OXIDE SEMICONDUCTOR THIN FILM OF THIN FILM TRANSISTOR, THIN FILM TRANSISTOR AND SPUTTERING TARGET

10-03-2016 дата публикации
Номер:
WO2016035554A1
Принадлежит: 株式会社神戸製鋼所
Контакты:
Номер заявки: JP32-07-201567
Дата заявки: 19-08-2015

薄膜トランジスタの酸化物半導体薄膜、薄膜トランジスタ、およびスパッタリングターゲット
[1]

 本発明は、薄膜トランジスタの酸化物半導体薄膜、薄膜トランジスタ、およびスパッタリングターゲットに関する。例えば液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置に用いられる薄膜トランジスタの酸化物半導体薄膜、および該酸化物半導体薄膜を備えた薄膜トランジスタ、並びに上記酸化物半導体薄膜の形成に用いられるスパッタリングターゲットに関するものである。上記薄膜トランジスタを、以下、TFT(Thin Film Transistor)ということがある。

[2]

 アモルファス酸化物半導体は、汎用のアモルファスシリコンに比べて高いキャリア移動度を有している。またアモルファス酸化物半導体は、光学バンドギャップが大きく、低温で成膜できるため、大型・高解像度・高速駆動が要求される次世代ディスプレイや、耐熱性の低い樹脂基板などへの適用が期待されている。

[3]

 前記酸化物半導体を薄膜トランジスタの半導体層として用いる場合、薄膜トランジスタのスイッチング特性に優れていることが要求される。具体的には、(1)オン電流、即ち、ゲート電極とドレイン電極に正電圧をかけたときの最大ドレイン電流が高く、(2)オフ電流、即ち、ゲート電極に負電圧を、ドレイン電圧に正電圧を夫々かけたときのドレイン電流が低く、(3)S値(Subthreshold Swing)、即ち、ドレイン電流を1桁あげるのに必要なゲート電圧が低く、(4)しきい値電圧、即ち、ドレイン電極に正電圧をかけ、ゲート電圧に正負いずれかの電圧をかけたときにドレイン電流が流れ始める電圧が時間的に変化せずに安定であり、且つ(5)移動度が高いこと、などが要求される。

[4]

 酸化物半導体のなかでも特に、インジウム、ガリウム、亜鉛、および酸素からなるアモルファス酸化物半導体IGZOは、キャリア移動度が高いといわれている。例えば原子比でIn:Ga:Zn=1.1:1.1:0.9の酸化物半導体薄膜が薄膜トランジスタの半導体層に用いられている。特許文献1にも、前記In、Ga、ZnおよびOからなるアモルファス酸化物半導体材料が示されている。

[5]

 薄膜トランジスタには、前記スイッチング特性以外に、その製造工程に対する適合性も求められる。このことを以下、薄膜トランジスタの構造を用いて説明する。

[6]

 酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタの構造として種々の構造がある。該構造の概略断面図を、図1Aと図1Bに例示する。図1Aは、エッチストップ層9を有するエッチストップ(ES、Etch Stop)型のTFT、図1Bは、エッチストップ層9を有さないバックチャネルエッチ(BCE、Back Channel Etch)型のTFTの積層断面構造である。

[7]

 上記2パタンのTFTのうち、BCE型TFTは量産の観点から製造コストが低く、寄生容量が少ない点や短チャネル化が容易であるという点から注目されている。しかしBCE型TFTの場合、ソース・ドレイン電極の形成を、酸系エッチング液を用いウェットエッチングにより行う場合、酸化物半導体薄膜の表面(バックチャネル)が酸系エッチング液にさらされ、該表面が削れたり、該表面が荒れる、ダメージが入るなどし、結果としてトランジスタ特性やストレス耐性が低下するといった問題が生じうる。よってBCE型TFTに用いられる酸化物半導体薄膜には、上記酸系エッチング液に対する高い耐性が求められる。一方で、酸化物半導体薄膜には、この酸化物半導体薄膜自体をウェットエッチングにより加工する際に、エッチング液であるシュウ酸等の有機酸に対し適切な速度でエッチングされ、残渣無くパターニングできることも要求される。

[8]

 前記ソース・ドレイン電極加工に用いる酸系エッチング液にさらされたときの、酸化物半導体薄膜のエッチングの程度、即ちエッチング速度は、酸系エッチング液の種類によっても相違する。前述したIGZOは、リン酸、硝酸、酢酸などを含む汎用の無機酸系ウェットエッチング液によって極めて容易にエッチングされる。よって、該無機酸系ウェットエッチング液を用いてソース・ドレイン電極のパターニングを行うと、IGZO膜が消失して薄膜トランジスタ作製が困難であることや、トランジスタ特性が低下する等の問題が生じる。このような問題を解決するため、エッチング液として、IGZOをエッチングしない薬液、例えばNHFとHの混合液を用いることも検討されている。しかし上記薬液は寿命が短く不安定であるため、量産性に劣る。

[9]

 上記IGZOよりも無機酸系エッチング液に対する耐性の高い材料として、IGZOにSnを加えた酸化物半導体が特許文献2に記載されている。しかし上記特許文献2に記載の酸化物半導体は、移動度が高いもののS値は高い。また特許文献3にも、金属元素がIn、GaおよびSnから構成されるIn-Ga-Sn-O系の酸化物半導体が記載されているが、この酸化物半導体も、前述した薄膜トランジスタの特性に十分優れているとは言いがたい。また、前記酸系エッチング液として過酸化水素系エッチング液を用いる場合がある。よって、前記過酸化水素系エッチング液に対する高い耐性も求められる。

[10]

特許第4568828号公報特開2010-118407号公報特開2011-174134号公報

[11]

