい。

[38]

 k=I/(IB1+IB2)   …(3)
 I:ブランク試料についてピーク領域にある検出素子(第123番から第129番の検出素子)の検出強度を積算したピーク強度
 IB1:ブランク試料について第1バックグラウンド領域にある検出素子(第106番から第112番の検出素子)の検出強度を積算したバックグラウンド強度
 IB2:ブランク試料について第2バックグラウンド領域にある検出素子(第140番から第146番の検出素子)の検出強度を積算したバックグラウンド強度

[39]

 バックグラウンド補正係数kは、下記の式(4)の検量線式を用い回帰計算で検量線定数を求めるときに同時に求めてもよい。

[40]

 W=A(I-k(IB1+IB2))+B   …(4)
 W:試料中の測定対象元素の含有率
 A、B:検量線定数

[41]

 上記の例では、2つのバックグラウンド領域BA,BAで測定してバックグラウンドを補正(除去)したが、1つまたは3つ以上のバックグラウンド領域BAで測定してもよい。また、上記の例では、設定する検出素子7の個数について、ピーク領域PA、第1バックグラウンド領域BAおよび第2バックグラウンド領域BAにある検出素子7の個数を同数にしたが、相異なる個数であってもよい。

[42]

 さらに、検出領域設定用試料Sの測定スペクトルとして、上述した測定対象元素を多量に含む試料Sおよびブランク試料Sの測定スペクトルPS,BSを重ね合わせた測定スペクトルに代えて、測定対象の蛍光X線のスペクトルとバックグラウンドスペクトルとが観察できる1つの試料Sによる、図4に示す測定スペクトルMSを用いてもよい。図4では、この1つの試料Sについて、第1バックグラウンド領域BAにある検出素子7によって検出された検出強度IB1、ピーク領域PAにある検出素子7によって検出された検出強度I、第2バックグラウンド領域BAにある検出素子7によって検出された検出強度IB2が読み取れる。

[43]

 第1実施形態の波長分散型蛍光X線分析装置によれば、上述の、一次元検出器10と、測定スペクトル表示手段14と、検出領域設定手段16と、定量手段17とを備えるので、簡単な構成で迅速に、実際に発生しているバックグラウンド強度に比べて強度が低く測定されるバックグラウンドについて正しく補正することにより、正確なネット強度を求めて高精度の定量分析ができる。

[44]

 次に、第1実施形態の波長分散型蛍光X線分析装置を用いて定量分析を行う、本発明の第2実施形態である蛍光X線分析方法について説明する。この蛍光X線分析方法では、測定スペクトル表示手段14により表示される測定スペクトルにおける測定対象の蛍光X線のバックグラウンドのプロファイルが相似である分析対象品種の試料Sについて、所定の検出領域設定用試料Sにおける測定スペクトルに基づいて検出領域設定手段16によりピーク領域PAおよびバックグラウンド領域BAを設定し、所定の係数算出用試料Sにおけるバックグラウンド強度に基づいて、単一のバックグラウンド補正係数kを算出して定量手段17に入力し、定量分析を行う。

[45]

 測定対象の蛍光X線のバックグラウンドのプロファイルが相似である分析対象品種の試料Sとは、ピーク近接領域のバックグラウンドのプロファイルが、試料Sが変わっても相似である分析対象品種の試料Sをいう。酸化物である試料において重元素の蛍光X線を測定対象とする場合、例えば岩石である試料においてPb-Lβ線を測定対象とする場合が該当する。所定の検出領域設定用試料Sとしては、第1実施形態の波長分散型蛍光X線分析装置で説明したように、測定対象元素を多量に含む試料Sとブランク試料Sとの2つの試料Sであっても、測定対象の蛍光X線のスペクトルとバックグラウンドスペクトルとが観察できる1つの試料Sであってもよい。

[46]