 本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、薄膜トランジスタの酸化物半導体薄膜であって、ウェットエッチング耐性に優れたもの、具体的には、ソース・ドレイン電極のパターニング時に使用の無機酸系エッチング液や過酸化水素系エッチング液などの酸系エッチング液に浸漬したときに、膜減りが抑えられると共に表面荒れが抑えられる酸化物半導体薄膜と;該酸化物半導体薄膜を備えた薄膜トランジスタと;該酸化物半導体薄膜の形成に用いられるスパッタリングターゲットと;を提供することにある。前記酸系エッチング液は、以下、ウェットエッチング液ともいう。また本発明において、前記「無機酸系エッチング液」とは、リン酸、硝酸、酢酸、塩酸、硫酸、およびフッ化水素酸よりなる群から選択される1種以上の酸を含むエッチング液をいい、過酸化水素系エッチング液と区別される。

[12]

 本明細書において上記「ウェットエッチング耐性に優れた」とは、特に、後記する実施例に記載の方法で、ソース・ドレイン電極を酸系エッチング液でパターニングしたときの膜減り量が規定の通り小さく、更にはエッチング速度も実施例の評価の通り小さく、かつパターニング後の表面粗さも規定の通り抑えられていることを意味する。本発明は、前記酸系エッチング液として、無機酸系エッチング液を用いた場合だけでなく過酸化水素系エッチング液を用いた場合であっても、ウェットエッチング耐性に優れた酸化物半導体薄膜を提供することを目的とする。該ウェットエッチング耐性に優れた酸化物半導体薄膜は、上記ウェットエッチング液によってエッチングされ難いため、酸化物半導体薄膜の表面側、即ちバックチャネル側が上記ウェットエッチング液によって削れたり、ダメージが入ること等によりトランジスタ特性が低下することもない。

[13]

 前記課題を解決し得た本発明の薄膜トランジスタの酸化物半導体薄膜は、基板上にゲート電極、ゲート絶縁膜、ソース・ドレイン電極、半導体層および保護膜を備えた薄膜トランジスタの、前記半導体層に用いられる酸化物半導体薄膜であって、金属元素としてIn、GaおよびSnと;Oと;で構成される酸化物からなり、該In、GaおよびSnの合計に対する各金属元素の原子数比が下記式(1)~(3)を全て満たし、かつ前記SnとInの原子数比であるSn/Inが0.50以上であるところに特徴がある。
  0.30≦In/(In+Ga+Sn)≦0.50 …(1)
  0.20≦Ga/(In+Ga+Sn)≦0.30 …(2)
  0.25≦Sn/(In+Ga+Sn)≦0.45 …(3)

[14]

 本発明の好ましい実施形態において、前記酸化物半導体薄膜の密度は6.0g/cm3以上である。

[15]

 本発明の好ましい実施形態において、前記酸化物半導体薄膜の膜厚は10nm以上、かつ200nm以下である。

[16]

 本発明の好ましい実施形態において、前記酸化物半導体薄膜上に形成される前記ソース・ドレイン電極のパターニングを、酸系エッチング液を用いて行った後の、前記酸化物半導体薄膜の膜減り量は5.0nm以下である。

[17]

 本発明の好ましい実施形態において、前記酸化物半導体薄膜上に形成される前記ソース・ドレイン電極のパターニングを、無機酸系エッチング液を用いて行った場合は、パターニング後の酸化物半導体薄膜の表面粗さRaが0.30nm以下であり、前記パターニングを、過酸化水素系エッチング液を用いて行った場合は、パターニング後の酸化物半導体薄膜の表面粗さRaが0.32nm以下である。

[18]

 本発明には、前記酸化物半導体薄膜を薄膜トランジスタの半導体層として備えた点に特徴を有する薄膜トランジスタも含まれる。

[19]

 本発明には更に、前記酸化物半導体薄膜の形成に用いられるスパッタリングターゲットも含まれる。該スパッタリングターゲットは、金属元素としてIn、GaおよびSnと;Oと;で構成される酸化物からなり、該In、GaおよびSnの合計に対する各金属元素の原子数比が下記式(1)~(3)を全て満たし、かつ前記SnとInの原子数比であるSn/Inが0.50以上であるところに特徴を有する。
  0.30≦In/(In+Ga+Sn)≦0.50 …(1)
  0.20≦Ga/(In+Ga+Sn)≦0.30 …(2)
  0.25≦Sn/(In+Ga+Sn)≦0.45 …(3)

[20]

 本発明の酸化物半導体薄膜を用いれば、特にウェットエッチング耐性に優れたBCE型TFTを形成することができる。本発明の酸化物半導体薄膜は、特に、ソース・ドレイン電極をパターニングする際に使用の酸系ウェットエッチング液に対して優れた耐性を示し、前記酸系ウェットエッチング液として、無機酸系エッチング液を用いる場合だけでなく過酸化水素系エッチング液を用いる場合にも優れた耐性を示す。これらの酸系ウェットエッチング液にさらされた後も、酸化物半導体薄膜の膜減りが抑制され、かつ表面粗さが低減されて、トランジスタ特性等の優れた酸化物半導体薄膜と;該酸化物半導体薄膜を備えたTFTと;を提供することができる。

[21]

 上記のように本発明の酸化物半導体薄膜は、ウェットエッチング耐性に優れているため、ES構造の薄膜トランジスタだけでなく、BCE構造の薄膜トランジスタに好適に用いることができる。

[22]

図1Aは、酸化物半導体薄膜を備え、エッチストップ層を用いたエッチストップ(ES)型薄膜トランジスタを説明するための概略断面図である。図1Bは、酸化物半導体薄膜を備え、エッチストップ層を用いないバックチャネルエッチ(BCE)型薄膜トランジスタの概略断面図である。