 例えば、第1実施形態の波長分散型蛍光X線分析装置で用いた、測定対象元素を多量に含む試料Sおよびブランク試料Sである検出領域設定用試料Sを測定して、重ね合わせた測定スペクトル(図3)を測定スペクトル表示手段14により表示器15に表示させる。表示された測定スペクトルに基づいて、第1実施形態の波長分散型蛍光X線分析装置の操作と同様にして、検出領域設定手段16によりピーク領域PAおよびバックグラウンド領域BA、例えば第1バックグラウンド領域BAおよび第2バックグラウンド領域BAを設定し、記憶させる。

[47]

 次に、係数算出用試料Sとして例えばブランク試料Sを測定し、第1実施形態の波長分散型蛍光X線分析装置の操作と同様にして、単一のバックグラウンド補正係数kを求める。バックグラウンド補正係数kは、上記の式(4)の検量線式を用い回帰計算で検量線定数を求めるときに同時に求めてもよい。なお、1種類の分析対象品種については、複数の分析対象の試料Sに対し、共通のバックグラウンド補正係数が用いられ、他の実施形態においても同様である。

[48]

 定量手段17にバックグラウンド補正係数kをあらかじめ入力しておいて、または定量手段17にバックグラウンド補正係数kをあらかじめ自動的に算出させておいて、分析対象の試料Sを測定すると、定量手段17が、測定対象の蛍光X線のネット強度Inetを算出して定量分析を行う。

[49]

 この定量分析においては、測定対象の蛍光X線のバックグラウンドのプロファイルが相似である分析対象品種の試料Sについて、任意の数のバックグラウンド領域で設定したそれぞれ任意の個数の検出素子7の検出強度をすべて積算したバックグラウンド強度と、単一のバックグラウンド補正係数kを用いて、正確に測定対象の蛍光X線のネット強度Inetを算出することができる。

[50]

 第2実施形態である蛍光X線分析方法によれば、測定対象の蛍光X線のバックグラウンドのプロファイルが相似である分析対象品種の試料Sについて、所定の検出領域設定用試料Sにおける測定スペクトルに基づいて、ピーク領域PAおよびバックグラウンド領域BA,BAを設定し、所定の係数算出用試料Sにおけるバックグラウンド強度Iに基づいて、単一のバックグラウンド補正係数kを算出して定量分析を行うので、バックグラウンドのプロファイルが相似である分析対象品種の試料Sについて、簡単な構成で迅速に、実際に発生しているバックグラウンド強度に比べて強度が低く測定されるバックグラウンドについて正しく補正することにより、正確なネット強度Inetを求めて高精度の定量分析ができる。

[51]

 次に、第1実施形態の波長分散型蛍光X線分析装置を用いて定量分析を行う、本発明の第3実施形態である蛍光X線分析方法について説明する。この蛍光X線分析方法では、測定スペクトル表示手段14により表示される測定スペクトルにおける測定対象の蛍光X線のバックグラウンドのプロファイルが、例えば大きな妨害スペクトルの裾の影響の有無により相異なる分析対象品種の試料Sについて、所定の検出領域設定用試料Sにおける測定スペクトルに基づいて、検出領域設定手段16によりピーク領域PAおよびその両側に1つずつのバックグラウンド領域BA,BAを、検出素子7の配列方向においてピーク領域PAの中心から各バックグラウンド領域BA,BAの中心までの距離が等しくなるように設定し、所定の係数算出用試料Sにおけるバックグラウンド強度に基づいて、2つのバックグラウンド補正係数k1,k2を算出して定量手段17に入力し、定量分析を行う。ここで、測定対象の蛍光X線のピーク領域とその両側のバックグラウンド領域とにおいて、実際に発生しているバックグラウンド強度のプロファイルが、直線上にあると見なしている。

[52]

 測定対象の蛍光X線のバックグラウンドのプロファイルが相異なる分析対象品種の試料Sとは、ピーク近接領域のバックグラウンドのプロファイルが、分析対象品種の試料Sのうち1つでも異なる分析対象品種の試料Sをいう。例えば、ピーク領域PAに近接して妨害線を発生する試料Sを含む分析対象品種の試料Sである。

[53]