[23]

 本発明者らは、金属元素としてIn、Ga、およびSnを含む酸化物を薄膜トランジスタの半導体層に用いたときに、ウェットエッチング耐性を向上させる、結果として、より優れたトランジスタ特性の発揮を期待できるTFT実現のために検討を重ねてきた。その結果、In-Ga-Sn-O系酸化物におけるそれぞれの金属元素の原子数比と;前記SnとInの原子数比であるSn/Inと;を適切に制御することで、所期の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。

[24]

 すなわち、本発明の酸化物半導体薄膜は、基板上にゲート電極、ゲート絶縁膜、ソース・ドレイン電極、半導体層および保護膜を備えた薄膜トランジスタの、前記半導体層に用いられる酸化物半導体薄膜であって、該酸化物半導体薄膜は、金属元素としてIn、GaおよびSnと;Oと;で構成される酸化物からなり、該In、GaおよびSnの合計に対する各金属元素の原子数比が下記式(1)~(3)を全て満たし、かつ前記SnとInの原子数比であるSn/Inが0.50以上であるところに特徴がある。
  0.30≦In/(In+Ga+Sn)≦0.50 …(1)
  0.20≦Ga/(In+Ga+Sn)≦0.30 …(2)
  0.25≦Sn/(In+Ga+Sn)≦0.45 …(3)

[25]

 本明細書において前記Inとは、酸素を除く全金属元素、即ちIn、GaおよびSnの合計に対するInの含有量(原子%)を意味する。同様に、前記Ga、前記Snはそれぞれ、酸素(O)を除く全金属元素、即ちIn、GaおよびSnの合計に対するGa、Snの各含有量(原子%)を意味する。以下では、上記「In/(In+Ga+Sn)」を「In原子数比」、上記「Ga/(In+Ga+Sn)」を「Ga原子数比」、上記「Sn/(In+Ga+Sn)」を「Sn原子数比」ということがある。

[26]

 以下、本発明の酸化物半導体薄膜について詳しく説明する。

[27]

 本発明の酸化物半導体薄膜は、上記の通り、In、Ga,SnおよびOから構成されるアモルファス酸化物からなり、上記式を満足するものである。

[28]

 上記酸化物を構成する金属元素のうち、Inは電気伝導性の向上、Gaは酸素欠損の低減およびキャリア密度の制御、Snはウェットエッチング耐性の向上に寄与していると考えられる。

[29]

 以下、上記式(1)~(3)で表されるIn原子数比、Ga原子数比、Sn原子数比とSn/Inの、各範囲を規定した理由について説明する。

[30]

 In原子数比について
 上記式(1)で示したIn原子数比についてまず述べる。このIn原子数比が大きくなるほど、即ち、金属元素に占めるIn量が多くなるほど、酸化物半導体薄膜の導電性が向上するため電界効果移動度は増加する。該作用を有効に発揮させるには、上記In原子数比を0.30以上とする必要がある。上記In原子数比は、好ましくは0.31以上、より好ましくは0.35以上、更に好ましくは0.40以上である。但し、In原子数比が大き過ぎると、キャリア密度が増加しすぎてしきい値電圧が低下するなどの問題があるため、0.50以下とする。In原子数比は、好ましくは0.48以下、より好ましくは0.45以下である。

[31]

 Ga原子数比について
 次に上記式(2)で示したGa原子数比について述べる。Ga原子数比が大きいほど、酸化物半導体薄膜の電気的安定性が向上し、キャリアの過剰発生を抑制する効果を発揮する。上記作用を更に有効に発揮させるには、Ga原子数比を0.20以上とする必要がある。上記Ga原子数比は、好ましくは0.22以上、より好ましくは0.25以上である。但し、Ga原子数比が大き過ぎると、酸化物半導体薄膜の導電性が低下して電界効果移動度が低下しやすくなる。よってGa原子数比は、0.30以下とする。Ga原子数比は、好ましくは0.28以下である。

[32]

 Sn原子数比について
 上記式(3)で示したSn原子数比について述べる。Sn原子数比が大きいほど、酸化物半導体薄膜の酸系エッチング液に対する耐性は向上する。該作用を更に有効に発揮させるには、Sn原子数比を0.25以上とする必要がある。Sn原子数比は、好ましくは0.30以上、より好ましくは0.31以上、更に好ましくは0.35以上である。一方、Sn原子数比が大き過ぎると、酸化物半導体薄膜の電界効果移動度が低下すると共に、酸系エッチング液に対する耐性が必要以上に高まり、酸化物半導体薄膜自体の加工が困難になる。よってSn原子数比は0.45以下とする。Sn原子数比は、好ましくは0.40以下、より好ましくは0.38以下である。

[33]

 Sn/In:0.50以上
 上記Sn原子数比の範囲を満たすと共に、前記Inに対するSnの原子数比:Sn/Inが高くなるほど、酸系エッチング液に対する耐性がより向上して表面の平滑性を確保できる。これは、SnよりもInの方が還元されやすい元素であるため上記Sn/Inが高い、即ち、Inに対してSnの原子数比が高い方が、酸系エッチング液に対する表面粗さをより抑えることができることを意味している。この観点から、上記Sn/Inは0.50以上とする。上記Sn/Inは、0.53以上であることが好ましく、0.55以上であることがより好ましく、更に好ましくは0.70以上である。尚、Sn/Inの上限は、Sn原子数比とIn原子数比の各範囲を考慮すると1.5となる。

[34]

 上記式(1)~(3)の全てと、前記Sn/Inを満たす組成とすることによって、酸系エッチング液に対する膜減りが抑えられ、またソース・ドレイン電極形成時に使用の酸系エッチング液に浸漬後、更には熱処理を施した後も、酸化物半導体薄膜の高い表面平滑性を確保することができる。