 所定の検出領域設定用試料Sとしては、例えば、ピーク領域PAに近接して妨害線を発生する試料Sを用いる。この検出領域設定用試料Sを測定して測定スペクトルを測定スペクトル表示手段14により表示器15に表示させる。操作者が、表示された測定スペクトルに基づいて、検出領域設定手段16によりピーク領域PAおよびその両側に、第1バックグラウンド領域BAおよび第2バックグラウンド領域BAを設定し、検出領域設定手段16に記憶させる。このとき、ピーク領域PAの中心から第1バックグラウンド領域BAの中心までの距離とピーク領域PAの中心から第2バックグラウンド領域BAの中心までの距離とは等しくなるようにする。

[54]

 測定スペクトルには、操作者によって検出領域設定手段16により設定され、記憶されたピーク領域PA、第1バックグラウンド領域BAおよび第2バックグラウンド領域BAが表示される。

[55]

 次に、係数算出用試料S、例えば、妨害線を発生する元素を含まず、測定対象の蛍光X線のバックグラウンドスペクトルにおいてピーク領域PAおよび第1、第2バックグラウンド領域BA,BAで強度の変化が少ないブランク試料Sを測定することにより、下記の式(5)および式(6)に基づいて、2つのバックグラウンド補正係数k1,k2を求める。

[56]

 k1=0.5×I/IB1   …(5)
 k2=0.5×I/IB2   …(6)

[57]

 式(5)および式(6)における定数0.5は、ピーク領域PAの中心から第1バックグラウンド領域BAの中心までの距離と、ピーク領域PAの中心から第2バックグラウンド領域BAの中心までの距離とが等しいことによる。

[58]

 定量手段17にバックグラウンド補正係数k1,k2をあらかじめ入力しておいて、または定量手段17にバックグラウンド補正係数k1,k2をあらかじめ自動的に算出させておいて、分析対象の試料Sを測定すると、定量手段17が、下記の式(7)に基づいて、ピーク強度Iからピーク領域のバックグラウンド強度I=(k1×IB1+k2×IB2)を適切に差し引き、測定対象の蛍光X線のネット強度Inetを算出して定量分析を行う。

[59]

 Inet=I-(k1×IB1+k2×IB2)   …(7)
 k1:第1バックグラウンド領域のバックグラウンド補正係数
 k2:第2バックグラウンド領域のバックグラウンド補正係数

[60]

 式(7)に基づいて定量分析を行うにあたり、ブランク試料Sの測定対象の蛍光X線のバックグラウンドスペクトルにおける、ピーク領域PAの強度に対する第1、第2バックグラウンド領域BA,BAの強度の比ri1,ri2を、多元素同時型蛍光X線分析装置のスキャンゴニオメータなどであらかじめ求めておき、上記の式(5)および式(6)で求めたバックグラウンド補正係数k1,k2に代えて、それぞれに対応する強度比ri1,ri2を乗じて修正したバックグラウンド補正係数ri1k1,ri2k2を用いてもよい。このように修正したバックグラウンド補正係数ri1k1,ri2k2を用いることにより、ブランク試料Sの測定対象の蛍光X線のバックグラウンドスペクトルにおけるピーク領域PAおよび第1、第2バックグラウンド領域BA,BAでの強度変化が定量分析に影響するのをなくすことができる。

[61]

 また、定量分析を行うにあたり、上記の式(7)は、ピーク領域PAおよび第1、第2バックグラウンド領域BA,BAにある検出素子数が同じである場合に用いられる。ピーク領域PAおよび第1、第2バックグラウンド領域BA,BAにある検出素子数が異なる場合には、第1、第2バックグラウンド領域BA,BAの検出素子数に対するピーク領域PAの検出素子数の比rn1,rn2をあらかじめ求めておき、上記の式(5)および式(6)で求めたバックグラウンド補正係数k1,k2に代えて、それぞれに対応する検出素子数の比rn1,rn2を乗じて修正したバックグラウンド補正係数rn1k1,rn2k2を用いる。