[35]

 具体的には、前記酸化物半導体薄膜上に形成されるソース・ドレイン電極のパターニングを、酸系エッチング液を用いて行ったときに、前記酸化物半導体薄膜の膜減り量:5.0nm以下を達成することができる。前記膜減り量は、好ましくは3nm以下であり、最も好ましくは0nmである。

[36]

 また、前記酸化物半導体薄膜上に形成されるソース・ドレイン電極のパターニングを、無機酸系エッチング液を用いて行った場合は、パターニング後の酸化物半導体薄膜の表面粗さRaを0.30nm以下、更には0.28nm以下、より更には0.27nm以下に抑えることができる。また前記パターニングを、過酸化水素系エッチング液を用いて行った場合は、パターニング後の酸化物半導体薄膜の表面粗さRaを0.32nm以下、更には0.30nm以下、より更には0.28nm以下に抑えることができる。

[37]

 前記ソース・ドレイン電極の形成後、熱処理を行うことがある。該熱処理後においても、前記酸化物半導体薄膜の表面粗さ(Ra)が低く保たれていることが好ましい。具体的に、前記パターニングを、無機酸系エッチング液を用いて行った場合は、熱処理後の酸化物半導体薄膜の表面粗さRaが0.32nm以下に抑えられていることが好ましく、より好ましくは0.30nm以下、更に好ましくは0.28nm以下である。また前記パターニングを、過酸化水素系エッチング液を用いて行った場合は、熱処理後の酸化物半導体薄膜の表面粗さRaが0.34nm以下に抑えられていることが好ましく、より好ましくは0.32nm以下、更に好ましくは0.30nm以下である。

[38]

 本発明で規定の酸化物半導体薄膜の組成はZnを含まないため、該酸化物半導体薄膜形成後の熱処理やN2Oプラズマ処理において、Znの還元に伴う表面粗さの増加を抑制できる。その結果、上記熱処理やN2Oプラズマ処理を経た後の平滑性を高く保つことができる。

[39]

 以上、本発明に用いられる酸化物半導体薄膜について説明した。

[40]

 上記酸化物半導体薄膜は、スパッタリング法の他、塗布法などの成膜法によって形成することもできる。好ましくはスパッタリング法にてスパッタリングターゲットを用いて成膜することである。以下、前記スパッタリングターゲットを単に「ターゲット」ということがある。スパッタリング法によれば、成分や膜厚の膜面内均一性に優れた薄膜を容易に形成することができる。

[41]

 スパッタリング法に用いられるターゲットとして、前述した元素を含み、所望の酸化物と同一組成のスパッタリングターゲットを用いることが好ましく、これにより、組成ズレが少なく、所望の成分組成の薄膜を形成することができる。具体的には金属元素としてIn、GaおよびSnを含む酸化物からなり、該In、GaおよびSnの合計に対する各金属元素の原子数比が下記式(1)~(3)を満たし、かつ前記SnとInの原子数比であるSn/Inが0.50以上である点に特徴があるスパッタリングターゲットを用いることが推奨される。
  0.30≦In/(In+Ga+Sn)≦0.50 …(1)
  0.20≦Ga/(In+Ga+Sn)≦0.30 …(2)
  0.25≦Sn/(In+Ga+Sn)≦0.45 …(3)

[42]

 あるいは、組成の異なる二つのターゲットを同時放電するコンビナトリアルスパッタ法を用いても成膜しても良い。例えばIn、Ga、SnOなど、In、Ga、およびSnの各元素の酸化物ターゲット、または上記元素の少なくとも2種以上を含む混合物の酸化物ターゲットを用いることもできる。また、In等の元素を含む純金属ターゲットや合金ターゲットを、単数または複数用い、雰囲気ガスとして酸素を供給しながら成膜することも挙げられる。例えば後述する実施例に示す通り、前記Oを除くIn、Ga、およびSnが上記(1)~(3)を満たし、かつ前記SnとInの原子数比であるSn/Inが0.50以上である合金ターゲットを用い、雰囲気ガスとして酸素を供給しながら成膜することが挙げられる。

[43]

 上記ターゲットは、例えば粉末焼結法によって製造することができる。

[44]

 上記ターゲットを用いてスパッタリング法で成膜する場合、スパッタリング成膜時に薄膜中から離脱する酸素を補間し、酸化物半導体薄膜の密度をできるだけ高く、後述の通り好ましくは6.0g/cm3以上とするには、成膜時のガス圧、酸素の分圧、スパッタリングターゲットへの投入パワー、基板温度、スパッタリングターゲットと基板との距離であるT-S間距離などを適切に制御することが好ましい。

[45]

 具体的には、例えば、下記スパッタリング条件で成膜することが好ましい。

[46]

 成膜時の好ましいガス圧は、おおむね1~3mTorrである。このように、スパッタの放電が安定する程度にガス圧を低くすると、スパッタ原子同士の散乱がなくなって緻密な、即ち高密度な膜を成膜できると考えられる。

[47]

 酸素添加量は、前記酸化物半導体薄膜が半導体として動作を示すよう、スパッタリング装置、ターゲットの組成、薄膜トランジスタ作製プロセスなどに応じて、適切に制御すれば良い。後記する実施例では、添加流量比で100×O/(Ar+O)=4%とした。

[48]

 投入パワーは高い程良く、DCまたはRFでおおむね2.0W/cm2以上に設定することが推奨される。

[49]

 成膜時の基板温度は、おおむね室温~200℃の範囲内に制御することが推奨される。

[50]