[62]

 第3実施形態である蛍光X線分析方法によれば、測定対象の蛍光X線のバックグラウンドのプロファイルが相異なる分析対象品種の試料Sについて、所定の検出領域設定用試料Sにおける測定スペクトルに基づいて、検出領域設定手段16によりピーク領域PAおよびその両側に1つずつのバックグラウンド領域BA,BAを、検出素子7の配列方向においてピーク領域PAの中心から各バックグラウンド領域BA,BAの中心までの距離が等しくなるように設定し、所定の係数算出用試料Sにおけるバックグラウンド強度に基づいて、2つのバックグラウンド補正係数k1,k2を算出して定量分析を行うので、バックグラウンドのプロファイルが相異なる分析対象品種の試料について、簡単な構成で迅速に、実際に発生しているバックグラウンド強度に比べて強度が低く測定されるバックグラウンドについて正しく補正することにより、正確なネット強度を求めて高精度の定量分析ができる。

[63]

 次に、本発明の第4実施形態である波長分散型蛍光X線分析装置について、第1実施形態の波長分散型蛍光X線分析装置と対比して異なる点のみを説明する。

[64]

 第4実施形態の波長分散型蛍光X線分析装置では、測定スペクトル表示手段14は、まず、図5に示す所定のブランク試料Sにおける測定スペクトルBSに基づいて、検出素子7へ入射するバックグラウンドの強度が検出素子7の配列方向において一定であると仮定することにより、下記の式(8)のように、各検出素子7について検出強度に対する入射強度の比として感度係数αを算出する。なお、図5では、横軸は検出素子番号であり、図6、7においても同様である。また、所定のブランク試料Sとは、第1、第2実施形態の説明で、検出領域設定用試料S、係数算出用試料Sとして用いられたものと同じで、例えば、岩石である試料においてPb-Lβ線を測定対象とする場合には、岩石に組成が近似していて測定対象元素Pbおよび妨害線を発生する元素を含まない、SiOである。

[65]

 α=I/I   …(8)

[66]

 ここで、ブランク試料Sの測定スペクトルBSにおいて、i番目の検出素子7の検出強度Iに対し、ピーク位置の検出素子7の検出強度Iを入射強度としている。

[67]

 そして、所定の検出領域設定用試料S、例えば分析対象の岩石試料Sが測定されると、測定スペクトル表示手段14は、図4で示した測定スペクトルMSと同様の、図6に示す検出素子番号(検出素子7の配列方向における位置)と検出素子7の検出強度との関係である測定スペクトルMSに代えて、または、その測定スペクトルMSとともに、検出素子番号と、下記の式(9)による検出素子7の検出強度Iに感度係数αを乗じた補正検出強度Iとの関係を、図7に示す補正スペクトルASとして表示器15に表示する。

[68]

 I=α   …(9)

[69]

 なお、図7では、従来技術により、各ピークの線種が、同定され、表示されているが、本発明において必ずしも同定、表示されるわけではない。また、図6の測定スペクトルMSとともに、図7の補正スペクトルASを表示器15に表示する場合には、両方のスペクトルを、1画面に重ねて、もしくは並べて表示するか、切り替えられる2画面として表示する。このように、図7の補正スペクトルASのみならず、図6の測定スペクトルMSをも併せて表示する場合には、バックグラウンド強度Iの精度向上のために、図6の測定スペクトルMSを参照して、横軸方向においてピーク位置から遠く分光系としての感度が低い位置にある検出素子をバックグラウンド領域BAに含めないようにするのが容易になる。

[70]

 さらに、第4実施形態の波長分散型蛍光X線分析装置では、同装置の外部からあらかじめ算出されたバックグラウンド補正係数kが定量手段17に入力されることはなく、操作者によりピーク領域PAおよびバックグラウンド領域BAが設定された後、定量手段17が、上記の式(1)および式(2)に基づいて、測定対象の蛍光X線のネット強度Inetを算出して定量分析を行うにあたり、図5に示したブランク試料Sにおける測定スペクトルBSに基づいて、上記の式(3)により、バックグラウンド補正係数kを自動的に算出する。ただし、図7の例示においては、第2バックグラウンド領域BAは設定されていないので、IB2=0である。

[71]

 第4実施形態の波長分散型蛍光X線分析装置によれば、測定スペクトルMSに代えてまたは測定スペクトルMSとともに、上述の補正スペクトルASが表示器15に表示されるので、バックグラウンドについてより正しく補正することができ、より正確なネット強度を求めていっそう高精度の定量分析ができる。

[72]

 次に、第4実施形態の波長分散型蛍光X線分析装置を用いて定量分析を行う、本発明の第5実施形態である蛍光X線分析方法について説明する。この蛍光X線分析方法では、測定スペクトル表示手段14により表示される補正スペクトルにおける測定対象の蛍光X線のバックグラウンドのプロファイルが相似である分析対象品種の試料Sについて、所定の検出領域設定用試料Sにおける補正スペクトルに基づいて検出領域設定手段16によりピーク領域PAおよびバックグラウンド領域BAを設定し、所定の係数算出用試料Sにおけるバックグラウンド強度に基づいて、単一のバックグラウンド補正係数kを算出して、定量分析を行う。

[73]

 測定対象の蛍光X線のバックグラウンドのプロファイルが相似である分析対象品種の試料Sとは、ピーク近接領域のバックグラウンドのプロファイルが、試料Sが変わっても相似である分析対象品種の試料Sをいう。酸化物である試料において重元素の蛍光X線を測定対象とする場合、例えば岩石である試料においてPb-Lβ線を測定対象とする場合が該当する。

[74]

 第5実施形態の蛍光X線分析方法では、第4実施形態の波長分散型蛍光X線分析装置を用いるが、まず、上述したように、所定のブランク試料Sを測定して、測定スペクトル表示手段14に感度係数αを算出させておく。

[75]

 そして、所定の検出領域設定用試料S、例えば分析対象の岩石試料Sの1つを測定して、測定スペクトル表示手段14により、図6の測定スペクトルMSに代えて、または、その測定スペクトルMSとともに、図7の補正スペクトルASを表示器15に表示させる。表示された補正スペクトルASに基づいて、第1実施形態の波長分散型蛍光X線分析装置の操作と同様にして、検出領域設定手段16によりピーク領域PAおよびバックグラウンド領域BAを図7に示したように設定し、記憶させる。図7の補正スペクトルASのみならず、図6の測定スペクトルMSをも併せて表示させる場合には、上述したように、横軸方向においてピーク位置から遠く分光系としての感度が低い位置にある検出素子をバックグラウンド領域BAに含めないようにするのが容易になる。

[76]

 ピーク領域PAおよびバックグラウンド領域BAを設定すると、その後、定量手段17により、図5に示したブランク試料Sにおける測定スペクトルBSに基づいて、上記の式(3)により(ただし、IB2=0である)、バックグラウンド補正係数kが自動的に算出される。そして、測定した分析対象の試料Sについて、定量手段17が、上記の式(1)および式(2)により(ただし、式(2)においてIB2=0である)、測定対象の蛍光X線のネット強度Inetを算出して定量分析を行う。

[77]

 第5実施形態の蛍光X線分析方法によれば、第4実施形態の波長分散型蛍光X線分析装置を用いて定量分析を行うので、バックグラウンドのプロファイルが相似である分析対象品種の試料に対し、バックグラウンドについてより正しく補正することができ、より正確なネット強度を求めていっそう高精度の定量分析ができる。

[78]