 更に酸化物半導体薄膜中の欠陥量は、成膜後の熱処理条件によっても影響を受けるため、適切に制御することが好ましい。成膜後の熱処理条件は、例えば、大気雰囲気下にて、おおむね、250~400℃で10分~3時間行うことが推奨される。上記熱処理として、具体的に例えば、後述するプレアニール処理、即ち、酸化物薄膜をウェットエッチングして酸化物半導体薄膜を形成直後に行う熱処理が挙げられる。

[51]

 前記酸化物半導体薄膜の好ましい膜厚は、10nm以上、更には20nm以上とすることができ、200nm以下、更には100nm以下、更には90nm以下、更には80nm以下とすることができる。

[52]

 本発明には、上記酸化物半導体薄膜を薄膜トランジスタの半導体層として備えた薄膜トランジスタも包含される。薄膜トランジスタは、基板上に、ゲート電極、ゲート絶縁膜、ソース・ドレイン電極、半導体層および保護膜を少なくとも有していれば良く、その構成は通常用いられるものであれば特に限定されない。特には、上述の通りエッチストップ層を有しない前記図1Bに示すようなBCE型のTFTに、本発明の酸化物半導体薄膜を用いれば効果が存分に発揮される。

[53]

 上記酸化物半導体薄膜の密度は6.0g/cm3以上であることが好ましい。酸化物半導体薄膜の密度が高くなると、膜中の欠陥が減少して膜質が向上するためキャリア密度を適切な範囲に制御することができる。また原子間距離が小さくなるため、薄膜トランジスタの電界効果移動度が大きく増加する。上記酸化物半導体薄膜の密度は高い程良く、より好ましくは6.1g/cm3以上であり、更に好ましくは6.2g/cm3以上である。なお、該密度の上限は、おおよそ6.4g/cm3程度となる。上記酸化物半導体薄膜の密度は、例えば下記の方法によって測定できる。

[54]

[規則91に基づく訂正 18.12.2015] 
 上記酸化物半導体薄膜の密度は、X線反射率法(XRR、X-Ray Reflectometry analysis)を用い、下記の測定条件で測定することができる。
  (測定条件)
・分析装置:(株)リガク製水平型X線回折装置SmartLab
・ターゲット:Cu(線源:Kα線)
・ターゲット出力:45kV-200mA
・膜密度測定用試料の作製:ガラス基板上に、膜厚100nmの酸化物膜を下記スパッタリング条件で成膜した後、TFT製造過程におけるプレアニール処理を模擬して、大気雰囲気にて350℃で1時間の熱処理を施したものを試料とする。
スパッタガス圧:1mTorr、3mTorrまたは5mTorr
酸素分圧:100×O2/(Ar+O2)=2%
成膜パワー密度:DC2.55W/cm2

[55]

 以下、上記図1Bを参照しながら、本発明の薄膜トランジスタおよびその製造方法の好ましい実施形態を説明する。尚、上記図および以下の製造方法は、本発明の好ましい実施形態の一例を示すものであり、これに限定する趣旨ではない。例えば図1Bには、ボトムゲート型構造の薄膜トランジスタを示しているがこれに限定されず、酸化物半導体薄膜の上にゲート絶縁膜とゲート電極を順に備えるトップゲート型の薄膜トランジスタであっても良い。

[56]

 図1Bでは、基板1上にゲート電極2およびゲート絶縁膜3が形成され、その上に酸化物半導体薄膜4が形成されている。酸化物半導体薄膜4上にはこの酸化物半導体薄膜4と電気的に接続しているソース・ドレイン電極5が形成されている。更には保護膜6が形成され、コンタクトホール7を介して透明導電膜8がドレイン電極5に電気的に接続されている。

[57]

 基板1上にゲート電極2およびゲート絶縁膜3を形成する方法は特に限定されず、通常用いられる方法を採用することができる。また、ゲート電極2およびゲート絶縁膜3の種類も特に限定されず、汎用されているものを用いることができる。例えばゲート電極2として、電気抵抗率の低い、純AlやAl合金のAl系金属や純CuやCu合金のCu系金属;耐熱性の高い、Mo、Cr、Tiなどの高融点金属やこれらの合金;を好ましく用いることができる。また、ゲート絶縁膜としては、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、シリコン酸窒化膜などが代表的に例示される。ゲート絶縁膜として、その他、AlやYなどの酸化物や、これらを積層したものを用いることもできる。

[58]

 次いで半導体層として、酸化物半導体薄膜4を形成する。酸化物半導体薄膜4は、上述したように、酸化物半導体薄膜4と同組成のスパッタリングターゲットを用いたDCスパッタリング法またはRFスパッタリング法により酸化物薄膜を形成することが好ましい。

[59]

 酸化物薄膜を形成した後、ウェットエッチングによりパターニングを行う。酸化物薄膜のパターニング後であってソース・ドレイン電極5の形成前には、酸化物半導体薄膜4の膜質改善のために熱処理(プレアニール)を行うことが好ましく、これにより、トランジスタ特性のオン電流および電界効果移動度を高めることができ、結果としてトランジスタ性能の向上を図ることができる。

[60]

 次いでソース・ドレイン電極5を形成する。ソース・ドレイン電極5の種類は特に限定されず、汎用されているもの用いることができる。例えば前記ゲート電極2と同様に、Mo等の高融点金属や該金属を含む合金;Al系金属;Cu系金属;等を用いることができる。

[61]

 ソース・ドレイン電極5の形成方法としては、例えばマグネトロンスパッタリング法によって金属薄膜を成膜した後、フォトリソグラフィによりパターニングし、ウェットエッチングを行ってソース・ドレイン電極を形成することができる。前記ウェットエッチングには、後述する実施例で使用の通り、無機酸系エッチング液や過酸化水素系エッチング液を用いることができる。

[62]