 次に、第4実施形態の波長分散型蛍光X線分析装置を用いて定量分析を行う、本発明の第6実施形態である蛍光X線分析方法について説明する。この蛍光X線分析方法では、測定スペクトル表示手段14により表示される補正スペクトルにおける測定対象の蛍光X線のバックグラウンドのプロファイルが、例えば大きな妨害スペクトルの裾の影響の有無により相異なる分析対象品種の試料Sについて、所定の検出領域設定用試料Sにおける補正スペクトルに基づいて、検出領域設定手段16によりピーク領域PAおよびその両側に1つずつのバックグラウンド領域BA,BAを、検出素子7の配列方向においてピーク領域PAの中心から各バックグラウンド領域BA,BAの中心までの距離が等しくなるように設定し、所定の係数算出用試料Sにおけるバックグラウンド強度に基づいて、2つのバックグラウンド補正係数k1,k2を算出する。ここで、測定対象の蛍光X線のピーク領域とその両側のバックグラウンド領域とにおいて、実際に発生しているバックグラウンド強度のプロファイルが、直線上にあると見なしている。

[79]

 測定対象の蛍光X線のバックグラウンドのプロファイルが相異なる分析対象品種の試料Sとは、ピーク近接領域のバックグラウンドのプロファイルが、分析対象品種の試料Sのうち1つでも異なる分析対象品種の試料Sをいう。例えば、ピーク領域PAに近接して妨害線を発生する試料Sを含む分析対象品種の試料Sである。

[80]

 第6実施形態の蛍光X線分析方法では、第4実施形態の波長分散型蛍光X線分析装置を用いるが、まず、上述したように、所定のブランク試料Sを測定して、測定スペクトル表示手段14に感度係数αを算出させておく。

[81]

 そして、所定の検出領域設定用試料S、例えばピーク領域PAに近接して妨害線を発生する試料Sを測定して、測定スペクトル表示手段14により、測定スペクトルに代えて、または、その測定スペクトルとともに、補正スペクトルを表示器15に表示させる。表示された補正スペクトルに基づいて、検出領域設定手段16によりピーク領域PAおよびその両側に、第1バックグラウンド領域BAおよび第2バックグラウンド領域BAを設定し、検出領域設定手段16に記憶させる。このとき、ピーク領域PAの中心から第1バックグラウンド領域BAの中心までの距離とピーク領域PAの中心から第2バックグラウンド領域BAの中心までの距離とは等しくなるようにする。補正スペクトルのみならず、測定スペクトルをも併せて表示させる場合には、上述したように、横軸方向においてピーク位置から遠く分光系としての感度が低い位置にある検出素子をバックグラウンド領域BA,BAに含めないようにするのが容易になる。

[82]

 補正スペクトルには、操作者によって検出領域設定手段16により設定され、記憶されたピーク領域PA、第1バックグラウンド領域BAおよび第2バックグラウンド領域BAが表示される。

[83]

 ピーク領域PAおよびバックグラウンド領域BAを設定すると、その後、定量手段17により、ブランク試料Sにおける測定スペクトルに基づいて、上記の式(5)および式(6)により、2つのバックグラウンド補正係数k1,k2が自動的に算出される。そして、分析対象の試料Sを測定すると、定量手段17が、上記の式(7)により、測定対象の蛍光X線のネット強度Inetを算出して定量分析を行う。

[84]

 第6実施形態である蛍光X線分析方法によれば、第4実施形態の波長分散型蛍光X線分析装置を用いて定量分析を行うので、バックグラウンドのプロファイルが相異なる分析対象品種の試料に対し、バックグラウンドについてより正しく補正することができ、より正確なネット強度を求めていっそう高精度の定量分析ができる。

[85]

 なお、第1実施形態および第4実施形態の波長分散型蛍光X線分析装置においては、図8に示すように、位置敏感型検出器10の受光面10aに、検出素子7の配列方向に並ぶ複数の、例えば3つの受光領域10a,10a,10aが設定され、位置敏感型検出器10が検出素子7の配列方向に移動されることにより、測定対象の分光角度範囲に対応して使用される受光領域が変更されることが好ましい。検出素子7には計数寿命があり、それを過ぎて使用し続けるとエネルギー分解能等の性能が劣化して正しく機能しなくなるところ、この好ましい構成の場合には、集中光学系において、特定の検出素子7の性能劣化によって位置敏感型検出器10全体が使用不能となることが回避されるので、高価な位置敏感型検出器10の性能を維持しつつ長期間使用できる。

[86]

 この好ましい構成の各受光領域は、検出素子7の配列方向において、測定対象の分光角度範囲に対応し得る、長さつまり検出素子数を有しているが、各受光領域において、検出素子7の配列方向における両端部は、ピーク位置から遠く分光系としての感度が低い位置となり、その位置にある検出素子7に入射する2次X線41の強度は、例えば図6の測定スペクトルMSから理解されるように、非常に低い。このことから、検出素子7の配列方向において、複数の受光領域10a,10a,10aの端部は、図8に例示したように重なっている方が、より無駄なく位置敏感型検出器10を長期間使用できる。

[87]

 使用される受光領域の変更は、例えば、1検出素子あたりの平均累積計数が所定の累積計数値に達したとき、検出素子ごとの累積計数における最大値が所定の累積計数値に達したとき、検出素子ごとのエネルギー分解能における最低値が所定の値に達したとき、などのいずれかのときに行われ、バックグラウンド補正係数の更新も併せて行われる。

[88]

 以上のように、本発明では、スペクトルを観察しながらピーク領域およびバックグラウンド領域を適切に設定することができるので、簡単、迅速に、高精度の定量分析ができる。

[89]

 以上のとおり、図面を参照しながら好適な実施例を説明したが、当業者であれば、本件明細書を見て、自明な範囲内で種々の変更および修正を容易に想定するであろう。したがって、そのような変更および修正は、添付の請求の範囲から定まるこの発明の範囲内のものと解釈される。

[90]

1 1次X線
2 X線源
4 2次X線
5 発散スリット
6 分光素子
7 検出素子
10 位置敏感型検出器(一次元検出器)
10a 受光面
10a,10a,10a 受光領域
14 測定スペクトル表示手段
15 表示器
16 検出領域設定手段
17 定量手段
41 相異なる分光角度の2次X線
42 集光2次X線
AS 補正スペクトル
BA,BA バックグラウンド領域
BS,MS,PS 測定スペクトル
PA ピーク領域
S 試料、検出領域設定用試料、係数算出用試料、ブランク試料



[1]

This wavelength-dispersive X-ray fluorescence analysis device is provided with: a position-sensitive detector (10) that detects each of the intensities of a secondary X-ray (41) at different spectral angles using a corresponding detection element (7); a measurement spectrum display means (14) that displays, on a display (15), the relation between the position of the detection element (7) in a direction of arrangement and the detection strength of the detection element (7) as a measurement spectrum; a detection area setting means (16) for setting a peak area and a background area; and a quantification means (17) that uses the peak intensity in the peak area, the background intensity in the background area, and a background correction coefficient as a basis to calculate the intensity of X-ray fluorescence to be measured as a net intensity and perform quantitative analysis.

[2]



 試料に1次X線を照射するX線源と、
 試料から発生した2次X線を通過させる発散スリットと、
 前記発散スリットを通過した2次X線を分光して集光する分光素子と、
 前記分光素子における分光角度方向に配列された複数の検出素子を有し、2次X線が前記分光素子で集光された集光2次X線について、集光2次X線を構成する相異なる分光角度の2次X線の各強度を対応する前記検出素子で検出する位置敏感型検出器とを備え、
 前記発散スリット、前記分光素子および前記位置敏感型検出器が固定されている集中光学系の波長分散型蛍光X線分析装置であって、
 前記検出素子の配列方向における位置と前記検出素子の検出強度との関係を測定スペクトルとして表示器に表示する測定スペクトル表示手段と、
 前記検出素子の配列方向において、測定対象の蛍光X線に対応する前記検出素子の領域であるピーク領域と、測定対象の蛍光X線のバックグラウンドに対応する前記検出素子の領域であるバックグラウンド領域とが操作者により設定される検出領域設定手段と、
 前記ピーク領域にある前記検出素子の検出強度を積算したピーク強度と、前記バックグラウンド領域にある前記検出素子の検出強度を積算したバックグラウンド強度と、あらかじめ算出されたバックグラウンド補正係数とに基づいて、ネット強度として測定対象の蛍光X線の強度を算出して定量分析を行う定量手段とを備えた波長分散型蛍光X線分析装置。