 ソース・ドレイン電極5形成後であって保護膜6の形成前に、酸化物表面のダメージ回復のため、必要に応じて熱処理(200℃~300℃)やN2Oプラズマ処理を施してもよい。

[63]

 次に、酸化物半導体薄膜4とソース・ドレイン電極5の上に保護膜6をCVD(Chemical Vapor Deposition)法によって成膜する。保護膜6として、例えば上層をシリコン窒化膜、下層をシリコン酸化膜とした積層膜を使用することが挙げられる。これに限らずシリコン酸窒化膜や、AlやYなどの酸化物や、これらを積層したものを用いることもできる。具体的には、保護膜6として、膜厚100nmのSiO2膜と膜厚150nmのSiNx膜を積層させた合計膜厚が250nmの積層膜を形成することが挙げられる。上記SiO2膜の形成にはSiH4、N2およびN2Oの混合ガスを用い、上記SiNx膜の形成にはSiH4、N2、NH3の混合ガスを用い、いずれの場合も成膜条件として例えば、成膜パワー密度:0.32W/cm2、成膜温度:200℃、成膜時のガス圧:133Paとすることが挙げられる。

[64]

 次に、常法に基づき、コンタクトホール7を介して透明導電膜8をドレイン電極5に電気的に接続する。透明導電膜の種類は特に限定されず、通常用いられるものを使用することができる。例えば膜厚80nmのITO膜を、DCスパッタリング法を用い、キャリアガス:アルゴンおよび酸素ガスの混合ガス、成膜パワー:200W、ガス圧:5mTorrの条件で成膜することが挙げられる。

[65]

 本願は、2014年9月2日に出願された日本国特許出願第2014-178470号に基づく優先権の利益を主張するものである。2014年9月2日に出願された日本国特許出願第2014-178470号の明細書の全内容が、本願の参考のため援用される。

[66]

 以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。

[67]

 即ち、下記実施例では、酸化物半導体薄膜のウェットエッチング耐性を評価した。詳細には、図1Bに示す薄膜トランジスタの、ソース・ドレイン電極5までを形成するにあたり、該ソース・ドレイン電極5形成時に使用の、酸系エッチング液に対する酸化物半導体薄膜の耐性を評価した。本実施例ではこの様に、薄膜トランジスタのソース・ドレイン電極まで形成したサンプルを用いているが、本発明には、上述したソース・ドレイン電極形成後の工程を進めて形成されるTFTも含まれる。

[68]

 まず、ガラス基板1(コーニング社製イーグル2000、直径100mm×厚さ0.7mm)上に、ゲート電極2として膜厚100nmの純Mo薄膜と、ゲート絶縁膜3として膜厚200nmのSiO膜とを順次成膜した。ゲート電極2は純Moのスパッタリングターゲットを使用し、DCスパッタリング法により形成した。スパッタリング条件は、成膜温度:室温、成膜パワー密度:3.8W/cm2、キャリアガス:Ar、成膜時のガス圧:2mTorr、Arガス流量:20sccmとした。また、ゲート絶縁膜3はプラズマCVD法を用い、キャリアガス:SiH4とN2Oの混合ガス、成膜パワー密度:127W/cm2、成膜温度:320℃、成膜時のガス圧:133Paの条件で成膜した。

[69]

 次に、膜厚40nmの酸化物半導体薄膜を形成した。詳細には、下記表1に記載の通り金属元素の組成が種々のIn-Ga-Sn-O膜を、金属元素の組成が当該膜に近い組成である各スパッタリングターゲットを用い、下記条件でスパッタリングを行い、酸化物薄膜を形成した。尚、前記In-Ga-Sn-O膜の膜密度を上述した方法で測定したところ、いずれも約6.4g/cm3であった。
 (スパッタリング条件)
  スパッタリング装置:株式会社アルバック製「CS-200」
  基板温度:室温
  ガス圧:1mTorr
  酸素分圧:100×O/(Ar+O)=4%
  成膜パワー密度:2.55W/cm2

[70]

 また比較例として、In-Ga-Zn-Oからなる酸化物薄膜や、In-Ga-Zn-Sn-Oからなる酸化物薄膜、更には純Mo膜、純Al膜、純Cu膜も同様に形成した。尚、前記純Mo膜、純Al膜、および純Cu膜の成膜時、雰囲気ガスはArのみとした。前記In-Ga-Zn-Oからなる酸化物薄膜と前記In-Ga-Zn-Sn-Oからなる酸化物薄膜の、表1におけるIn原子数比、Ga原子数比、Sn原子数比、およびSn/Inは、Znを除いて算出した値である。

[71]

 尚、酸化物半導体薄膜4の金属元素の各含有量の分析は、Si基板上に膜厚40nmの各酸化物半導体薄膜を上記と同様にしてスパッタリング法で形成した試料を別途用意して行った。該分析は、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)法により行った。詳細には、酸化物半導体薄膜の最表面から5nm程度深さまでの範囲をArイオンにてスパッタリングした後、下記条件にて分析を行った。
  X線源:Al Kα
  X線出力:350W
  光電子取り出し角:20°

[72]

 上記のようにして酸化物薄膜を成膜した後、フォトリソグラフィおよびウェットエッチングにより酸化物薄膜のパターニングを行って酸化物半導体薄膜4を形成した。前記ウェットエッチングでは、酸系エッチング液として関東化学株式会社製「ITO-07N」を使用した。本実施例では、実験を行った全ての酸化物半導体薄膜について、ウェットエッチングによる残渣はなく、適切にエッチングできたことを確認している。

[73]

 上記の通りパターニングした後、得られた酸化物半導体薄膜4の膜質向上のため、プレアニールを行った。該プレアニールは大気雰囲気にて350℃で1時間行った。

[74]

 次に、ソース・ドレイン電極5を形成するため、膜厚200nmの純Mo膜を、スパッタリング法により酸化物半導体薄膜4上に成膜した。上記純Mo膜の成膜条件は、投入パワー:DC300W、ガス圧:2mTorr、基板温度:室温とした。

[75]

 次いで、フォトリソグラフィおよびウェットエッチングにより上記純Mo膜のパターニングを行ってソース・ドレイン電極5を形成した。本実施例では、下記に示す通りこの工程で酸化物半導体薄膜4のウェットエッチング耐性を評価した。詳細には下記の通りである。

[76]

 [ウェットエッチング耐性の評価]
 前記純Mo膜のウェットエッチングでは、酸系エッチング液として、リン酸:硝酸:酢酸が質量比で70:2:10の混合液からなり液温が室温の混酸エッチング液、即ち、無機酸系エッチング液を用いるか、または、一般的なCuエッチング液として使用されるフッ素原子を含まない過酸化水素の濃度が20質量%の過酸化水素水であって液温が35℃の過酸化水素系エッチング液を用いた。前記純Mo膜の膜厚200nmに対してオーバーエッチ50%を実施した。

[77]

 上記ウェットエッチング前後の酸化物半導体薄膜4の膜厚の変化として、酸化物半導体薄膜4の膜減り量を、次の様にして測定した。まず酸化物半導体薄膜4が酸系エッチング液にさらされて膜厚が最も減少した箇所の膜厚、即ち最小膜厚を測定した。測定は触針式表面プロファイラーを使って、酸化物半導体薄膜4の段差部分を異なる3点で実施し、その平均値を膜厚とした。次いで、ソース・ドレイン電極5下の酸化物半導体薄膜4、即ち、酸系エッチング液にさらされていない酸化物半導体薄膜4の膜厚から、前記最小膜厚を差し引いて膜減り量を求めた。更に、該膜減り量をエッチング時間で割って、エッチング速度を算出した。

[78]

 そして上記2種類の酸系エッチング液のいずれの場合も、膜減り量を次の通り評価した。即ち、膜減り量が、0nmの場合を優良、0nm超5.0nm以下の範囲内にある場合を良、5.0nm超の場合を不良と評価した。本実施例においては更に、エッチング速度についても次の通り評価した。即ち、エッチング速度が、0nm/minの場合を優良、0nm/min超6nm/min以下の範囲内にある場合を良、6nm/min超の場合を不良と評価した。

[79]

 この評価で合格の酸化物半導体薄膜は、ソース・ドレイン電極5形成のためのウェットエッチング加工時に、酸化物半導体薄膜4の保護膜6側の表面が、酸系エッチング液により削れたり、ダメージを受けず、結果として、トランジスタ特性やストレス耐性に優れたTFTが得られることを意味する。

[80]

 尚、前記純Mo膜、純Al膜、純Cu膜は、上記2種類の酸系エッチング液のいずれの場合もエッチングの程度が著しかったため、エッチング速度のみ求めた。その結果、無機酸系エッチング液を用いた場合、純Mo膜、純Al膜、純Cu膜それぞれのエッチング速度は、500nm/min、63nm/min、514nm/minであった。また過酸化水素系エッチング液を用いた場合、純Mo膜のエッチング速度は189nm/min、純Cu膜のエッチング速度は195nm/minであった。

[81]

[規則91に基づく訂正 18.12.2015] 
 [表面粗さの測定]
 更に上記各酸系エッチング液に浸漬前後のサンプル表面、具体的には、上記純Mo膜で覆われておらず上記各酸系エッチング液にさらされた酸化物半導体薄膜表面の、算術平均粗さRa(JIS B 0601 2013)を下記の条件で測定した。更には、酸化物半導体薄膜4表面のダメージ回復を模擬した熱処理後、詳細には大気雰囲気にて300℃で30分間の熱処理後についても、酸化物半導体薄膜表面の算術平均粗さを同様に測定した。
  (表面粗さの測定条件)
  分析装置:走査型プローブ顕微鏡
      Digital Instruments社製 NanoscopeIIIa
  観察モード:原子間力顕微鏡(AFM Atomic Force Microscope)
  測定範囲:10μm×10μm

[82]

 そして、酸系エッチング液が無機酸系エッチング液である場合、表面粗さRaが0.30nm以下の場合を合格、表面粗さRaが0.30nm超の場合を不合格と評価した。また、酸系エッチング液が過酸化水素系エッチング液である場合は、表面粗さRaが0.32nm以下の場合を合格、表面粗さRaが0.32nm超の場合を不合格と評価した。

[83]

 更には、前記熱処理後の表面粗さRaについても評価した。詳細には、酸系エッチング液が無機酸系エッチング液である場合、熱処理後の表面粗さRaが0.30nm以下である場合を優良、熱処理後の表面粗さRaが0.30nm超0.32nm以下の範囲内にある場合を良、熱処理後の表面粗さRaが0.32nm超である場合を不良と評価した。また、酸系エッチング液が過酸化水素系エッチング液である場合、熱処理後の表面粗さRaが0.30nm以下である場合を優良、熱処理後の表面粗さRaが0.30nm超0.34nm以下の範囲内にある場合を良、熱処理後の表面粗さRaが0.34nm超である場合を不良と評価した。

[84]

 これらの結果を酸系エッチング液の種類別に表1および表2に示す。

[85]

TIFF00000001.tif212.252.4

[86]

TIFF00000002.tif212.252.4

[87]

 表1および表2より次のことがわかる。エッチング液が、無機酸系エッチング液と過酸化水素系エッチング液のいずれの場合も、No.1やNo.3の通りZnを含むものであってSn原子数比が0.25を下回る場合には、膜減り量が5.0nm以上であり大きくなった。特にNo.1はSnを含んでおらず、エッチング液として無機酸系エッチング液を用いた場合の膜減り量が著しく大きくなった。