 請求項1に記載の波長分散型蛍光X線分析装置を用いて定量分析を行う蛍光X線分析方法であって、
 前記測定スペクトル表示手段により表示される測定スペクトルにおける測定対象の蛍光X線のバックグラウンドのプロファイルが相似である分析対象品種の試料について、
 所定の検出領域設定用試料における測定スペクトルに基づいて、前記検出領域設定手段により前記ピーク領域および前記バックグラウンド領域を設定し、
 所定の係数算出用試料におけるバックグラウンド強度に基づいて、単一のバックグラウンド補正係数を算出する蛍光X線分析方法。

 請求項1に記載の波長分散型蛍光X線分析装置を用いて定量分析を行う蛍光X線分析方法であって、
 前記測定スペクトル表示手段により表示される測定スペクトルにおける測定対象の蛍光X線のバックグラウンドのプロファイルが相異なる分析対象品種の試料について、
 所定の検出領域設定用試料における測定スペクトルに基づいて、前記検出領域設定手段により前記ピーク領域およびその両側に1つずつの前記バックグラウンド領域を、前記検出素子の配列方向において前記ピーク領域の中心から各バックグラウンド領域の中心までの距離が等しくなるように設定し、
 所定の係数算出用試料におけるバックグラウンド強度に基づいて、2つのバックグラウンド補正係数を算出する蛍光X線分析方法。

 請求項1に記載の波長分散型蛍光X線分析装置において、
 前記測定スペクトル表示手段が、
 所定のブランク試料における測定スペクトルに基づいて、前記検出素子へ入射するバックグラウンドの強度が前記検出素子の配列方向において一定であると仮定することにより、各検出素子について検出強度に対する入射強度の比として感度係数を算出し、
 前記測定スペクトルに代えてまたは前記測定スペクトルとともに、前記検出素子の配列方向における位置と前記検出素子の検出強度に前記感度係数を乗じた補正検出強度との関係を補正スペクトルとして表示器に表示する波長分散型蛍光X線分析装置。

 請求項4に記載の波長分散型蛍光X線分析装置を用いて定量分析を行う蛍光X線分析方法であって、
 前記測定スペクトル表示手段により表示される補正スペクトルにおける測定対象の蛍光X線のバックグラウンドのプロファイルが相似である分析対象品種の試料について、
 所定の検出領域設定用試料における補正スペクトルに基づいて、前記検出領域設定手段により前記ピーク領域および前記バックグラウンド領域を設定し、
 所定の係数算出用試料におけるバックグラウンド強度に基づいて、単一のバックグラウンド補正係数を算出する蛍光X線分析方法。

 請求項4に記載の波長分散型蛍光X線分析装置を用いて定量分析を行う蛍光X線分析方法であって、
 前記測定スペクトル表示手段により表示される補正スペクトルにおける測定対象の蛍光X線のバックグラウンドのプロファイルが相異なる分析対象品種の試料について、
 所定の検出領域設定用試料における補正スペクトルに基づいて、前記検出領域設定手段により前記ピーク領域およびその両側に1つずつの前記バックグラウンド領域を、前記検出素子の配列方向において前記ピーク領域の中心から各バックグラウンド領域の中心までの距離が等しくなるように設定し、
 所定の係数算出用試料におけるバックグラウンド強度に基づいて、2つのバックグラウンド補正係数を算出する蛍光X線分析方法。

 請求項1または4に記載の波長分散型蛍光X線分析装置において、
 前記位置敏感型検出器の受光面に、前記検出素子の配列方向に並ぶ複数の受光領域が設定され、前記位置敏感型検出器が前記検出素子の配列方向に移動されることにより、測定対象の分光角度範囲に対応して使用される受光領域が変更される波長分散型蛍光X線分析装置。