[88]

 またNo.2は、Znを含むものであってかつGa原子数比が過剰の例である。このNo.2は、エッチング液として無機酸系エッチング液を用いた場合は、膜減り量がゼロであり、ウェットエッチング耐性に優れているが、エッチング液として過酸化水素系エッチング液を用いた場合には、膜減りが生じてウェットエッチング耐性に劣る結果となった。

[89]

 更に、前記純Mo膜、純Al膜、純Cu膜の場合、上記2種類の酸系エッチング液のいずれを用いた場合も、前述の通りエッチング速度がかなり速く、エッチングが著しかった。

[90]

 これに対し、表1のNo.4~6は式(1)~(3)の全てを満たし、かつSn/Inも規定を満たしているため、膜減り量が抑えられてエッチング速度が十分小さいかゼロであり、また酸系エッチング液浸漬後の表面粗さも小さかった。更には熱処理後の表面粗さも小さかった。

[91]

 上記No.4~6においては、Sn/Inが大きいほど、エッチング液浸漬前後や熱処理後の表面粗さRaがより小さくなり、表面平滑性が保たれることがわかる。上記No.4および5と、No.6との対比から、酸系エッチング液浸漬後および熱処理後のいずれも表面粗さを0.30nm以下に抑えるには、Sn/Inをより高めるのが好ましいことがわかる。

[92]

 尚、酸化物半導体薄膜の表面粗さは、無機酸系エッチング液を用いた場合よりも過酸化水素系エッチング液を用いた場合の方が、全体的にやや大きくなる傾向にある。しかし、表1と表2における組成の違いによる表面粗さの傾向は、過酸化水素系エッチング液と無機酸系エッチング液を用いた場合で同じであることがわかる。

[93]

 1 基板
 2 ゲート電極
 3 ゲート絶縁膜
 4 酸化物半導体薄膜
 5 ソース・ドレイン電極
 6 保護膜
 7 コンタクトホール
 8 透明導電膜
 9 エッチストップ層



[1]

Provided is an oxide semiconductor thin film of a thin film transistor, which has excellent wet etching resistance, specifically an oxide semiconductor thin film which is suppressed in film thinning even if immersed in an inorganic acid type or hydrogen peroxide type acid-based etching liquid when a source/drain electrode formed on the oxide semiconductor thin film is subjected to patterning, thereby being suppressed in surface roughening. This oxide semiconductor thin film is used for the semiconductor layer of a thin film transistor, and is characterized in that: the oxide semiconductor thin film is formed of an oxide that is configured of O and metal elements, namely In, Ga and Sn; the atomic ratios of In, Ga and Sn satisfy 0.30 ≤ In/(In + Ga + Sn) ≤ 0.50, 0.20 ≤ Ga/(In + Ga + Sn) ≤ 0.30 and 0.25 ≤ Sn/(In + Ga + Sn) ≤ 0.45, respectively; and the atomic ratio of Sn to In, namely Sn/In is 0.50 or more.

[2]



 基板上にゲート電極、ゲート絶縁膜、ソース・ドレイン電極、半導体層および保護膜を備えた薄膜トランジスタの、前記半導体層に用いられる酸化物半導体薄膜であって、
 金属元素としてIn、GaおよびSnと;Oと;で構成される酸化物からなり、該In、GaおよびSnの合計に対する各金属元素の原子数比が下記式(1)~(3)を全て満たし、かつ前記SnとInの原子数比であるSn/Inが0.50以上であることを特徴とする薄膜トランジスタの酸化物半導体薄膜。
  0.30≦In/(In+Ga+Sn)≦0.50 …(1)
  0.20≦Ga/(In+Ga+Sn)≦0.30 …(2)
  0.25≦Sn/(In+Ga+Sn)≦0.45 …(3)

 前記酸化物半導体薄膜の密度は6.0g/cm3以上である請求項1に記載の酸化物半導体薄膜。

 前記酸化物半導体薄膜の膜厚は10nm以上、かつ200nm以下である請求項1に記載の酸化物半導体薄膜。

 前記酸化物半導体薄膜上に形成される前記ソース・ドレイン電極のパターニングを、酸系エッチング液を用いて行った後の、前記酸化物半導体薄膜の膜減り量が5.0nm以下である請求項1に記載の酸化物半導体薄膜。

 前記酸化物半導体薄膜上に形成される前記ソース・ドレイン電極のパターニングを、無機酸系エッチング液を用いて行った場合は、パターニング後の酸化物半導体薄膜の表面粗さRaが0.30nm以下であり、前記パターニングを、過酸化水素系エッチング液を用いて行った場合は、パターニング後の酸化物半導体薄膜の表面粗さRaが0.32nm以下である請求項1に記載の酸化物半導体薄膜。

 請求項1~5のいずれかに記載の酸化物半導体薄膜を薄膜トランジスタの半導体層として備えたことを特徴とする薄膜トランジスタ。

 請求項1~5のいずれかに記載の酸化物半導体薄膜の形成に用いられるスパッタリングターゲットであって、
 金属元素としてIn、GaおよびSnと;Oと;で構成される酸化物からなり、該In、GaおよびSnの合計に対する各金属元素の原子数比が下記式(1)~(3)を全て満たし、かつ前記SnとInの原子数比であるSn/Inが0.50以上であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
  0.30≦In/(In+Ga+Sn)≦0.50 …(1)
  0.20≦Ga/(In+Ga+Sn)≦0.30 …(2)
  0.25≦Sn/(In+Ga+Sn)≦0.45 …(3)